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乙女な王子と魔獣騎士【WEB版】  作者: 柊遊馬


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第37話、魔法人形の暴走


 学校の一角が騒がしくなった。やや遅れて、敵襲を告げる鐘が響く。学校の警備兵がそちらに急行し、駆けつけているだろう頃合だ。


 ラウディの侍女メイアの話では、騎士生と模擬戦を行っていた複数体の魔法人形が制御を失い、他のクラスの屋外授業や小姓(ペイジ)科教室に入り込んで麻痺魔法を撃ちまくっていると言う。


 情報早いな――ジュダは、メイド服姿の侍女の報告に驚くのだった。


「鎮圧できそうかな?」


 ラウディが聞けば、メイアは小首を傾げた。


「どうでしょうか。警備兵たちは、相手が何なのかさえ、よく理解していないかもしれません」

「魔法を当てれば止まるとか、ヴェルジ教官は言ってましたよね?」


 ジュダは、教官の説明を思い出す。


「警備兵の装備に魔法武器なんてほどんどないでしょうから、かなり厳しいのでは」

「あの案山子みたいな人形に後れを取ると……?」


 ラウディが魔法人形のことを『案山子』と称した。メイアは首を横に振った。


「その案山子は投射魔法を撃っています。剣や槍では近づく前にやられてしまいます」

「教官陣は、それを承知なのかな?」

「まだ状況がわかっていないようなので、しばらくは対応が後手になりそうです」


 メイアは言った。


「教官陣に、魔法で対処するよう伝えたほうがよいかと」


 そうと決まれば、行動は早かった。ジュダ、ラウディ、メイアは教官陣のいる教官執務室へと走った。


 到着早々、何人かの教官が武具を身に付け、戦闘準備を整えている最中だった。そこにはジュダたちのクラス担当教官であるジャクリーン・フォレスの姿もあった。


「警備隊の旗色が悪いらしい」


 開口一番、ジャクリーンは言った。


「応援を求める報せが入った。敵はなにやら得体の知れない人形らしいが……そういえば、お前たちは校庭で授業だったはずだな。何か知っているか?」

「相手は魔法人形です」


 ジュダは口を開いた。


「魔法使いとの戦いを想定した模擬戦の標的だったのですが、それが暴走したようです。ヴェルジ教官の話によれば魔法を当てれば人形は止まるとのことですが」

「……それで警備隊は苦戦しているのか」


 ジャクリーン教官が振り返れば、アシャット主任教官が神経質そうな顔を歪めた。


「ではこちらも魔法で応戦するほかあるまい」

「しかし魔法と言ってもな」


 最上級学年担当の一人であるハーラン教官が言った。


「ここは魔法学校ではない。早々、魔法が得意な者など少ないぞ」

「その、魔法人形は何体いる?」


 アシャット教官は問うた。数が少なければ何とか、と思ったのだろう。ラウディが言った。


「校庭には八体ほど……」

「現在のところ、三十体近くいるようです」


 メイアが淡々と告げた。そんなに、と教官たちが声を上げる中、ジュダとラウディは驚いた。


「本当に?」

「ええ、この『目』で見ましたから」


 メイド服の侍女は断言した。ハーラン教官は主任教官を見やった。


「近接戦ならまだしも、魔法戦では我々だけでは手に負えない数ですな」

「……意見具申、よろしいでしょうか?」


 ジュダは教官たちを見回した。アシャット教官は露骨に嫌そうな顔をしたが、腕を組んで話を聞いていたジャクリーンは頷いた。


「許可する、ジュダ・シェード騎士生」

「騎士生を魔法人形討伐に投入しましょう」

「却下だ、ばか者!」


 アシャット主任教官は机を叩いた。


「貴様、騎士生を危険にさらす気か!」

「……人形は『麻痺』魔法を使用しています。当たったところで怪我を負うものでもありません。言うほど危険でないのなら、騎士生で数の不足を補うべきかと」

「しかしなぁ――」

「ジュダ、続けろ」


 ジャクリーン教官がアシャット教官の言葉を遮った。ジュダは頷く。


「騎士生たちには魔石銃を携帯させます。できればタイラル式魔石銃を――間違って誤射しても騎士生が怪我をする確率は下がります。魔法を当てれば止まるというのなら、タイラル式の弱い魔法弾でも止められると思います」

「騎士生は? 何人使うつもりだ?」


 ジャクリーン教官の問いに、ジュダは淡々と答えた。


「投入する騎士生は、最上級学年の生徒のみとします。下級騎士生やペイジ科生徒では、いくら危険が少ないとはいえ、少々荷が重い」

「すると俺のクラスの生徒を使うのか」


 ハーラン教官は眉をひそめた。


「ジャクリーン、お前のクラスは――」

「校庭で魔法科目授業の最中でしたから、やられたと見るのが妥当かと」


 担任教官であるジャクリーンは唇を引き結んだ。ジュダは首を横に振った。


「いえ、敵の攻撃は『麻痺』弾ですから、しばらくすれば復帰できます。もう中には動ける者もいるかと。彼らも討伐に投入します」


 その言葉に、アシャット教官は厳しい顔ながら頷いた。


「なるほど、そう悪くない。貴様が言うように、魔法人形が麻痺弾しか使わないのであれば、生徒だけではない、警備隊も再度投入できるだろう。……だが」


 主任教官はジュダを睨みつけた。


「相手がもし『麻痺』弾ではなく、殺傷性のある攻撃魔法を使ってきた場合、それで騎士生の身に何かあった時は、誰が責任をとるんだ?」


 傍らで「ジュダ……」と、ラウディが不安げな声を出した。しかしジュダは平然とした顔で、主任教官を見据える。


「あの魔法人形が、麻痺弾ではない魔法を撃てるのなら……」


 その灰色の瞳はどこまでも冷たい。


「校庭の騎士生たちや警備兵はすでに死体になっているでしょう。それを確認なさればいい。もし麻痺なら騎士生の投入を。死体なら、外部に救援を求めるべきだと愚考します」


 ぐうの音も出ないような顔になるアシャット教官。ハーラン教官は肩をすくめ、ジャクリーン教官はニヤリとした。


「彼の判断は的確です。さあ、行動しましょうか」

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