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第149話、裏切り


 ラウディの魔法は、カニス人の戦士を直撃し、その体を廊下にまで吹き飛ばした。

 したたかに壁にぶつかり、全身が麻痺して動けないカニス人――ニーリスは舌が回らない状況で、しかし思考はめまぐるしく働かせた。


 ――魔石を持ってやがった……!


 人間は魔石を触媒に魔力を使う。王子の剣に気を取られ、魔法を使うかもということを欠片も考えなかった。


 ――何たる失態。


 バタバタと足音が連続した。金属のこすれる音は武装した兵隊。それが続々と駆けてくる。


 ――まずい。


 足に力が入らない。立てない。武器も握れない。そんなニーリスのもとにランカム城の兵が殺到した。


「亜人の侵入者だ!」

「殺せ!」


 ランカム城の兵たちは剣でカニス人を滅多刺しにした。麻痺して抵抗できない暗殺者は全身血まみれで息絶えた。

 城の兵たちが侵入者を討ち取るのを見やり、ラウディは振り返った。


「ジュダ、兵たちが来た!」


 こちらは大丈夫という意味の言葉。兵たちが来たなら彼らにヘクサら亜人の対処を任せてもいいだろう。

 追ってこないヘクサが外にいることを告げようとしたジュダは、そこで兵たちが殺意を持った目でラウディを見ていることに気づいた。


「ラウディ!」


 とっさに彼女の腕を掴み、引き寄せる。兵の一人が叫んだ。


「亜人が王子殿下に化けているぞ! 討ち取れッ!」

「よくもラウディ様のお姿に!」


 え、とラウディが何を言われているのかわからないという顔になる。それはジュダも同様だ。感じた殺意の意味は察したが間違いではないのか。


「何を言っている!? 王子殿下だぞ!」


 ジュダが一喝するが兵たちは聞く耳を持たない。


「護衛にも成りすましているのか!」

「馬鹿め! 本物の王子様は無事に保護されている! 成りすまそうとしたようだが残念だったな! 姑息な亜人め!」

「え、は……?」


 ラウディは完全に思考が停止してしまったようにショックを受けた。無理もない、突然偽物扱いされ、本物が別にいるなどと言われては。

 ジュダは、ふつりと怒りを感じた。


「馬鹿はそちらだ! こちらにいるのが本物のラウディだ! お前らのいう本物こそ偽物だぞ!」

「騙されるな! 殺せばわかる! 化けの皮をはいでやるぞ!」

「ラウディ、下がって!」


 ジュダは彼女の腕を取り、部屋へ戻った。本物を殺して化けの皮も糞もない。それで亜人でなかったとしったら、ここの兵たち全員極刑は免れない。当然、子爵もだ。

 だがそれがわかることはすなわち、ラウディが死んでいるということ。ジュダに許容できるはずがない。


「ジュダ!」

「ラウディ!」


 彼女を抱き寄せるジュダ。ラウディのレギメンスオーラがピリピリと、ジュダの肌を刺した。緊張、恐怖、理不尽への憤り――グチャグチャな感情の渦が、その力を増幅させている。


 ジュダはラウディを庇い部屋に戻る。だがそちらの扉が開き、兵たちが入ってきた。逃げ場は、バルコニーしかない!


 ジュダは一瞥する。ヘクサがやはり呆然とした様子で立ちすくんでいる。

 迷っている時間はなかった。

 ジュダはラウディを連れてバルコニーへ出る。


 ――どうしてお前まで怯えた顔をしているんだ?


 刹那、絡み合ったジュダとヘクサの視線。ジュダは言葉にせず、その傍らを抜ける。

 高所にあるバルコニー。亜人のように身軽に跳べるならともかく、人間からすれば逃げ場がない袋小路。


 兵たちが追い詰める。ジュダ、とラウディが不安そうな顔をする。まだ思考がまとまらないのだろう。それだけ彼女の受けた衝撃は大きい。


 ――それでいい。今は何も考えなくていい。


「亜人がいるぞ!?」

「やはり、奴らの手の者か!」


 兵たちはいきり立つ。動かし難い証拠を見つけ、本物の王子かもしれないという疑いは一切消えたようだった。


「逃げられないぞ、観念しろ!!」

「失礼」


 ジュダはラウディをお姫様抱っこする。えっ――と呆けるラウディ。ジュダは手すりを踏み台にジャンプした。


「ええっー!?」


 わっ、と兵たちも驚いた。


「と、飛んだ!?」

「馬鹿な!?」


 ランカム城に隣接する夜の森に、ジュダはラウディを抱えて飛び込む。

 ガサッと音がした時には着地。衝撃から彼女を守るためにギュッと抱きしめていたのだが、無事を確かめた時に強烈なレギメンスオーラで駄目だった。少し身を離すと、ラウディは小さく縮こまっていた。


「ジュダ……ここ――」

「城の外ですよ」


 足がわずかに痺れているが痛みはなく歩ける。城の方がだいぶざわついているのは、バルコニーに出た兵たちだろうか。ヘクサがいたはずだったが、もしかしたら戦っているのだろうか。

 城からこちらに兵が来るのにまだ少し余裕があるだろう。ラウディを下ろす。


「あの高さから、飛び降りたの……? 嘘……。ジュダ、大丈夫なの?」

「魔法のアシストで。ジャンプ力を鍛えてますから」


 本当のところは、スロガーヴの身体能力に感謝である。


「とりあえず、ここを離れましょう」

「う、うん、そうだね……。でも、どうしてあんなことに」


 本物の王子がどうとか。今は間に受けなくてもいいのでは、とジュダは思う。上官が部下にそう言い聞かせて動かしただけかもしれない。


「それも後にしましょう」


 ジュダは口笛を吹く。ガサガサと音を立て、森から馬が現れる。


『待ったよ、ジュダ兄』


 馬亜人(エクート)のトニである。

次話は5日頃、投稿予定。

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― 新着の感想 ―
ヘクサがバルコニーで固まったままとは・・・ つまり、ヘクサではなく子爵の独断?
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