第76話 リュウの強さ
左足を失い、もう一方のアキレス腱も口ちぎられた族長はもう立っていることは出来なかった。
僕が食べた部分は足首から下の部分だが、それでも両足の支えを失った族長はその場で両膝をついたのだ。
僕と族長の闘いを傍観していた獣人たちは、今は族長の前に立ち僕を睨みつけている。
僕はこれ以上の闘いはもうしたくは無かった。
早くハルクとクロコを安全なところに避難させたかった。
(光、上出来や。後は俺がやったる。)
リュウはそう言うと、ゆっくりと僕の方に近寄ってきた。
僕よりも一回り以上大きいリュウの宝箱は、細かい傷はついているものの大きな傷は見当たらない。
戦闘の度に率先して前線で戦うも、相手の攻撃を受けているのを見たことがない。
リュウは強いと言うより、巧いのだ。
僕の傍を素通りし、まっすぐ族長の方へ向かうリュウ。
リュウは自分の宝箱の中から、細部まで技巧が凝らされたような高価そうな剣を取り出した。
(これ苦労して手に入れたんや。)
武器を取り出したリュウに、族長を守っている獣人たちが反応する。
鎧と盾、腱や槍などの武器を装備した5人の獣人。
おそらく族長の親衛隊か何かだろう。
他の獣人とは感じる圧力がまるで違う。
武器を構え威嚇する5人の獣人たち。
しかし、リュウは全く意にも介さず、まっすぐ族長に向かって移動する。
舌で剣を掴み、素振りをしながら移動して獣人たちを挑発したのだ。
我慢できず、飛び込む1人の獣人。
剣を振りかぶりながら、リュウへ襲いかかった。
族長ほどではないが、大型の剣をリュウに向かって振り下ろす。
リュウは持っている剣で獣人の斬撃を正面から受けようと構えた。
獣人の剣がリュウの剣に当たる瞬間、獣人は急に空いた穴に吸い込まれた。
落とし穴だ。
リュウは斬撃を剣で受けるように見せかけ、相手を落とし穴で落としたのだ。
落とし穴に落ちた獣人を上から覗き込むリュウ。
リュウは口を開け、ドロドロした無色透明の液を穴へと流し込んだ。
ジュッと鳴ったかと思うと、焦げるような臭いと共に獣人の叫び声が聞こえて来た。
あれは、硫酸だ。
リュウは大量の硫酸を穴に流し込んだのだ。
激しい叫び声はそう長くは続かなかった。
リュウは何事もなかったかのように族長に向かって進み始めた。
散開して四方から同時に、リュウに襲いかかる獣人たち。
リュウは辺り一帯に強力な【重力操作】を使用した。
僕も含め、獣人たちに強力な重力負荷がのしかかる。
しかし動きが遅くなったものの、獣人たちはこの負荷の中でも動けるようだ。
4人の獣人は再び武器を構え、リュウに向かって行った。
剣、槍、ハンマー、斧。
それぞれの武器がリュウに襲いかかる。
しかし、攻撃が当たる瞬間、全ての武器が根本から床へと崩れ落ちる。
持っている武器が全てボロボロに朽ち落ちてしまったのだ。
おそらくリュウのスキルだろう。
獣人たちが持っていた武器は、既に原型をとどめていなかった。
手から崩れ落ちた武器を、信じられないという表情で見つめる獣人たち。
その一瞬の隙を狙って、リュウが獣人の頭を噛みちぎった。
族長が大声で指示を送るも時すでに遅し。
リュウは獣人立ち全ての頭を噛みちぎったのだ。
スキルを使ったリュウはここまで強かったのか。
今まで僕に見られないように、スキルを隠していたリュウ。
もう僕には、スキルを隠す必要がなくなったとでもいうの?
他の獣人の肩を借りて立ち上がった族長。
右足のふくらはぎからは、今も大量の血が流れ出ている。
リュウは族長も食べるのか。
僕らは今殺気に満ちた獣人たちに取り囲まれている。
彼らは血走った目で武器を構え、僕らの様子を伺っているのだ。
族長が僕に攻撃したのとは訳が違う。
族長を攻撃したら、全獣人たちが一斉に襲ってくるだろう。
リュウは族長に近づき、何かを話しているようだ。
個々からでは、僕にはリュウと族長とのやり取りが感じられない。
しかし、リュウのことだ。
族長に命乞いをするようなことを言わないだろう。
リュウと族長がやり取りしている間も、他の獣人達から強い殺意を向けられている。
張りつめた空気にさらに緊張感が増す。
族長と話し終えたのだろうか。
リュウは族長に背を向け僕の方へと向かってくる。
(リュウ、族長と何を話していたんだ?)
僕はリュウにたずねた。
(ああ、族長も引き際を探しているみたいや。
これ以上闘いを広げたくないって言ってたわ。
ただ、それには魔神の宝玉か獣神の宝玉が戻ってくることが条件。
光を渡せば、見逃してやるって言ってたわ。
立ってるのがやっとやのに、なに言ってんの?って感じやな。)
僕を…?そうだ、族長は僕を魔神の宝玉を盗んだと思ってる。
獣神の宝玉についても情報を持っているって思っているんだ。
(それで何て答えたの?)
僕はリュウが何て答えたのか気になった。
リュウなら僕を売るかも知れない。
(あいつに勝ったら好きにしてええでって言ってやったわ。)
(は?それってどういう…)
僕が言い終わらないうちに、ものすごい数の獣人たちが四方から僕に向かって来た。
(光、せいぜい頑張るんやで)
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