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乙女な王子と魔獣騎士【WEB版】  作者: 柊遊馬


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158/159

第158話、寄り道の集落


 ジュダとラウディ、そしてトニは、サンクドゥの主要街道を外れ、小道を歩いていた。

 森の中を走る細い道。東西に走るその道は、通行する商人や旅人を狙って、盗賊が現れる。


 あまり素行のよい道ではないが、主要街道に比べると人があまり通らないので、盗賊にとってはあまり効率がよいのかはわからない。


「ここからさらに狭い道に入ります」


 ジュダは枝分かれした細い道を指した。


「少し遠回りになりますが、こちらに小さな集落があります」

「集落?」


 ラウディは首を捻った。若干息が上がっているように見えるのは、ここまで長い距離を自分の足で歩いてきたからだ。時折休憩を挟んでいるとはいえ、彼女がここまでの徒歩移動をした経験はおそらくないだろう。


「記憶違いでなければ、モナクスという名前の」

「知ってる? トニ」

「ううん」


 トニは首を横に振った。


「ボクはトカイ育ちだから、この辺りのことはしらないの」

「どこで覚えたんだ、そんな言い回し」


 ジュダが皮肉ると、トニはニシシと笑った。


「俺もあまり知らない場所ではあるんですが、上手くすれば信用できる人にこちらの状況を伝えられるかもしれない」


 とても上手くいけば、ペルパジア大臣にラウディの危機的状況を伝えられる。そうなれば向こうから直接迎えを期待できるかもしれない。


「この辺りの会ったこともない奴らは、誰も信じられないかもしれませんから」

「でもジュダの言う通り、上手くいけば……お父様にも現状を報せられるかもしれないんだね?」

「ええ、まあ」

「じゃあ行こう」


 ラウディは少し元気になった。孤立無援と思っていたところに、もしかしたら救援を期待できるかもしれないとなったからだ。

 だが、実際どうなのだろう。ラウディが考えるように国王が知ったとして……やはり駆けつけるのだろうか、あの王は。



   ・  ・  ・



 森の中の閑散とした集落だった。


「静かな村だね」


 ラウディは率直な感想を口にした。パッと見だと集落に人の気配はないように思える。だがジュダは、ここにやってきた者を値踏みするような目を感じ取っていた。


 ここは亜人の集落。ふらっと現れる者を警戒しているのはある種当然だった。住人が亜人であるからというわけではないが、どこに亜人解放戦線の目があるかわからない。ジュダは、ラウディにフードを深々と被ってもらって素顔をあまりさらさないようにお願いしている。


「ちょっと行ってきます」


 ジュダはある家を指差し、ラウディとトニに待つように伝えた。


「何の家?」

「伝書を送るんです」


 そのために立ち寄ったのだ。ジュダが目的としていた建物だと理解したラウディは、小さく首をかしげた。


「私は行っては駄目?」

「ご遠慮ください。付き添いは外に、というのがこの手の場所の大抵のルールなんです」

「そうなの?」

「後で説明しますから。……トニ、ラウディをお守りしろ。それとあまりここから離れるな」


 ジュダはそう言い残すと、建物に入った。ムッとするほどの毛皮の香りに、思わず眉をひそめる。手狭な室内は、すぐにカウンターになっていて犬系亜人がギョロリと目を向けてきた。

 犬顔のクーストース人である。くたびれた中年。ご丁寧に眼鏡をしている。


「人間か」

「王都宛てに伝書を送りたい」


 ジュダが答えると、受付のクーストース人はカウンターに来いと指さした。無愛想だが、ここがどういう場所かジュダが理解しているのを見て、追い返したりはしなかった。


「ヒュージャンがここを使うのは珍しいな」

「普段から亜人の友人に使っているんだ」

「だろうな。経験者じゃなきゃ、ここが何なのかわからんだろう」


 クーストース人は鼻をならしたが、ジュダは意地悪く言った。


「亜人に教えてもらえば、初めてでも利用しようと来るかもよ」

「ふん、馬鹿抜かせ。ヒュージャンが興味本位で大切な連絡を亜人に委ねるもんかよ」

「……それはそうだ」


 紙と書くものを渡され、ジュダは送り先と文章をしたためる。クーストース人はまたも鼻をならした。


「ガッド語か」

「その眼鏡は伊達じゃなかったらしい」


 クーストース人はあまり目がよくない。彼がかけている眼鏡は、ちゃんと次を読むのに対応していたようだ。


「猫人はお嫌い?」

「ヒュージャンよりマシ。――至急か。少々高くなるぞ」

「わかってる」


 遠方に連絡を取るというのも簡単ではない。魔法的な連絡手段もあるにはあるが、それだってまったく手間がかからないわけではない。金を払い、ジュダはカウンターを後にする。


 ガット人の情報屋に連絡を入れ、そこからペルパジア大臣へ伝われば、ラウディの近況は伝わるだろう。

 ここでやれることはやった。伝書の家から出るべく扉を開けると、フードを被った痩身の男と出くわした。


「失礼」


 その男は詫びた。ジュダを通すと、男は伝書の家に入っていった。――今の男、マスクをしていたか?


 ジュダは訝しむ。亜人の臭いのしない男だったが、人間か。


「終わった?」


 ラウディが声をかけてきた。ジュダは頷く。


「お待たせしました。行きましょうか」

次話は20日頃、投稿予定。

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