第48話、大臣に相談するジュダ
王都のとある路地裏で、ジュダはペルパジア大臣と会う。ラウディ暗殺未遂事件について、大臣から問われて、ジュダは答えた。
「――容疑者は意識不明です。現状、尋問できないので動機などは不明です」
「君が殴ったのかね?」
「ええ。ラウディは俺の目の前で襲われましたから」
「素手で?」
「……? ええ」
「それはよかった。もし君が手甲などをして本気で殴ればその者も死んでいただろう」
「かもしれません」
真面目な顔で告げる大臣に、ジュダは苦笑するしかなかった。
食堂での襲撃の詳細、ラウディを狙った騎士生に関するクラスメイトの証言などを、ジュダはペルパジアに説明した。……あと何回、この手の説明をしなければならないだろうかと思ったが、もちろんそれは口には出さなかった。
ペルパジアは真剣な顔で言った。
「――今回の王子襲撃……先の騎士学校創立祭襲撃の時と関連があると?」
「確証はありませんが」
ジュダは首を捻った。
「創立祭で亜人解放戦線と戦いましたが、その直前に起きたラウディ暗殺未遂については、まだ解決していません」
「襲撃犯は捕まっているが」
「コントロ・レパーデ。俺と同じクラスの騎士生です。……彼の動機はわかったのですか?」
「いやその報告は受けていないね。かなり荒々しい尋問を行っているようだが……」
尋問、ね――拷問の間違いだろうとジュダは思ったが黙っていた。
一国の王子を暗殺しようとした者ともなれば、それなりの扱いとなるだろう。もちろん悲観的な意味で。
「君はどうなのだ、ジュダ。何せ私はレパーデ騎士生のことを知らない。君のほうが詳しいと思うが」
それもそうだ。騎士学校で同期、そしてクラスメイトなのはジュダの方なのだから。
「俺には心当たりがありません。とても嫌味で、俺個人はあまりいい印象を持っていませんが、真面目で、彼がラウディに敵対的だった様子はなかった」
そうとも。別段、親しい間柄ではないが――事が事だけに気になった。彼自身の意思でラウディを殺そうとしたなら、当然処刑されても何も思わないが、もしそうでないのなら放っておくのもいい気分ではない。
「今日も前回も、周囲の目がある中での犯行です。まるで狂ったように声を荒げて襲い掛かった……似すぎていて怖いくらいです。偶然、で片づけられればいいのですが」
「ああ、それが偶然でなかった場合、甚だ不愉快なことになるだろうね」
ペルパジアは同意した。ジュダは赤毛の同期生の言葉を出す。
「催眠魔法……そう言ったクラスメイトがいます。魔法科のレーヴェンティン教官にもお伺いを立てたのですが、その可能性は否定できないと」
「レーヴェンティン……」
ペルパジアの声に、いささか驚いたような響きが混じった。
「何か?」
「いや、彼女は騎士学校にいるのだったな。彼女は元気かね?」
「ええ、たぶん図書館で本を読んでいると思います」
そうか――とペルパジアは何度か頷くと、話題を戻した。
「催眠魔法と簡単に言うが、使いこなせる者となると、ごく限られているのではないか? 何か催眠魔法という説を裏付ける証拠は?」
「ありません。まだ仮説です」
ジュダは首を横に振る。
「なのでその確証が欲しいのです。催眠魔法によるものか否か。違えばいいのですが、もし魔法の仕業なら、新たな襲撃の可能性も考えないといけない」
「ふむ……」
「レーヴェンティン教官の話では、今回のような場合、操られた者には魔法の痕跡が残っている可能性があるそうです。フランドル騎士生に関しては学校教官陣に拒否されました。……そこで養父殿のお力をお借りしたいのですが、コントロへの面会の許可を頂きたい」
「レパーデ騎士生をか?」
「はい。二つの事件で使われた催眠魔法が同一のものなら、コントロの身体にも痕跡が残っているかも」
「まずは、そこから調べるわけだな。わかった。私のほうで手配しよう」
「それで……今、コントロはどこにいるんです?」
ジュダが問えば、ペルパジアはその深淵のように深い瞳を向けてこう言った。
「彼はエイレン収容所だ」
収容所と聞いて、ジュダは顔をしかめた。以前、亜人だったために逮捕されたクラスメイトが入れられ、彼女を救うために大暴れしたことがある。
脳裏にその時のことが過り、はたして彼女は元気にしているだろうかと考える。王都を離れ、故郷に戻ったと思うが――
暗鬱な気分になった。
・ ・ ・
収容所に収監されているコントロへの面会の手続きのため、ペルパジア大臣はヴァーレンラント城に戻った。
ジュダはトニと共に騎士学校へ戻る。おそらく明日になる、という大臣の言葉を信じるなら、今日はこれから特にすることもない。
昼間のこともあった。ジュダは、ラウディの様子を見に、光鳥寮の彼女の部屋へと向かった。
王子付きの侍女であるメイアが、いつも通りメイド服姿で、ジュダを出迎えた。
「お帰りなさいませ、ジュダ様」
表情一つ変えず、いつものような事務的なメイア。……もう慣れた。
「……ラウディの様子はどうです?」
「お休みになられております。大分お疲れのご様子」
「まあ、あんなことがあったばかりですからね。……入っても?」
ジュダが聞けば、メイアは頭を下げた。
部屋に入るとまず飛び込んでくるのが仕切り。これのおかげで、入り口から直接部屋の中を見ることはできない。いわゆる不届き者とプライベート対策。……王子が女の子である事実の露見を阻止するための障壁でもある。
高貴な身分である王族が使うだけあって、生徒用とは思えない豪華な内装。アンティークじみた机と椅子は応接用。その奥にはダブルサイズのベッド。金の縁取りは、相変わらず悪趣味だと感じるのは、黄金嫌いのスロガーヴの感想だ。
男装のお姫様は、そのベッドに体を預けていた。上半身を起こし、薄いが光沢のある寝間着姿。ふだんは締めている胸の矯正具をつけていないのか、胸元がいくらか女性らしいラインを描いている。
「ようこそ、ジュダ」
笑顔を浮かべるラウディだが、心持ちか力のないという表現が適確か。
「自習時間は、何をしていたのかな?」
襲われたこともあり、午後の講義をキャンセルしたラウディだ。当然、ジュダがそのあいだ何をしていたかなど知るよしもない。
「色々と。学校の外へ言って養父殿……ペルパジア大臣と会ってきました」
「昼間の件?」
ラウディは、わずかに目線を下げた。だがそれも一瞬だった。
「ペルパジア殿の様子はどうだったかな?」
「相変わらずと言ったところです。ただ、養父殿の言葉ですが、今回の件であなたのお父上は大層心配なさっているようです」
「……そう、だよね」
ラウディの笑みが苦笑に変わった。
「あの人は、私のために一人で助けに来たほどだから」
「それが肉親というものでしょう」
……その父親を、仇とつけ狙っていたことは、彼女には言わない。
「いまさらですが、お体はどうです?」
「大丈夫。平気、ありがとう」
「どういたしまして」
座っても? と聞けば、ラウディは頷いてジュダに椅子をすすめた。
「ねえ、ジュダ。……私は、人から恨まれているのかな?」




