表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女な王子と魔獣騎士【WEB版】  作者: 柊遊馬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

141/159

第141話、内なる敵


 駆けつけた騎士と兵たちによって、リュグナーと彼の部下は取り押さえられた。

 王子であるラウディを亡き者にしようとした者たち。まさか身内――守備しているはずのランカム城の者から刺客が現れるとは。


 ジュダはしばし言葉に迷った。さすがに衝撃を受けている。そして味方と思っていた者たちから剣を向けられたラウディは、それ以上にショックだろう。


 ――こういう時、抱きしめてあげられたら、どれだけよかっただろう。


 それを思い、ジュダは焦れったさに顔を曇らせた。周囲の目がある中、警護の騎士見習いが、人目も憚らず王子様を抱きしめるなど、できようはずがない。

 周りに、未来の王様は襲撃に怯え、子供のように警護に抱きついた、など噂を立てられるわけにもいかない。世間に伝われば、悪評となって王族への信頼が揺らぐことになりかねない。


 王子たるもの、危険にも敢然と立ち向かえて当然。自分たちの国の王となる人物が、弱虫なのは嫌。


 特にかの英雄王たる現国王ですら、亜人解放戦線などによって国の治安維持に苦慮しているのだ。そんな中に、臆病な王子が後継者と聞いたら、民は先行きに軽く絶望してしまうだろう。未来に希望が持てなくなれば、治安はさらに悪化する。


 王子は、毅然としているべき。それは民を結果として救うことになることもある。

 ただ、個人としては、そんなことはどうでもいい。ラウディが傷ついている。悲しんでいる。その時に寄り添い、我慢させなくてもいいようにできれば、どれだけいいことか。

 ジュダはそう思うのである。


 ――俺がしっかりしないと。


 今この場に、ラウディ付きのメイドであるメイアはいない。ラハ隊長ら黄金騎士も同様だ。治療を受けている重傷者か、あるいは討ち死にしたのか。その安否が気になるところだが、彼女たちの分も、ラウディを守らないといけない。


 ――ランカム城に、敵対者がいた。


 亜人解放戦線ではないのは間違いないが、人間の中にも王子の命を狙っている者はいる。催眠魔法で操られていた、というパターンではなさそうだが、敵は必ずいる。


 しかし、その正体はわかっていない。わかっていればとっくに逮捕、あるいは成敗されている。敵と、その仲間たちがどこにいて、どれほどの規模なのかわからない。

 これから避難するランカム城に、まだ敵の手の者がいる可能性がある。城全体が敵ではないのは、リュグナーらを捕まえた城の者たちがいるから間違いないが、もしかなりの上の立場の者――たとえば城主などが敵であった場合、城の兵すべてが敵になるという展開もあった。


 ――そういう状況にはなってほしくないが……。


 スロガーヴであるジュダならば、最悪すべてが敵となっても返り討ちにできる。だがその展開は、ラウディの心をますます傷つける。世界の全てが敵に思えてしまうだろう。自分がどれだけ周りから憎まれているか、という見当違いな思いをして傷ついて。


 ――周りから憎まれるのは、俺の専売特許のはずなんだがな。


 こちとら天下の悪鬼スロガーヴである。


「ラウディ」

「……何だ、ジュダ」


 平静を装っているが、彼女の瞳は曇っている。深い悲しみのこもった瞳は、ジュダの心を締めつける。安請け合いも、薄っぺらい励ましなんて口にしたくはない。だが――


「大丈夫ですか?」

「……大丈夫だよ。うん、大丈夫」


 彼女の昨日までの元気を見ていれば、なんと説得力に欠ける大丈夫だろうか。


「大丈夫ですよ」


 薄い励ましに、内心苛立ちながらジュダは告げた。ラウディは一瞬首をかしげ、歪な笑みを浮かべた。


「おかしなジュダ」


 空元気も元気のうちか。ジュダは己の不器用さが、ただただ恨めしかった。



  ・  ・  ・



『姐さん、間違いない。王子ですぜ』


 蜥蜴亜人のアルローが、茂みの奥から見えるそれを報告した。ヘクサ・ヴァイセは自身のキツネ耳をいじる。


『ようやくお出ましね、王子様』


 潜伏しつつ様子を探れば、標的であるラウディと、あの忌々しい騎士生のジュダ・シェードが、ランカム城の兵たちと別荘を出て、移動するところが見えた。


『やはり生きていた、あの忌々しい子!』

『へえ、あいつが姐さんを退けたっていう人間(ヒュージャン)ですかい』


 虎亜人のホーロウが、ニヤリとした。強い相手と戦いたいと常々口にしている武闘派である。


『二人だけですかい? 姫らしいのがいたんじゃありませんでしたかね?』

『……それは、ターゲットじゃない』


 ヘクサは気にはなったが、今、目の前に王子の姿を確認できたから、姫については無視してよいと思い直す。任務に『姫』をどうこうしろ、というものがなかった以上、雑音に過ぎない。


『それにしても、妙なことになってますなァ』


 ホーロウが首をかしげた。


『何で、あいつら仲間を捕まえて引っ立てているんです?』

『オレが知るかよ』


 アルローが煩わしそう返した。ヘクサは自身の顎に指を添える。


『仲間割れ、というのも考え難いけれど、もしかしたら私たちとは別組が動いたのかもしれない』

『別組? どういうことです?』

『おれたち以外に、王子暗殺を命じられていたヤツらがいた?』

『それもヒュージャンの中に?』


 亜人たちはざわつく。ヘクサは、主の顔を思い出しつつ、しかしそういった素振りはなかったから、組織のもっと上の方が動いた可能性を考えた。


『あまり考えたくないけど、私たち囮に使われたかもしれないわね』

『おとり~?』

『オレらが王子暗殺で場を引っかき回し、おいしいところを掻っ攫う……』


 アルローが舌をちらつかせれば、フードで顔を隠すクローウンが口を開いた。


『成功すればよし。失敗すれば、そいつらがやる。二段構えというやつだ』

『ケッ、オレらは当て馬かよ』

『しかし、それでわざわざ別荘を襲うという手の込んだ任務も合点がいく』

『そうさなァ。オレたちが囮ってんなら、筋は通る』


 ホーロウは腕を組む。


『まぁ、それでしくじってりゃあ世話ねえが。ハハッ』

『どうします、姐さん?』


 アルローが片目を、王子たちに向けつつ、もう片方の目をヘクサに向けた。


『まだ王子が生きているんなら、私たちの任務は続行。……反論は?』


 ない、とばかりに亜人たちは首を横に振った。

次話は来月5日頃、投稿予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ