第69話 リリアからの依頼
「私を8階層まで連れて行って」
彼女の言葉は、僕たちの言葉を奪った。
僕とハルクの共通の敵、クロコの元の主人である獣人の戦士の仲間と行動を共にする…!?
おそらく僕とハルクのことは分からないと思うが、そんなリスクばかりの提案に乗るはずが無い。
いったいどういうつもりで言ったのだろう?
「なんかさー、あの人に一人で行かされたけど、私って弱いの。
さっきのオークたちにも苦戦してたでしょ?
それに1人で7階層を超えて8階層に戻れなんて私には無理。
あんたたちも7階層超えて行くんでしょ?
じゃあさ、一緒に連れて行ってよ。」
8階層から来たということは7階層を超えたってことか。
確かに7階層を攻略するヒントになるかもしれない。
この子が嘘をついてなければだけど。
(君は7階層を超えて来たの?1人で一体どうやって?)
僕は彼女の脳に直接話しかけると彼女は一瞬ビックリした表情を見せ、僕をまじまじと見つめた。
「あんた、ようやくしゃべってくれたわね。ふーん、そんな形でしゃべるんだ。」
いたずらっ子のような表情を見せた彼女の顔が、一瞬幼く見えた。
「初めは護衛を連れていたわよ。でも7階層を超えたら別の用事があるからって別れちゃった。7階層を超えるまでの護衛だったから仕方ないのよねー。」
(じゃあ、君は6階層をずっと1人で進んでいたんだ?それって結構すごいことだと思う。)
事実、6階層の敵は一癖も二癖もある奴が多い。
それを1人で進めるなんて、初めて会った時とは比べ物にならない。
「まあねー。私も苦労してきたから、これぐらいはね。
っていうか、なんであんたのようなミミックが仕切ってるのよ。
リーダーは誰よ?
大きいあんたがそうなんじゃないの?」
「オデ?オデはリーダーなんかじゃない。」
急に振られてビックリしたハルクだったが、彼女の問いにはっきりと答えた。
「そうよね。あんたじゃなさそうね。バカそうなんだもの。」
彼女は一体何様のつもりだ。僕は段々腹が立ってきた。
「我はそちらのミミックを主としている。あまり無礼なことを言うとお前でも許さないぞ。」
クロコの低い唸り声に、彼女の表情が青ざめる。
どうやらクロコの強さの事は知っているようだ。
「もー、冗談よ。ちょっとからかっただけ。
で、どうするの?
私を連れて行くの?行かないの?」
(姉さん、俺らと一緒に行こうや。
うちらオスばっかりで、華やかさがないねん。)
彼女の問いに即座に答えたのは、リュウだった。
彼は彼女に敵意がないことを示すためか、彼女の傍に寄り口を限界まで開き、箱の中身を見せた。
「あんただけがこの中で一番まともみたいね。決定でいいの?
私を連れて行くと7階層の攻略法も教えてあげるわよ。」
(ちょっと待って)
僕は全員を集め彼女から距離を取って、その場で彼女を連れて行くかどうかの話し合いを行った。
(連れていけばいいやん。7階層の攻略が楽に出来るかもしれんやろ。
なんだかんだで情報もってると思うわ。)
と、リュウが言うと、
「オデは好かん。あいつを戦うどきに借りをつぐりたぐね。」
とハルクが返す。
「我もあの女は好かんが、役に立つ情報を持っているはず。上手く利用すればいいのでは?」
意外にもクロコは肯定派だった。
最終的には、僕の判断に委ねられることになった。
僕は・・・・。
(連れて行くなら条件をつければいいんじゃない?)
確かに何度か7階層を出入りしている彼女の情報は魅力的だ。
7階層を攻略して次の層に行くという、彼女の目的も僕らの目的と合致する。
彼女自身も強くなっているので、お守りをする必要もないだろう。
彼女を連れて行けば、よりスムースに7階層の攻略が出来るだろう。
しかし、スパイ疑惑のある彼女を単独行動させるのは危険だ。
何らかの方法で彼女が獣人の戦士に情報を送ってしまうと、いつか奴を倒そうという僕とハルクの情報が筒抜けになってしまう。
それだけは絶対に避けたい。
そこで考えたのが、同行の条件だ。
ルールを決めることで、彼女の単独行動はある程度は防げるだろう。
要は彼女に情報を送る暇を与えなければよいのだ。
そこで決めたのが以下のルール
・僕らから10m以上離れない
・単独行動禁止(戦闘中も含む)
・戦闘では後衛に回らず中衛に
・移動魔法使用禁止
・得たアイテムは均等に分ける
僕らから10m以上離れないのは必須だ。不審な行動を起こさないように常に監視下におきたい。
・単独行動は可能な限り防ぎたい。例え戦闘中であっても彼女の行動は確認していたい。
・もともと後衛の彼女だが、彼女が僕らに攻撃してくる可能性も無いとは言い切れない。
中衛に配置することで、クロコが彼女の動きをチェックすることが出来るだろう。
・移動魔法を持っているかどうかは分からないが、逃げられるのを防止するためだ。
・得たアイテムも均等に分けることは、同行者であっても当然の権利だと思う。このルールだけは彼女を拘束するという目的ではない。
僕は彼女に条件を提示し、彼女からの反応を待った。
「おおむね理解は出来たけど、10mは短すぎない。もう少し離れてもいいでしょ?」
(なぜだ?)
「だって色々女の子にはあるのよ。あんたらに言ってもわからないだろうけど。」
(トイレか)と聞こうと思ったが、なんとなく聞くのをやめた。
「じゃあ、よろしくね。私はリリアよ。あんたたちは何て呼べばいいの?」
先行きは不安だが、彼女も僕らのパーティに加わることになったのだ。
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