第67話 6階層攻略再開
ネクロマンシーが成立後、大ワニはゆっくりと眼を開けた。
本人も何が起きたのかまだ理解出来ていないのだろう。
キョロキョロと辺りを見回している。
しかし、僕を見た瞬間に何が起こっているのかが理解できたようだ。
僕をしっかりと見据え、首を垂れた。
「マスター、我を使役していただきありがとうございます。」
僕は彼の言語機能をいじった訳ではない。
もともと大ワニは話す力を持っていたようだ。
強さに加え、知性も感じられる。
(これからよろしく頼む、き、お前の名前はなんだ?)
主人らしく振舞おうとして偉そうな口ぶりをしようとしたが、どうも慣れない。
逆にしどろもどろになってしまった。
「いえ、我に名前はありませんし、呼ばれたこともありません。」
いったい前の主人は彼をどう扱っていたのだろう?
僕はまずは彼に名前をつけてあげようとした。
(き、お前の名前はクロコだ。これからそう呼ばせてもらう)
「クロコですか、良い名前ですね。マスター、ありがとうございます。
これからクロコと名乗らせていただきます。」
彼も名前が気に入ったようだ。
険しい顔が少しほころんだように見える。
(ところでお前に聞きたいことがある)
僕はクロコに前の主人のことや、この部屋を守っていた理由を聞こうとした。
「マスター、誠に申し訳ございませんが、前の主人のことを深く語ることは出来ません。
前の主人とはそういった契約をしており、我が死んでもその契約を破ることはできないのです。」
死んだ後も持続する契約とは、いったいどのようなものなのだろう。
ただ、クロコの忠義心の高さが伺える。
「話せる範囲でお答えします。」
前の主人についての詳細情報は聞くことは出来なさそうだが、一部の情報なら引き出せそうだ。
「我の前のマスターは、とても強い男でした。
一人で我の種族を制圧し、我らにこの地を守るようにおっしゃいました。
彼は我らに闘い方を教え、様々な知恵を授けてくれました。
魔法について訓練をしてくれたのもマスターなんです。」
一人でワニ族を制圧できる力を持つ男。
かなりの強さが伺える。
「マスターが我らに与えた任務は、宝を集め守ること。
マスターは各地で宝やアイテムを集め、ダンジョン内の部屋に保管しているようです。
この場所もそのうちの一つ。
マスターはいくつもの宝物庫を所有しているそうです。」
圧倒的な強さを持ち、アイテムや宝を集め回っている男。
僕の知る限りでは1人しかいない。
まさかね。
「我はあなたたちに破れ、マスターも変更となりました。
今後我はどうすればよいのでしょうか?ご指示をお願いします。」
この堅い話し方はクロコなりの忠義心の現れなんだろう。
僕は彼に新しい任務を与えることにした。
(クロコ、お前は僕と一緒に行こう。このダンジョンを攻略するのを助けてくれ)
「承知しました、マスター。このクロコ、微力ではございますが全力でお仕えさせていただきます。
こうしてクロコが新たに仲間に加わった。
心機一転してまずは7階層を目指そう。
関西弁ミミックは、今後どうするのだろうか?
出来れば敵としては遭遇したくはない相手だ。
(君はどうする?良かったら僕たちと一緒に行かないか?)
僕は関西弁ミミックもパーティに誘った。
(そうやなー。俺はいつも一人で行動してたけど、7階層は一人じゃ無理そうやわ。兄さんと一緒の方が可能性はあるな)
関西弁ミミックも今までソロで戦っていたようだ。
どこか信頼の置けない奴だが、強さは本物。
彼が味方になってくれれば、戦力が大幅に増強できそうだ。
(それではよろしく。僕は光。君は?)
(俺は龍平。リュウと呼んでくれ)
彼が名乗った名前は日本名だ。
偽名かもしれないが、彼がゲームプレイヤーであることは間違いないだろう。
こうして新たな仲間リュウとクロコが加入し、僕らはまずは7階層を目指すことになった。
クロコが僕を咥え、ハルクがリュウを抱えながら水路を泳いで渡り、地底湖の向こう岸に到着した。
色んなことがあったが、まだ6階層は前半部分。
僕たちは濡れた体のまま、ダンジョンの奥へと進み始めた。
リュウは本当に一人で攻略してきたのかと思えるほど話好きだ。
道中様々な話をしてきて場を和ませる。
しかも会話ごとにしっかりオチを入れてくるのは、関西人ならでは。
色々な秘密を隠しているのは確かだが、僕は彼との旅は嫌いではなかった。
彼は僕よりもずっとミミックらしかった。
敵を感知する能力は僕より数段優れており、敵に見つかる前に自信を宝箱化して油断を誘う。
その完璧な擬態能力は、味方の僕でも本物の宝箱に見えてしまうほどだ。
相手に攻撃する時は常に一撃必殺。
ミミックと分からないまま倒されていく敵も多い。
罠の回避もお手のものだ。
道中にいくつか現れた複雑なトラップも、何の労もなく解除していく。
解除した後に、より強力な罠を仕掛けていく姿勢も見習わなくてはならない。
いったい今までどれだけの苦労を経験したのだろうか。
そんじょそこらの経験でここまで見事にいくことはないだろう。
ただ、彼は協調性が低い。
3者が合意していることでも、リュウだけが反対することが多い。
それ自体はパーティではよく起こるであろうことなのだが、彼は絶対に自分から折れることはない。
例えば、探索の途中で道が二つに分かれているエリアに遭遇した時のことだ。
リュウを除く全員が右へ進もうと言うも、リュウは左に行くと頑なに意見を曲げない。
3人がお互いの意見を言い合っても、リュウは聞く耳なし。
最終的には僕らが折れて左に行ったほどだ。
もしかすると、この性格が影響して今までソロで行動していたのだろうか。
重大な場面では彼のこの性格が災いとなるかもしれない。
使役した大ワニ、クロコも頼りになる存在だ。
戦闘になると常に前衛に立ち、ハルクとともに敵の攻撃を身を呈して防いでくれる。
破壊力のある尻尾攻撃と、岩をも破壊する噛みつきは敵の装甲ごと噛み砕く。
スキル【雄たけび】で敵の恐怖心を誘い、相手の行動を不能とする。
彼の得意なのは物理攻撃だけではない。
実は意外にも博識で魔法も得意。
【鑑定スキル】も用いず敵の特徴を言い当て、弱点まで見破ってしまう。
しかも、僕らの能力を高めてくれる補助魔法まで使うハイスペック過ぎるワニなのだ。
ゾンビ化しても能力が変わらない。
むしろ魔力は増大したとのことだ。
集団戦闘で、僕がワニ達に苦戦したのは彼の能力によるものが大きかったのだろう。
性格は真面目で几帳面。
潔さと男らしさの塊のような男だ。
主人を立てて、陰ながら僕を支えてくれる。
昔でいう武士に近いかもしれない。
僕に何かがあると、真っ先に身を呈して助けてくれようとするだろう。
彼がいるだけで、パーティの精神状態が安定する。
聞き分けのないリュウを諫めてくれるのはいつもクロコなのだ。
「キャー」
順調に攻略を進めていた僕たちに、女の子の悲鳴が飛び込んできた。
警戒しながら、声のする方に向かう僕たち。
一人の魔法使い系の服を着た女の子が、モンスターに取り囲まれていた。
あの子どこかで見たことがある。
そうだ。
以前、僕が食べずに見逃した女の子。
その後、獣人の戦士と一緒にいた子だ。
ここで何をしているんだ?
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