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乙女な王子と魔獣騎士【WEB版】  作者: 柊遊馬


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第44話、気になる共通点


 学校食堂の騒ぎは、あっという間に知れ渡った。


「ジュダ様、お話を伺いました! 王子殿下を襲った騎士生を一撃で叩き伏せたとか!」

「さすがジュダ様。騎士学校一の騎士生――」

「おいバカ、ジュダ様は上位騎士生になられたんだぞ!」

「あ、し、失礼しました! お許しくださいジュダ様!」


 ジュダは口をへの字に曲げた。

 尊敬の念を露わにする下級騎士生たち。隙あらば声をかけてこようとする彼、彼女らに、ジュダは「あー」とか「うん」とか生返事で応じた。


 正直言って煩わしい。様付けされるのが特に気にいらない。


 騎士学校のはみ出し者。騎士学校一の嫌われ者ポジションでいることが、密かに楽しかったのではないかと今では思う。


 創立記念祭の仮装舞踏――王女に仮装したラウディが、亜人解放戦線に誘拐され、それを助けたのがジュダということになっている。


 正確ではないが、間違ってもいない。

 王族を助けたということで、ジュダは騎士上級生のトップクラスの証、『上位騎士生』という称号を与えられた。


 上位騎士生は誰でもなれるわけではない。騎士生の中でも、騎士にふさわしい威厳と態度、常に優秀な成績を修めている――つまるところ優等生に与えられる。


 選ばれることは大変名誉なことだ。上位騎士生で卒業するということはトップ一桁台を意味し、以後の人生にも大きな影響を及ぼすことになる。


 しかしジュダは、上位騎士生を名誉とも感じていない。

 何せ、伝説の魔獣スロガーヴの血を引き、人間ですらない。


 騎士学校に在籍しているのは、母親の敵討ちのためだった。騎士の階級も、人間の社会での出世にも興味はないのだ。


 下級騎士生たちを振り切り、ジュダは足早に騎士学校の寮へと向かう。彼が下級生に取り囲まれた原因は、ラウディを襲った下級生の教室を訪ね、その生徒のことを聞こうとしたからだった。


 その途中、見知った赤毛の少女騎士生がジュダのもとへやってきた。


 リーレ・ミッテリィ。ショートカットにした赤毛の女子騎士生だ。緑色の瞳、滲み出る勝ち気な表情の彼女は、魔石魔法を得意としており、『炎のリーレ』という通り名を持っている。


「ハイ、ジュダ。聞いたわよ」

「何を……とは言わない。どうせ食堂であった騒動の話だろ?」

「ご明察。もう学校中の噂になっているわよ」

「だろうな。思い知ったよ」


 下級生に包囲されたから。ジュダは鼻を鳴らす。


「ラウディがまたも狙われたとあれば、騒ぎにならないはずがない」

「本当なの? ラウディ様を、騎士生が殺そうとしたなんて」


 リーレが好奇心丸出しで聞いてくれば、ジュダは眉を軽くひそめて見せた。


「目の前で見たからな。……正直、どうしてこうなったのか、皆目見当もつかない」

「こうも連続で襲われるなんて――」


 早足のジュダと歩調を合わせながらリーレは言った。


「あの王子様、ひょっとして皆から恨まれてる?」

「どうかな」


 ジュダは皮肉げに唇を歪めた。


「少なくとも、俺や君よりは好かれていると思うよ」

「否定できないのが悔しい。それをあんたに指摘されるのがもっと悔しい」


 リーレは渋い顔になった。

 狂犬リーレ――声をかければ拒絶。軽はずみに手を出せば、噛み付くより性質が悪い目に合うと評判の、いや陰口を叩かれている彼女である。この学校でまともに会話できる相手といえば、ジュダか、最近ではラウディくらいなものだろう。


「ただ……いや――」

「何よ?」


 言いかけてやめたジュダを、リーレは睨んだ。


「何というか、違和感をおぼえている。今回のラウディを狙った襲撃」

「どんな?」

「白昼堂々、皆がいる前でラウディを襲ったことだ」


 ジュダは心持ち視線を上げる。


「こう、暗殺というのは、もっとひと気のない場所や時間を狙うものだ」


 自身の経験則に基づいて言ってみれば、リーレが反論した。


「敢えて裏をかいて、食堂なのかもよ?」

「裏をかいて、とかいう犯人にしては、殺害方法が勢い任せの首絞めってどうなんだ? せめて短剣とか凶器を用意するものじゃないか?」

「……それもそうね」


 リーレは頷いた。ジュダの脳裏に、先ほどからチラチラとよぎるものがある。 


「どうも変なんだ。人の目のある場所での襲撃。衝動任せのような狂人のような表情……どうにも被る」

「何のこと?」

「コントロだよ」


 ジュダは顔をしかめた。


「創立記念祭、コントロの奴がラウディを襲った時――あの時と今回のそれが、似ているのは偶然か?」

「ダンスの時、あたしは外にいたからよく知らないんだけど」


 リーレは頷いた。


「あんたはその時も、今回も目の前で見ているのよね? そのあんたがそう言うなら、もしかしたら偶然じゃないのかもしれない」

「……というと?」

「これは一つの仮説だけど」


 リーレは考え深げに緑色の目を向けてきた。


「もしかしたら、誰かに操られたというのは? 催眠魔法とか、そういうの」


 催眠魔法、か――ジュダは考え込む。言われてみると、確かにそれっぽく感じる。


 確かめるにはどうするべきか考え、魔法のことなら魔法を教える教官に聞くのが一番という結論に達した。


 騎士学校には魔法担当の教官が二人いる。イーサス・ヴェルジという男性魔術師と、エレハイム・レーヴェンティンという女性魔術師だ。


「どちらの教官に当たるべきだと思う?」


 ジュダが問えば、日頃から魔法関係の自習をよくしているリーレは即答した。


「愚問ね。イーサス・ヴェルジは魔法使いとしては三流。正しい魔法知識を得たいなら、断然レーヴェンティン教官」


 エレハイム・レーヴェンティン――別名、図書館の魔女。 

 エイレン騎士学校には図書館がある。ジュダとリーレはそちらへと向かった。

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