第73話 獣人族族長
僕たちはリリアがレアアイテム「魔人の宝玉」を預けたという獣人に会うために、北西のエリアに向かっていた。
確かにリュウの言う通り、レアアイテム「獣神の宝玉」を異次元収納に保管してからは敵に襲われる頻度は激減した。
もちろん、全くなくなった訳ではない。
単発で襲われることもあるが、今のところそこまで強力な相手には遭遇していない。
目的地に近づくに連れ、テントで野営している獣人たちが増えてきた。
宝物庫で野営…。
とても不思議な感じがするが、このフロアの規模ならそれも仕方がないのだろう。
焚火の後もあるが、どうやって燃料を集めているんだろう…。
野営しているのはほとんどが獣人たちだ。
獣人たちはとにかく戦士風の人たちが多い。
どの戦士たちも鎧は簡素なものだが、持っている武器は大型の物ばかりだ。
内に秘めているパワーの大きさが感じられる。
リリアは彼ら達とは顔見知りのようだ。
彼女に気が付くと獣人たちの方から手を振ってくれる。
中にはリリアに近寄り、食べ物を渡す者までいる。
どうやらリリアがこの地で「魔神の宝玉」を預けたという話は、嘘でなないようだ。
しかしリリアには優しい顔をする獣人たちが、僕やリュウには怒りに満ちた視線を送ってくる。
よそ者、いやミミックを毛嫌いしているのか?
毛嫌い…、というレベルでもないようだ。
彼らの目には憎悪の文字が浮かんでいる。
確かにミミックが多い7階層。
彼らの仲間たちも何人も食べられただろう。
しかし、彼らの目に映る憎悪の念は、ただ単に仲間がやられただけではないような気がする。
リュウに視線を移すと、特に気にする様子が無いばかりかリリアにプライベートの質問攻めをしている。
肝が据わっているのか、無神経なのか。
いずれにしても、僕よりも大物であることに変わりは無い。
北西に進めば進むほど野営をしている獣人たちが増えてきた。
その規模は数百人をゆうに超えていたのだ。
ここまでの獣人たちを統率できる者。
一体、リリアが「魔神の宝玉」を預けた相手とは一体何者なんだろう?
リリアの主人である獣人の戦士の影響力は、どのくらいあるのだろうか?
北西エリアは獣人たちが管理しているエリアだ。
僕が見る限り、獣人たちが待機しているエリアでは戦闘が行われていない。
にもかかわらず、奥へ進めば進むほど獣人たちの張りつめた緊張感が僕にも感じられる。
さらに僕とリュウへの態度も酷くなってきた。
僕らを見かけるだけで、暴言を投げつける者、襲いかかろうとして仲間に止められている獣人もいる。
間違いなく、ミミックと獣人たちの間で何かがあったのだろう。
リリアの目指す人に会えば、何か分かるのだろうか?
「あっ、あそこだ」
リリアが指さしたところは、通路に門番らしき獣人たちが5人ほど立っている大きな部屋のようだ。
マップを確認すると丁度最北西の部屋だった。
他の部屋の4つ分はあろうかという、巨大な一つの部屋となっている。
部屋の奥にリリアが宝玉を預けた獣人がいるらしい。
リリアが門番の所へ向かおうとすると、部屋の中から大男が姿を現した。
僕がかつて敗れた獣人の戦士に匹敵する体格で、無精ひげだらけの顔に似合わない可愛い獣耳が頭の上にぴょこんと立っている。
胸に大きな包帯が巻かれており、傷はまだ新しいのかうっすら紅く染まっている。
相手を丸ごと飲み込むような力強いオーラは、獣人の戦士に匹敵、いやそれ以上だ。
僕は反射的に攻撃態勢を取ってしまっていた。
大男は、ゆっくりと部屋から通路に向かって歩いてくる。
門番たちはその者に気付くと、敬礼しながら道を開けたのだ。
「族長~」
大男に向かって、笑顔でかけていくリリア。
リリアを確認すると、大男の表情が少し緩んだようにも見える。
大男は中年というより、壮年のようだ。
獣人族の年齢の基準はよく分からないが、人間でいうと70歳前後くらいだろう。
族長と呼ばれる男は、リリアから僕たちに視線を移した。
高齢とは思えない鋭い眼光、何もかも見透かされているような深い眼差し。
僕は彼に見つめられているだけで、背筋が凍るような思いに駆られた。
「リリア、お前が預けた宝玉はもうここには無いのだよ。」
「えっ」
族長の言葉に、リリアは言葉を失った。
「お前がここを去ってすぐ、宝玉を儂専用の宝物庫に保管した。
お前も知っての通り、宝物庫は儂の兵の中でも最強の者たちが門番をしていた。
たとえ何人でも奴らを倒して中に入ることは出来ないだろう。」
「じゃあ、どうして!?」
族長は、一旦話を止め、ふぅっと大きく息を吐いた。
「ミミックだ!儂の宝物庫にすでにミミックが入り込んでいたのだ!」
「朝起きるとミミックになっていた~捕食するためには戦略が必要なんです~」を読んでいただきありがとうございます!
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