表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/155

第143話、潜入計画


「王子はランカム城にいる」


 ヘクサ・ヴァイセは、別荘の森から防壁である城を見上げた。彼女に付き従う四人の亜人刺客も同様だ。


「そして我々は、その王子を始末しなければならないわ」

「これは愚問ですがね、姐さん」


 まず口を開いたのは、蜥蜴亜人のアルローだった。


「これから、あの城に忍び込もうって言うんですか?」

「城に入らずに始末できる方法があるなら、ぜひともご教授願いたいわね」


 ヘクサが妖艶に微笑む。人を魅了するそれも、残念ながら同僚たちを萎縮させる効果しかなかった。


「愚問だ」

「黙ってろ」


 ニーリス、ホーロウに胴体を小突かれるアルローである。フードとマスクで顔を隠しているクローウンが、ヘクサを見た。


「しかし今あの城は、王子がいるせいもあって警戒厳重。通行するだけなら行けましたが、今はそれも難しい……」


 増して侵入し、特に守りを固めている王子を狙うなど、至難の業ではないか。

 元々、警備も他に比べてしっかりしていたランカム城である。平時でも緩みの少ない警戒網をすり抜けたヘクサたちであるが、戦時態勢になった城の厳重さはそれよりも跳ね上がっているに違いない。


「王子の守りは厚い。それは間違いないでしょうね」


 ヘクサは真顔になる。


「でもそれ以外ならどうかしら」


 狙われているのがラウディ王子であるのは、誰もが知るところである。兵たちも滞在する王子を死守してでも守らねばならないと気を張っているだろう。


「こういう時、標的以外に対する警戒は、存外緩いものよ」


 思い込みの心理というのか。自分が狙われているわけではないから、と本来は警護すべき対象である人間ですら、気持ちが大きくなって隙ができる。自分でないのなら、と晒さなくてもいい身を大胆に曝したりするのだ。


「要人を狙うわけですかい」


 虎亜人のホーロウがニヤリとした。カニス人のニーリスは鼻をひくつかせた。


「あの城の要人となると、城主ですか」

「なるほど」


 クローウンは頷いた。


「そいつを洗脳するんですね、姐さん」

「必要ならね」


 ヘクサは再び城を見上げた。


「必要なら?」


 アルローがキョロキョロし出す。


「どういう意味です?」

「あの城に、王子を殺す命令を受けた奴がいる」

「あー、あの仲間に捕まっていた連中ですか」


 ホーロウが思い出しながら言った。別荘から騎士と兵が数人、同僚たちに拘束されて連行されていくのを目撃している。


「あいつらがどうかしたんですかい?」

「あれの他にも、王子を殺そうとしている奴があの城にいる。……そうは思わないかい?」

「そうなんですか……?」


 亜人たちは互いに顔を見合わせた。


「おそらくね」

「そう思う根拠は?」


 クローウンは尋ねた。ヘクサは皮肉げな笑みを浮かべる。


「勘、と言ったら納得するかしら?」

「……」

「根拠は、連行されたのが一人ではなかったこと」


 ヘクサは説明する。


「王子への個人的な怨恨という線なら単独犯。けれど捕まっていたのは複数人だった。これ、普通に考えたらおかしいのよ」

「おかしい、ですか……」

「そう、おかしい。あの城はね、王族を守ることを使命とし、日々を消化している者たちの巣窟なのよ。王族に逆らうなんて、もっての他。王族に対して不満を漏らすような奴が勤務できるような場所じゃないのよ」


 そんな場所で、王子に牙を突き立てるようなことを考えるなんて、あり得ない。それも複数の人間が。


「……捕まったヤツらに指示を出したヤツが城にいると?」


 ニーリスの言葉に、ヘクサは頷いた。


「それも大物。城主が関わっている可能性もあるわね」

「でも姐さん、それ証拠はないっすよね?」


 ホーロウが微妙な表情になる。


「どちらかっつーと、勘の割合の方が大きいんじゃないですかい?」

「自分の勘の的中率を知っていれば、どこまで信用できるかは自分でもわかるでしょ」


 ヘクサは、ランカム城の天守閣(キープ)を指さした。


「私は、あれに忍び込んで城主を当たってみる。正解ならば利用する。間違っていたら催眠魔法で支配する。どちらに転んでも損はない」

「キープに潜入できるか、という問題はありますよ」


 クローウンは言った。


「あそこは城の要人の居住区だ。王子もそこにいますよ」


 当然、警備も厳重だ。いくらヘクサがプロだと言っても、厳しいのには変わりない。


「そこであなたたちが、騒ぎを起こして、城の注意を引くんだよ」


 ヘクサは亜人たちを見回した。


「騒ぎを起こせば、動ける奴は急行する。そして警備の連中は持ち場を固めるために、そこから動かなくなる。巡回が減れば、その分忍び込みやすい」


 王子の警護はそこから離れないから、陽動をしても引き離すことはできない。だが裏をかえせば、歩き回らない分、迂回しやすくなるということでもある。


「わかったね、ホーロウ?」

「要するに、人間を殺しまくればいいんですよね?」


 虎亜人は腕をならす。


「任せてください。そいつはオレの大得意でさぁ」

次話は来月5日頃、投稿予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ