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17 初依頼 1

 沈んだ気持ちでギルドの外へと出た私は、そこではたと気付いた。


(……あれ?冒険者にはなったけど……もしかしてまた乗合馬車の旅?)


 この街で冒険者登録をして、しばらくは依頼をこなして生活する。そのはずだったのに、完全にアテが外れてしまった。


(でも、ギルドマスターであるガインさんから面と向かってあれだけハッキリと言われた後でこの街に居座って依頼を受けるのも……)


 どうしたものかと考えていた私に、一緒にギルドの外に出ていたマッドさんから質問が投げかけられる。


「さてアイリさん、この後はさっそく依頼を受けますか?それとも装備を整えるために街を回りますか?」


 私は正直困惑してしまった。マッドさんも部屋の中でさっきのあの会話を聞いていたはずだし、人の話を聞き流すような性格の人ではないはずなのだけど。


「あの……マッドさん…?さっきのガインさんの話、聞いてましたか…?」


「勿論です。もしもアイリさんがこのまま城塞都市エリスに向かう、という選択をするとしても、そこへ向かう乗合馬車が出るまでにはまだ何日かありますからね。

 なのでそれまでに依頼を受けて実績を積むのが良いと思います」


 その実績を積むという行為の最中に私がうっかり死んだりすると困る、という話だったはずなのでは、と私は思う。


「早く街から出て行って欲しい、というのはあくまでガインさん個人の考えで、アイリさんはギルドを出入り禁止になったわけでもありません。

 そもそもこの街で冒険者として登録すること自体は拒否されていませんからね。そういうことです」


 その言葉を聞いた私はハッとしたのだった。言われてみればそうだ。面と向かって街から出て行って欲しい、などと言われたので意気消沈してギルドから出てきてしまっているが、私は先程確かに冒険者証を受け取り、冒険者になっていたのだった。

 それもギルドマスターの権限を使ってランクを引き上げた状態でスタートさせる、という手間をかけてまで、ガインさんは私の冒険者登録を認めてくれたのだ。

 それならマッドさんが言うように、依頼を受けることに問題はないはずだ。そういった事こそ直接言って欲しかったのだけど。


 冒険者がギルドで依頼を受けるのはごく自然なことだ。私の置かれた状況が他の人に比べて多少特殊だっただけで、特に何か規則などに違反したわけでもない。

 街を出るために乗合馬車に乗るとしても、それまでに何日かあるならその間にできる事はあるだろう。


「……そうですね。もうギルドの外に出てしまったので、今日はとりあえず乗合馬車の予定を確認してから、装備を整えたいと思います。

 宿に置いてある今の防具は私には少し重いので、魔法が付与されてたりして、もっと軽くて良い防具があるならそういった物にしたいのですけど…」


「確かに魔法などで特性を付与した装備品は存在しますし、金属が使用されていない場合も多いと聞くので、そういったものであれば重量で動きを阻害する、などということは防げるかと思います。

 ただ…アイリさんはそういったものを身に着けるべきではないかも知れません」


「私は身に着けるべきではない?なぜですか?」


「装備品などに魔法で効果や特性を付与する、といった技術を持った方は非常に限られていますし、1つの物を仕上げるのにも相当な時間がかかるそうです。

 それに安価な材料を用いて複数の特性を持たせようとした場合などは、付与作業の途中で破損させてしまう可能性が高い、という問題もあると聞きます。

 稀に元から特性が付いたものが見つかる事もあるとは聞きますが、その数は少なく、流通量が少ない上にそれに噛み合わない特性を持っている、という場合も多いようなので、有用なものになるほど材料費や需要と供給などの問題から高価になってしまう物が多いのです。なので、そういったものを身に着けていると目立ちます」


「なるほど…」


 上位ランクの冒険者ならそういったものを複数所持していることもあるらしいが、私のランクでそんなものを身に着けている冒険者はほとんどいないそうだ。

 なので目立つし、場合によってはそれを目当てに野盗もどきのような輩に襲われることもあるらしい。

 マッドさんの話の通りなら、そういった物を身に着けるのは私にとってはメリットよりもデメリットの方が大きいだろう。

 私の場合は人目を避けられる状況にあるか、または人目があっても気にしないならば怪我を治す事は容易なのだ。最悪でも、即死するようなことさえ避けていればなんとかなるはずだ。


「それだと剣は……」


「今のそれでは過剰だと、そう感じますか?」


 私は自分の腰に下がった剣を見る。派手な装飾などは無いが、なまくらな刃物くらいなら弾けると言われていたウッドチャックをほとんど抵抗も感じないうちに真っ二つにした剣だ。剣について大した知識は無いが、冒険者にとってこれが一般的、とは言い難いだろう。


「今の話を聞いた限りでは……そう思います」


「そうですか。確かに強い武器も、持っているとそれだけで目立ちます。活躍したとしても、本人というより武器の力だろうと貶す人もいます。しかし、私はその剣はアイリさんに合った物だと思いますよ。

 性能面の話ではなく、アイリさん自身が目立たない、という点で。

 多少の事は剣のせいにしてしまえば済みますし、仮にアイリさんが故意でも不注意でも竜の力を使って木を切り倒したりした場合などに、木も切れないような武器しか持っていないと色々と疑われますからね」


「確かに……そうですね」


 その後少し考えてから武具の交換を諦めた私は、マッドさんに案内されて乗合馬車の予定を確認した後、旅の道具などを扱う商店に入った。

 ロープや松明のような基本的な物の他に、この街にはギルドがあり近場で薬草も取れるためかポーションも有ったのだが、需要があまり無いのかそこには下級のものしか置いていないようだった。

 効能を聞いてみると、小さな切り傷や擦り傷程度の傷にかけると数分程度でそれが治るとのこと。使用期限もあるらしく、それを私が使う機会は無さそうだった。






 翌日、私は1人で街から少し離れた森の中を歩いていた。

 昨日ギルドを出た時点での私はてっきり自分がアレスの街では依頼を受けられず、再び乗合馬車に乗ってエリスと呼ばれる城塞都市に行くものだと思っていたのが、特に何の問題もなく依頼を受けることができたのだった。


「コボルト……見つかるかな?」


私はギルドで「森の調査および可能な場合コボルトの討伐」という依頼を受けていたのだった。なんでもここ最近コボルトと呼ばれている2足歩行の獣の姿をした魔物が森で頻繁に目撃されているそうだ。

 コボルトは非常に弱いとされている魔物だが、石のナイフ、というより鋭い石片と呼べるような物を持っていることもあるらしい。




 しばらく森の中を捜索していると、少し先の場所にコボルトだと思われる存在を見つけることができた。その数は確認できる範囲だと全部で5匹だ。


「……あれかな。確かに2足歩行の獣だけど…」


 なんとコボルトは2足歩行の犬のような姿だった。確かに獣には違いないのだけれど。中には前足で鋭い石片を握っている者もいて、垂れ耳で尻尾は丸まっている。大きさは60センチメートルほどか。

 5匹とも既に私に気付いているようで、ジッとこちら側を見つめ、グルルと低く唸っている。見た目からして、鼻が効くのだろう。


「……やりにくいかも」


 コボルトの姿を見た私はそう呟きながらも剣を抜く。私が2、3歩進んだところで、コボルト達はその場からバラバラに散っていく。私は立ち止まり、襲撃に備えて剣を構えて、周囲を警戒する。


「………………あれ?」


 私は剣を構えたまましばらく待っていたのだが、コボルト達は一向に襲撃して来ない。その後も警戒しながら待つが、音沙汰は無い。


「……もしかして、逃げられた?」


 思い出してみれば、コボルト達の耳は垂れ、尻尾が丸まっていた。初めて見たのであの時はそういうものだと思っていたのだが、今となって考えてみればそれは怯えた犬のようでもあった。


「本能的に避けられてる……?」


 そういえば弱い魔物が父の住む山周辺を本能的に避けていたからこそあそこに村が出来ていたのだった。その娘である私も弱い魔物であるコボルトから本能的に避けられてる、という可能性はある。本能レベルなら姿は関係ないのだろうし。


「……どうしよう」


 コボルトは鼻が効くようだったので、再度探しても接近に気付くのは向こうが先だろう。私より早く気付いて森の中を逃げるそれに追いつくのはおそらく難しい。


「……とりあえず報告かな」


 私は構えるのをやめ、その場に残されていたコボルトが所持していたと思しき石片を念のために回収する。日が暮れないうちに戻って調査結果を報告しようと街に向けて歩き出した。

 こうして私の冒険者初依頼は、非常に締まりのないものになってしまったのだった。

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