第49話、恨みを買う理由の心当たりは?
私は人から恨まれているのか?――ラウディの重い言葉に、ジュダは一瞬、言葉を詰まらせた。
周囲の目がないせいか、ラウディは王子のようには振る舞わなかった。王女、いや一人の少女としての態度だ。
「いきなり首を絞められて。それも、特に恨みを買った覚えがない相手に。……どうして私を殺そうとしたのだろう?」
ラウディは苦い顔になった。それは俺も聞きたい――ジュダは視線を落とした。
「さあ、それは当人に聞かないとわからないと思います。ただ、その当人も、もしかしたらわからないと言うかもしれませんが」
「どういうこと?」
眉をひそめるラウディ。ジュダは、今日だけで何度目かわからない事件についての見解を語る。
コントロとフランドル騎士生の襲撃の共通点、催眠魔法の疑い、などなど。
「――そんなわけで、近々コントロに会いに行こうと思っています。おそらく明日にでも。何かわかればいいのですが」
「そうね。今はわからないことが多すぎる」
ラウディは深々とため息をついた。
「もやもやする。気分が悪い」
いつもより膨らみのある胸に手を当てる。ジュダは静かに息を吐くと、事務的に告げた。
「この話題はやめにしましょうか。何かわかれば、また報告します」
「うん、ありがとう、ジュダ」
「それでは――」
「あ、待って」
腰を上げかけたジュダに、ラウディがとっさに声をかけた。
「ジュダ……その、迷惑でなければ、しばらく一緒にいてくれないかな?」
「……ここにですか?」
うん――と、ラウディは頷いた。
「一人だと心細い、から……」
すがるような視線。その深海色の瞳が揺れている。気持ちはわかる。わかるのだが――
「メイアさんがいるでしょ?」
ジュダはいつもの意地の悪い笑みを浮かべる。ラウディは少し頬を膨らませる。
「いいじゃない。一緒にいてくれたって。どうせもう講義もないし、ご飯くらい一緒だって」
「まあ、夕食のお供くらいはしますけどね」
ここ最近、ラウディと同伴の食事は日課同然だ。断る理由はなく、付き合うつもりではいる。
ただ、ジュダの想像外だったのは、ラウディが直後にメイアを呼んだときに発した言葉だった。
「メイア。夕食はこの部屋で摂ります。私とジュダの分、用意させて」
「かしこまりました、ラウディ様」
一礼して答えるメイアが下がるのを見やり、ジュダは思った。
――この部屋で?
だが考えてみれば、そうかもしれない。何せ食堂で襲われたのは記憶に新しい。そんな場所で再び食事は、精神衛生上よろしくないのは想像がつく。
「何か言いたいことはある? ジュダ」
「いいえ、特に」
だからジュダは、ラウディの部屋で夕食を摂ることに文句は言わなかった。
しばらくいてほしいと言われたが、改めて言われると緊張する。
「どうしたの? そんな難しい顔をして」
リラックスした様子で、お姫様は下からジュダの顔を見上げた。そうしていると普通の女の子にしか見えないから困る。
「こんな時に何ですが、前から気になっていたことがあるんですが」
「何かな」
わずかに緊張を覗かせるラウディ。ジュダは、いつもの淡々とした調子で聞いた。
「俺のような男を友人にしたいとか、一体どこを見て思われたんですか?」
「は? いきなりだね……」
ラウディは面食らう。まったく想定していない問いだったのだろう。どこって――と、ベッドに転がりながら考えるラウディ。
「わたしは、人に言えない秘密があるじゃない? 性別のこととか」
彼女の頬が、ほんのり赤くなってきたのは気のせいか。
「男だろうが女だろうが、あなたはあなた……と、言ってくれたから、かな、なんて」
真っ赤になって顔を逸らすラウディ。
「やっぱりなし! まったく何てことを言わせるんだ、君は!」
照れてしまったようで、ラウディは枕をとると顔をうずめた。何だかこちらが恥ずかしくなるような態度である。
――確かに、そんなことを以前言った気がするが……。
そんなに恥ずかしくなるような言葉だっただろうか? ラウディの羞恥を覚えるラインがわからず、ジュダは困惑するのだった。




