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13 アレスの街

 私が目的地としていたアレスと呼ばれるこの街は、街の周囲が背の高い石壁となっていた。これまでに立ち寄った村は木の柵で囲まれただけだったし、高さもまるで違うので圧迫感のようなものを感じる。


 街の出入り口となる場所には門があり、その左右には衛兵が立っていた。壁の内側、門の近くに詰所が設けられ、数人体制で門の周囲の警備や監視、街に出入りする者のチェックなどの業務を行っているそうだ。


 門の前で乗合馬車が止まり、門の前にいた衛兵の1人が近付いて来て中を覗き込んだ。

 軽く中を確認したかと思うと、衛兵はすぐに元の場所へと戻り、そのまま乗合馬車は門を通り抜け、街へと入った。てっきり個別に身体検査などが行われ時間を取られるのかと思っていたが、そんなことはなかった。

 乗合馬車だから検査が緩いのか、冒険者などが常時武器を携行しているからなのかは分からないけれど。そもそも、魔法があるこの世界で身体検査をしても大した意味は無いのかも知れない。

 もしかしたら身体検査や悪意を見抜く、などといったことができる魔法が存在する可能性もあるが、魔法に詳しいわけではないのでその辺りは不明だ。


 街に入ったので、私と村からの案内役であるもう1人、マッドさんは乗合馬車から降りる。


「またね、お姉ちゃん!」


「うん、またね」


 この街は乗合馬車が往復する陸路の中間地点辺りで、降りたのは私とマッドさんだけだった。旅の途中で私に懐いた女の子、リッタちゃんとはここでお別れだ。

 彼女が私に冒険者になると意気込む度に、父親と思われる男性が心底心配そうな表情をこちらに向けていたので、リッタちゃんがどこかで思い直して、冒険者になることを諦めてくれるといいのだけど。


 私とリッタちゃんがお別れを済ませると、乗合馬車はそのまま街の中へと走って行った。数日程度街中に留まり補給などを済ませてから、街の反対側にある門を通って出て行くのだろう。


 門を通るのに思ったより時間がかからなかったとはいえ、今日はもう数時間もしないうちに日が暮れる。

 私は街に着いたらそのままギルドと呼ばれる場所に向かい、冒険者としての登録を済ませようと考えていたのだが、マッドさんが日を改めた方が良いと言ったので、それに従っておく。

 受付などは今からでもしてくれるそうだが、早めに宿を取る方が良いと言われた。部屋に空きが無ければ他の宿を探し回る羽目になるので、言われてみればその通りだ。


 乗合馬車がこれから向かう先にはもっと大きな都市などもあるらしいが、私は冒険者になることが目的だったので、ギルドが設置されている中で一番近かったこの街に来た。

 そのため規模はそこまで大きくはないはずなのだが、人通りはそこそこある。屋敷も村も人口密度は高くなかったので、私に向けられる視線の多さに少し驚いた。私はその中をマッドさんに連れられて進み、そこそこ立派な宿へと入る。

 宿に行くまでに通った道の途中にギルドがあったようで、通る際に軽く説明された。


 宿に入った私達は受付へと向かう。マッドさんが受付と会話して、部屋を2つ取ってくれた。その際にマッドさんが私の分の宿代まで払おうとしていたようだが、流石に断った。むしろお世話になり過ぎて私が2部屋分を支払いたいくらいだと言ったが、それはそれで断られた。


 宿の奥へと進み、より手前に部屋があったマッドさんと別れると、私は受付で貰った鍵を使い、部屋の扉を開ける。中には2台のベッド、木製の丸テーブルが1脚に、椅子が2脚が置かれていた。


 部屋に入った私は腰に下げた剣を外すと、身に着けていた手甲や脚絆、胸当てといった防具なども外し、丸テーブルの上へと置く。金属性のプレートで補強されたそれらは普段の状態の私では軽いとは言い難い物だ。

 その重量のせいで多少動きを阻害されているような感じはしているので、着けたくない気持ちはある。しかし、私のためにわざわざ用意された物ではあるし、それで自分の身を守れることもいくらかはあるだろうと考えると悩むところだ。

 形態制御のギフトを使う前提なら竜の鱗の方が硬いし、怪我した部位を霧化させてから元に戻せば同時に傷も治るのだけれど、世界を廻るのが目的の私は積極的に目立つ様なことはしたくないし、そもそも怪我をすれば痛いのだ。


 そんなことを考えながら、革靴を外した私はベッドに寝転がる。そこまで柔らかいわけではなかったが、これまでが乗合馬車の木の板でできた床だったことを考えれば十分だと感じる。

 それでも地面で寝ていた傭兵や大人の男性達よりは待遇が良かったのだけれど。村に向かう途中の野営もそうだったが、数日も同じ生活をしているとどうしても無感動になってしまう。防具の件も含めて、冒険者になるのならばそういった事にも慣れていかないといけないのは分かっているのだが、まだまだ難しいようだ。


「街の散策に……あ、ダメだ動きたくない……」


 当初の予定では街に着いたらその日のうちにギルドで冒険者として登録をしてから、街を散策するくらいのつもりだったはずなのに、いざベッドに寝転がったら全く動く気が無くなってしまった。慣れない旅の疲れもあったのか段々と瞼が重くなっていく。






「………さん、アイリさん」


 マッドさんに揺り起こされた。

 夕食の時間になったので、わざわざ私を呼びに来てくれたらしいが、扉をノックしても声をかけても私が返事をせず、物音もしなかったので心配していたそうだ。

 その後のノックで扉が少し開いたので鍵がかかっていない事を知って、断りを入れてから中へ入ると、私が寝ていたとのことだった。

 私としては少し寝心地を確かめるだけのつもりだったので、鍵もかけていなかったようだ。マッドさんにまたお世話になってしまった。


 私は食堂へ移動すると、夕食を取った。宿で出るであろうしっかりと味付けがされているはずの料理を楽しみにしていたはずなのだけど、寝起きだからか多少味覚がぼやけている気がする。睡魔に負けた自分が悪いのだが、少々悲しい。


 その後は身体を拭いたりしてから、ベッドへ潜り込んだ。

 食事の時には、直前まで睡魔に負けていたせいで悲しい思いをしたのだけど、残念ながら今回もすぐ睡魔に負けて、私は眠りについた。






「よし、いざギルドへ」


 翌朝、私は1人で勇んでギルドへと向かう。これから私の冒険者としての生活が始まっていくのだ。すでに不安要素を抱えていたりはするけれど。主に精神的なやつ。マッドさんにはお世話になりっぱなしだから、今回は私だけで冒険者登録を終わらせる。


 ギルドの入り口はごく普通の両開きのドアだった。ウエスタンドアとか想像してたのだけど。酒場とかがあるなら流石にウエスタンドアなのかな。


 そんな事を考えながらギルド内へ1歩踏み出すと、ギルド内が静かになった。

 ほぼ全員の値踏みの視線が私に向けられている。なかなかの居心地の悪さである。

 しかしそれも一瞬で、ほとんどの人は元々していたことを再開したようだった。


「さて受付っと……」


 ギルド内を歩き、受付嬢の前に来た。受付嬢は朗らかな顔で私の対応をする。


「こんにちは、お嬢ちゃん。はい、ではこれを書いてくださいね」


「はい。………あの、これは?」


「はい、これは依頼書です。依頼の内容や期間、報酬を設定するために書く物ですね」


「あの、私は依頼主ではなくて冒険者になるためにここに……」


「……えっ!冒険者志望?!……あなたが?」


 受付嬢の顔から朗らかさが消え、値踏みをするような目になる。


「あの……はい」


「ギルド職員志望とかじゃなくて?」


「じゃなくて…冒険者登録を……」


「んー……そう、ちょっと待ってて。とりあえずこれを書き込んでおいてくれる?」


 受付嬢は私に紙を渡すと奥へ引っ込んでいった。私はその紙に書き込みをしながら待つ。

 しばらくして、受付嬢が戻ってきた。側にさっきは居なかった男性が立っているので、おそらくあの人を呼びに行っていたのだろう。


「書き終わったかしらね。じゃあ見せてもらって…名前はアイリ、25歳、冒険者希望、犯罪歴無し、武器は剣……」


「25だと?そんな見た目でか?虚偽報告は規律違反で処分の対象になるんだぞ」


 本当の事しか書いてないのに怒られている気がする。傭兵達といいリッタちゃんといい全く信じてもらえない。


「おい嬢ちゃん、いくら酒が飲みたいからって嘘言っちゃいけねぇよー?」


「そうだそうだー」


「むしろ酌してくれー」


「ちげェねぇ、アッハッハッハ!」


 後ろで煽る野次馬たち。

 どうやら今の私は「お酒が飲みたいがために虚偽の年齢で冒険者登録をしようとしている少女」になっているようだ。

 この状況をどうしたら良いのだろうかと考えていると、ギルドのドアが開いた。


「アイリさん?いますか?」


「あっ、マッドさん」


「アイリさんが1人で行かれると問題が起きそうだと思っていましたが、やっぱり起きていましたね」


「それは……面目ない限りで……」


 私はなんだか肩身の狭い思いを覚える。


「ローガン、奥の部屋使えるか?」


「マッドか。何なんだこの娘は?」


「奥で話すさ。さあ、アイリさんも」


「え、あ、はい」


 私達はそのままギルドの奥の部屋へと通された。ギルドの人と名前で呼び合う程度の面識はあったようなので、マッドさんはもしかしてギルドの関係者とかだったのだろうか。

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