第81話 逃亡
リュウは振り下ろした剣を僕の背中部分に深々と突き刺した。
j背部はメタルボックスの唯一の弱点。
最も柔らかくなっている部分に鋭利な剣で突き刺したのだ。
剣は箱を貫通し、僕ごと地面に突き刺さる。
うわぁぁぁ!
激しい痛みが棒の体を襲う。
逃げなきゃ…早く逃げなきゃ。
痛みに耐えながら僕はなんとか動こうと試みた。
しかし、剣で地面に縫い付けられた僕は全く動くことが出来なかった。
(光、俺がお前を殺さなければあかんって思ったのは、お前のそんなところや。
どんな危ない目にあっても、冷静に逆転を考えとる。
お前は危険や。ここで殺しとかなあかんのや。)
リュウの言葉に嘘偽りは全く感じられない。
リュウは確実に僕を葬る気だ。
殺される…。
全身に寒気が走る。
現実世界でも殺人犯に睨まれている時は、こんな気分なんだろうか?
恐怖・絶望感・そして後悔…。
リュウの体が禍々しく光始める。
(光には、魔神の宝玉のレアスキルを食らわしたる。
このスキルは中身を破壊するんや、堅い箱があろうとなかろうと関係ないねん。)
なぜ、リュウは魔神の宝玉のスキルを使えるんだ?
レアアイテムを異世界収納に保管すると、体が赤く光らない代わりにレアアイテムのスキルとお政効果が使えなくなる。
リュウが僕に教えたことだ。
リュウはこのフロアに来てから、体は赤く光ってなかった。
レアアイテムを異世界収納に保管しているはずなんだ。
(なぜ、魔神の宝玉のレアスキルが使えるんだ?
異世界収納に入れていたら使えなくなるはずじゃ?)
僕の質問にリュウの動きは一瞬止まった。
しかし、それもほんの一瞬。
リュウの言葉に僕は戦慄を覚えた。
(そういや、そんなこと言ったなぁ。あれは嘘や。
別に異世界収納に入れんでも、いくらでも方法があるわ。))
その瞬間、僕は全てを理解した。
リュウを信じていた僕が馬鹿だったと。
ミミックは信じてはいけない。
ミミックは嘘つきだ。
騙された僕が悪い。
しかし時すでに遅し。
身動きの取れない僕は、リュウの攻撃を待つだけとなったのだ。
(今度こそ終わりや。根絶!)
リュウは魔神の宝玉のスキル【根絶】を実行した。
バキッ
鈍い音が響き、リュウの上蓋が箱から剥がれ、回転しながら宙を舞った。
勢い余ったリュウは、そのまま後方に倒れてしまった。
僕の前に1人の巨人が僕を守るように立っていた。
ハルクだ。
隻腕となりながらも、片手でリュウの蓋をもぎ取ったのだ、
(光、でぇ丈夫か?)
ハルクの切断された右腕の付け根から、おびただしい量の血があふれ出ている。
ハルクは僕の方を向き頷くと、リュウの方に向かって行った。
ハルクのサッカーキックが、倒れているリュウの側面にまともにぶち当たる。
部屋中に響き渡るほどの爆音を立てて、リュウの体が吹き飛ばされた。
僕にガッツポーズを見せるハルク。
しかし、次の瞬間ハルクの肩口が爆発した。
リュウはハルクに攻撃される直前に、魔神の宝玉のレアスキル【根絶】を発動していたのだ。
一度使ったが最後、その効果は部屋全体に広がる。
【根絶】は僕らだけでなく部屋中の者に襲いかかった。
部屋中に獣人たちの叫び声が充満した。
腹部が爆発し、内臓をぶちまける女性の獣人。
首から上が吹き飛び、ゆっくりと崩れ落ちる獣人。
リリアも例外ではなかった。
胸から左腕が吹き飛び、声も上げる間もなくその場に倒れた。
「死にたく…ない…。」
リリアは最後に一言を残し、そのまま動かなくなった。
「貴様だったのか…」
腹部と背部に二度の爆発を受けた族長も、大きな音を立てながら崩れ落ちた。
箱の中で、僕の本体も【根絶】による爆発を繰り返す。
激しい痛みと振動。
意識を失いそうになりながらも、僕はその地獄絵図をじっと見つめていた。
「逃げるぞ、光。」
ハルクは残った左腕で僕を抱え、部屋の入り口に向かって走り始めた。
ドン、ドドン。
逃げるハルクの背中や脚に爆発が生じる。
しかし、ハルクは止まらない。
大量の血を流しながらも猛スピードでかけていく。
(お前らは逃がさねぇ。)
部屋の入り口の前に突如現れたリュウ。
上蓋を失いながらも、その動きの速さは変わっていない。
僕らに何らかのスキルを使用しようとしているようだ。
トップスピードに乗っているハルクは、リュウが前方に現れても方向転換をすることができない。
まして右腕を失くし、左腕で僕を抱えているリュウには攻撃を防ぐこともできない。
止まるどころか更にスピードを上げるハルク。
リュウとの距離が加速度的に縮まってきた。
しかし、リュウの攻撃の方が早い。
彼は異世界収納から巨大な槍を取り出し、僕らに狙いを定めた。
リュウが槍を投げようとした瞬間。
突然黒い影がリュウを押し倒した。
クロコだ!
頭に大きな風穴を開けながらも、クロコはリュウの箱に噛みついたのだ。
ミシミシッ、バキバキ。
クロコの強力な顎がリュウの箱を押しつぶす。
リュウの箱は音を立てて崩れ始めた。
バキバキッ、ミシッ。
破壊された箱の断片が地面に散乱する。
リュウは持っていた槍をクロコに何度も突き刺すが、クロコの噛む力は弱まることはない。
クロコとリュウの間を走り抜けるハルク。
僕らはついに部屋を出たのだ。
しかし、安心するにはまだ早かった。
後方から飛んできた槍がハルクの背中を貫き、僕の箱にも突き刺さった。
前のめりに倒れるハルク。
後ろを振り返ると、炎に包まれたクロコの姿があった。
「朝起きるとミミックになっていた~捕食するためには戦略が必要なんです~」を読んでいただきありがとうございます!
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