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乙女な王子と魔獣騎士【WEB版】  作者: 柊遊馬


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117/159

第117話、護衛と共に王都から出発


 日が変わる頃、ラウディ王子のご一行は、王都エイレンを離れた。王国南部にあるという王の直轄地、王族の別荘に向けて。


 人目を忍んでの王都からの離脱。その護衛は、ジュダやメイア以外は、ラウディの真の性別を知っている黄金の騎士が六名。


 ――何故、男は俺だけなんだ……?


 ジュダは思う。

 ラウディの別荘行きの護衛が、全員、女性騎士だった。ヴァーレンラント王は、王子の性別を知る者に敢えて女性ばかりを選んだのではないか、と思う。


 こういう性別の偏りを見ると、王子が女好きで、自分の周りを護衛を女で固めているという風にも見える。真の性別を隠すには、そういう見方をされるほうがいいのかもしれないが。


「……ジュダ? どうした?」

「いいえ」


 顔に出したつもりはないが、ラウディに聞かれたので首を横に振っておく。……まるで王子様のハーレムみたいだ、と言ったら、周りも怒るだろうか。


 ジュダは馬車の周りを護衛する彼女たちを見やる。

 黄金の鎧をまとう彼女たちは、一応お忍び旅ということもあって外套(がいとう)を鎧の上から着込み、一見すれば黄金騎士には見えないようにはなっている。……近くから見れば、見えてしまうが。


 黄金騎士六名のうち、護衛隊長を務めるのはラハ。長い黒髪に、褐色の肌の持ち主で美人ではあるが、冷静沈着そうな顔立ちをしている。一見すると寡黙そうな印象だ。……が、話してみると、案外そうでもなかった。


「――君がジュダ・シェード君か。ジャクリーンから、君の話は聞いていたよ」

「教官をご存じなのですか?」

「あれは私と同期でね。よく一緒に剣を振るったものだ」


 ラハは、ジャクリーン・フォレス元教官と学生時代からの知り合いだという。なるほど、黄金騎士になるような人物だけあって、腕前は相当なものだろう。


「……それは災難でしたね」

「ん?」

「彼女、中々やめないでしょう? 一度剣を握ると」

「そうだな」


 ラハは静かに笑った。


「ジャクリーンのお気に入りなのだろう。期待している」

「どうも」


 ラウディの騎士になっても、黄金騎士にはならないぞ、とジュダは心の中で呟いた。スロガーヴは黄金が嫌いである。


 副長を務めるのはガリナ。隊の中でもっとも長身。素朴な感じで、おそらく最年長だろう。隊員を注意する時は、だいたいこの人なところから見て生真面目なのだろう。


「君も殿下のことは聞いているな? すでに耳にたこができるほど聞いているだろうが、くれぐれも秘密は守れよ」

「もちろんです」


 わかりきったことではあるが、それでも言うのが、ガリナという人間なのだろう。

 隊員たちの自己紹介の後、年上だか、うら若い乙女である黄金騎士たちにジュダは、興味本位に取り囲まれた。


「へえ、この子が殿下のお気に入りか」


 銀髪のグレースが、しげしげと見れば、カールした金髪の持ち主であるレオーネは疑うような目を向ける。


「王族を救った若き英雄らしいけれど……冴えないわね」

「でも、強いらしいですよ」


 赤毛の童顔女性はミーラ。ちょっと生意気そうで、軽そうな印象だ。


「それに、それを言ったらラウディ様のご機嫌が悪くなるんじゃないですか? 王族の見立てに否定的なのは、よくないと思いますよぉ」

「それはそれ、これはこれよ」


 レオーネはそっぽを向けば、ミーラは舌を出した。


「……」


 最年少、茶色い髪に無表情なシーニィは、特にコメントがなかった。初見のジュダに対してどういう感情を抱いたのか、まるでわからない。もしかして興味がないのか、とさえ思えるほど反応がなかった。


 グレースとミーラは値踏み、レオーネは警戒感を剥き出し、副長のガリナもどちらかと言えば否定的。好意的なのはラハ隊長だけだが、むしろこちらの方が珍しい。ジャクリーン元教官の同期として、彼女からよい印象をもっていたからであり、普通は他の隊員のように、得体の知れない騎士生を訝しむ。――それもラウディの性別を知っている、という点でも。


 ラウディ専属の護衛でありメイドであるメイアも、ジュダにはそっけないが、他の隊員たちに比べたらまだ好意的であろう。

 なお、旅には、ジュダ、ラウディ、メイア、黄金騎士六名の他、エクートのトニも同行している。



  ・  ・  ・



 南部への旅は、天候にも恵まれ、順調であった。黄金騎士たちは、行軍もお手のもので、ジュダが何かするでもなく、トントンと道中が進んでいった。


 黄金騎士たちは外。ジュダとメイアは馬車の中で、ラウディと一緒にいる時間が多かったが、時々、馬車を操る御者の交代で外に出たりした。

 御者だったり、警戒役の交代で外にいると、黄金騎士らから声を掛けられることも少なくない。


 ラハ隊長は、ジャクリーンという共通の知り合いがいるおかげか、ジュダとも好意的な話をした。しかし、当人がいない欠席裁判じみたやりとりは、いかがなものかと、思ったりもする。

 その辺りは、よくある雑談なのだが、困ったのは、グレースとミーラの時。


「ジュダ君は、ラウディ殿下とどこまで関係が進んでいるのかな?」

「関係、とは?」

「いやあ、君も知ってるでしょう? ラウディ殿下の秘密は。……そんな中で男を選んだって……ねえ」


 いわゆる恋愛的な男女の仲。こういうところは、学生も大人も変わらないのだなとジュダは感じた。


「俺からは言えませんよ。……どう思っているかは、殿下からお聞きください」

「わかってないなぁ、ジュダ君」


 ミーラは笑みを貼りつける。


「そんなこと、恐れ多くて殿下に聞けるわけないでしょ」


 それはそうなのだが、だったら――ジュダは口元を緩ませた。


「では、俺からも言えないことくらいは、想像がつきますよね? いや、残念です。俺も話ができませんから」

「君って、意地が悪いって言われない?」

「よく言われます」


 特に、ラウディからは。

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