表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女な王子と魔獣騎士【WEB版】  作者: 柊遊馬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/159

第55話、マギサ・カマラ


 多種多様な亜人たちで賑わう亜人集落にやってきたジュダたち。昨今の人類と亜人の関係を考えれば、得体の知れない人間の集団に対して、警戒心を抱かれるのは無理もない。

 ジュダは顔をしかめる。

 特に要注意なのは、傭兵をやっているようなロウガやアラクダ、虎亜人(ティグルス人)。これらは目を合わせた時点で、ほぼ荒事となるのが始末が悪い。


「ジュダ」


 ジャクリーン教官が警戒感も露わに声をかけてきた。騎士鎧に外套姿の彼女は、その手に鞘に収めた長刀を持っている。何かあればいつでも受けて立つと周囲を威圧しているようだった。


 これもまた無理もないところである。ジュダも気づいているが、すでに何人かの亜人が、ジュダたちに警戒の視線を向けていた。

 集落に人間が完全にいないわけではないが、武装した騎士やその見習い騎士、従者と来ればこちらの出方を窺う者がいても不思議はない。


 ザウラ(トカゲ顔)人の戦士、アラクダ人の傭兵がじっとこちらを観察し、若いクーストース人が歯を見せ低く唸り声を上げると、隣にいた同族に頭を小突かれていた。


「ジュダ兄ー!」


 トニが駆けてきた。声の方を見た瞬間、揺れる彼女の双房が飛び込み、ジュダはばつも悪く俯いた。……視線うんぬんかんぬん。


「トニ、はしたないぞ」


 ラウディがたまらず言えば、トニはキョトンとして、次の瞬間小さく笑った。


「人間さんのほうが着込み過ぎなんだよ」


 仕方なしに服を取りに馬車へ駆け込むトニ。中で着替えるかと思いきや、薄手のワンピースドレスを引っ張り出すと、その場で被るように着込む。


「それで、戻ってきたということは、見つけたのか? マギサ・カマラは」

「うん、ウルペさんのテントの場所は聞いてきた」


 よっと、と服のズレを直して姿勢を正す。自身の尻尾の位置を確かめる褐色肌の少女。

 それを眺め、たしかに亜人種も結構な割合で、人間に比べると薄着だなとジュダは思った。エクートは問題外としても、深い体毛を持つ種族もいるから、人間ほど服にこだわらないのだ。


 一方で厚着している種族もいる。昼間の直射日光を嫌って天幕の影にいたり、フードを深々と被っている亜人も少なからずいた。


「それじゃトニ、案内を頼むよ。……リーレ」


 ジュダが合図すると、リーレは心得たとばかりに御者台の上から頷き返した。必要としていた助手とは、要するに馬の番である。彼女を馬車の見張りに残し、ジュダたちは、マギサ・カマラというウルペ人がいる天幕へと向かう。


 トニを先頭に、ジュダ、すぐ横に顔を隠したラウディ。その背後にメイア、最後尾にジャクリーン教官が続く。

先ほどより、周囲の視線が集まっている気がする。人間の商人の一団がいないわけでもないのに、何故だろうと考え――ふと、外套付きとはいえ騎士の正装をしているジャクリーンがいるせいだと気づいた。人間の騎士が亜人集落で何をしているのか、という警戒感だろう。


 とはいえ、向こうから避けてくれるなら、面倒がなくていいとジュダは思う。心の底では、亜人たちからいわれのない罵詈雑言を浴びせられているとしても、だ。


 やがて、目的の天幕に到着した。

 ほのかに柑橘系の匂いが漂っているのは、おそらく一部の亜人種除けだろう。例えばウルペ人と関係のよろしくない犬系亜人とか。


 天幕自体は、真っ黒な布地で覆われていた。大きくもないそれは、直射日光はおろか外から中の様子を窺うことも許さなかった。

 ジュダは振り返る。


「あなたはどうします、ラウディ?」


 ついてきますか、と問えば、王子殿下はコクコクと頷いた。


「もちろん」

「わかりました。トニ、外で待ってろ。ジャクリーン教官もよろしいですね?」

「ああ、見張ってる」

「いってらっしゃーい」


 騎士教官と馬亜人の少女が答えた。侍女のメイアには何も言わなかったが、ラウディが天幕に入るなら当然同行するだろう。


 ジュダは天幕の入り口を開き、中に入った。太陽の光から一点、暗闇に感じられるくらい薄暗い。天井に吊るされたランタンから、ほのかな明かりがこぼれている。


 ウルペ人は、どちらかといえば暗がりを好む。マギサ・カマラは占い事をしているという話だが、どこか得たいの知れない空気を感じさせた。ラウディなどは雰囲気に気圧されたか、ゴクリと喉を鳴らす。


 中の匂いは一段ときつかった。強い香水でもバラまいたのか。ジュダは鼻を押さえた。


「フロッガ・プロセン・プロキドー」


 艶を感じさせる女性の声が呪文のように響いた。


 ぼんやりと浮かび上がるは、夜空を溶かし込んだような不思議な光沢のある闇色のローブを身に纏った人物。

 ジュダは口元を皮肉っぽく歪めた。


「ヴォル・ア・ローガ。ゲシュテゴーヴァ・ステァ」


 ウルペ女が顔を上げた。

 美女だった。黄金色の長い髪、頭のやや高い部分に茶褐色の獣耳――狐亜人のそれがある。切れ長の目、その黄金色の瞳は薄暗い天幕の中でも、わずかに輝いて見える。


 大人の女性であるが、見ようによっては二〇代半ばから三〇代半ばと、意見が分かれるかもしれない。レーヴェンティン教官もそうだが、年齢について少し悩んでしまう外見の持ち主である。想像していたより若く見える。もちろん、実年齢についてはわからないが。


 ラウディが小声で突付いてきた。


「ジュダ。何を話したんだ?」

「フロッガ・プロセン・プロキドー……『炎の神に、祈りと誓いを』」


 ジュダは同じく小声で返した。


「そう彼女が言ったので、『狼の一族は、風雪神の信徒である』と返したんです」

「貴方は人間に見えますけれど――」


 ウルペ人女性は、ジュダを見やりながら人間の言語を使った。


狼人(ろうじん)でしょうか?」

「老人?」


 ラウディが怪訝な顔をしたので、ジュダは捕捉する。


「人間たちの言うところのオオカミ男か、という意味ですよ」


 オオカミ男――人間に化けた狼亜人とも、狼の呪いを受けた人間とも言われる。


「かつてロウガ人に世話になった……それだけです」


 ジュダは目の前のウルペ人に一礼した。


「あなたはマギサ・カマラでしょうか?」

「はい、しがない占い師(マーディサー)をしているマギサ・カマラです」


 ウルペ人――マギサ・カマラは、にっこりと微笑んだ。


「人間の方が訪ねて来るのはとても珍しいですね。ご用件は占い……でしょうか?」


 笑みの中に、うっすらと警戒心を覗かせるマギサ・カマラ。もちろん、用件は占いとは別にある。……あるのだが。


「ええ、ちょっとこの方を占っていただきたい」


 ジュダがすっと隣のラウディを示せば、当の本人は「え?」と目を見開いた。


「ジュダ……いきなり」

「いいじゃないですか。占ってもらえば。貴重な体験ってやつですよ」

「……それは、そうだけど」


 ラウディは視線を彷徨わせた。


「あまり経験ないから、わからないな」

「気になっていることを診てもらえばいいんじゃないですか」


 ジュダはそっけなく告げる。そもそも王子を演じるお姫様は、外の世界に興味津々なのだ。

 そのやり取りを見ていたマギサ・カマラは小さく微笑むと、天幕の中心にある席を指した。


「どうぞこちらへ」


 どきりとさせる笑みだった。一言で言うならば妖艶。マギサ・カマラの妖しくも美しい笑みに、ラウディの視線が吸い寄せられる。導かれるように座る王子に対し、テーブルの反対側の席につくウルペ人占い師。


「何を占いましょうか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ