第64話 戦略戦
レッサーデーモンの側近2人を食べた後は、次の作戦に移行した。
おそらくレッサーデーモンは、帰ってこないサイクロプスたちの様子を確かめるため別の悪魔を送ってくるだろう。
おそらく次に送られてくるのは使い魔たち。
側近のサイクロプスは万が一に備えての護衛とするだろう。
その点、使い魔に何かがあったとしても補充ができるからだ。
僕の作戦はこうだ。
①状況を調べに来ようとする使い魔を仕留める
②今度は別の場所数か所で同時に爆発させる
③集団が潜んでいると思わせ、レッサーデーモンを警戒させる
④結果として使い魔たちの穴への派遣を遅らせる
⑤主に前方を警戒させ、後方からレッサーデーモンを急襲する
現在、レッサーデーモンを警戒させつつある。
さらに警戒心を煽るために、複数個所で同様の爆発を起こし、大集団が潜んでいると思わせるのだ。
警戒心と思い込みを強めることで奴の隙を誘う。
後は僕のスキルが役に立ってくれるだろう。
しばらく待つと、3匹のガーゴイル達が現れた。
読み通りだ。
気のせいか3匹ともおどおどしているように感じる。
おそらくこの地点に敵がいるというので、警戒しているのだろう。
ガーゴイルたちはお互いに離れず、3匹とも寄り添うくらいの距離で現場付近を確認している。
次の標的は奴らだ。
3匹ともお互いの距離が近いので、一口で食べられるだろう。
奴らを食べ終わったら、作戦の次の段階に移行しよう。
数か所を立て続けに爆発させるのだ。
僕は【隠密Lv5】で気配を消し、ガーゴイルたちの背後に忍び寄った。
彼らの真後ろにピッタリついても、ガーゴイル達は気付いた様子はない。
僕は口を大きく開け、彼らを一口で平らげた。
…はずだった。
僕が狙いを定め口を閉じようとした瞬間、突如ガーゴイル達が爆発!
まるで体内に仕掛けられた爆弾が爆発したかのように、内部から大きな音を立て破裂した。
ガーゴイルたちの大量の血や体液が僕に降りかかる。
やつらの緑色の血は、脂肪を多く含むためか蛍光塗料のようにテカっている。
彼らの血が付着すると、暗闇でぼうっとそのシルエットが浮かび上がる。
よほどの悪食だったのだろう。
やつらの臓物から出る体液は、恐ろしいまでの臭気を放っていた。
至近距離で大量に奴らの血や体液を浴びた僕は、どこにいても一目で分かるようになってしまった。
しまった!やつの策にはまってしまった。
おそらくレッサーデーモンは、ガーゴイルたちを自爆させるつもりで派遣したのだろう。
ガーゴイル達が怯えていたのも、それで納得がいく。
やつは僕にガーゴイルの血や体液を、付着させることが目的だったのだ。
奴には僕が他に仲間がいないことが分かっているようだ。
とすれば、次に奴が指示することは…。
ゴゴゴゴゴゴォ…。
ダンジョン中に響きそうなくらいの音を立てながら、悪魔たちの軍勢が僕を目がけて向かってきた。
100匹、いや200匹はいるだろう。
レッサーデーモンは大胆にも、半分もの使い魔たちを僕一人を狙って差し向けたのだ。
ある意味、光栄に思わなければならないかもしれない。
やつはそれほど僕一人を脅威だと評価してくれたようだ。
テレポートを使って逃げることは簡単だが、逃げても結局はこの悪魔族たちがハルクや関西弁ミミックのところに行くだけ。
それならここで倒してしまった方が良いだろう。
順番は変わってしまったが、結局は悪魔族たちを倒す必要があったのだから。
さらに今なら関西弁ミミックがこの場にいない。
僕がどのような倒し方をしても、彼に知れることはないだろう。
今後敵になるかもしれない彼に手の内を知られる方が怖い。
本気の僕を解放できる。
使い魔たちはすぐに僕を襲ってこない。
一定の距離を保ちながら、徐々に散会し僕の周囲360度をぐるりと囲む。
奴らは陣形を組み始めた。
インプたちは空中で待機し、ガーゴイルたちは地上で僕を睨みつけている。
正体不明の悪魔たちは、ガーゴイルの後ろで構えている。
おそらくインプたちは魔法攻撃、ガーゴイルたちは接近戦を行ってくるつもりだろう。
正体不明の悪魔たちは司令役か?
地上も空中も360°立体的に囲まれると、さすがに逃げ場はない。
奴らもそれがよく分かっているのか、どことなくその表情が勝ち誇ったように見える。
ただ、逃げ場がないのはやつらも同じ。
僕を取り囲んだことで、奴らも退路を失ったのだ。
謎の悪魔の号令で、奴らは一斉に僕に襲いかかる。
インプたちは魔法攻撃を僕に向かって発射し、ガーゴイル達は地上を四足で走りながら僕との距離を詰めてきた。
数百匹もの悪魔たちの怒号に満ちた叫び声が静かなフロアに響き渡る。
その大音量は、鍾乳石をも震わせるほどだ。
僕は全く焦りも驚きもしない。
僕には奴らを一瞬で全滅させるスキルを持っているのだ。
間近に迫った悪魔たちに向かって、僕はレアアイテム【獣神の宝玉】のスキルである【殲滅Lv2】を使用した。
僕の体ごと破壊されそうな激しい衝撃。前回使用した際も痛烈な痛みを生じたが、スキルレベルが上がった今はさらに激しさを増している。
SPの消費も強烈だ。
一回の使用で半分くらいのSPが持っていかれる。
一瞬僕の体がまばゆく光ると同時に、辺り一面に何百もの空気の刃が放出された。
すでに攻撃態勢の悪魔たちに避ける術はない。
触れただけでも切断される防御不能の刃が、僕を取り囲んだ悪魔たち全てに襲いかかった。
奴らの雄叫びが悲鳴へと変わる。
しかし、その悲鳴も長くは続かなかった。
静寂。
フロアに再び静寂が戻る。
僕の周りから一切の音がなくなった。
全滅。
僕のスキルが完全にやつらの生命活動を停止させたのだ。
かろうじて生き残ったものなど一匹もいない。
完全に200匹ほどの命が一発の攻撃で奪われた。
地面に転がる大量の悪魔たちの屍を、僕は音も立てず食べ続ける。
大量の返り血にまみれ、死んだ悪魔たちを消費する。
今の僕の姿を見れば、たとえハルクでも引いてしまうだろう。
ハルクと一緒にいると遠慮しがちだが、僕は相手を食べることに何の遠慮もない。
おそらく闇落ちの影響なのだろうが、これが今の僕の姿なのだ。
あまりに一瞬過ぎた悪魔たちの生存反応の消失。
レッサーデーモンも警戒、あるいは恐怖しているのだろう。
僕に対する悪魔族の追加派遣はまだ行われていないようだ。
僕は敵が来ないうちに【応急処置Lv2】で簡単に回復し、さらなる敵が現れるのを待った。
しかし、いつまで待っても現れる気配はない。
僕はしびれを切らし、【テレポート】でレッサーデーモンたちがいる付近へと移動した。
そこにはレッサーデーモンどころか、悪魔族の姿は無かった。
何百もいた悪魔族の部隊が消失しているのだ。
撤退した!?
それもあり得る。
用心深いレッサーデーモンだ。
このままでは勝てないと判断したのかもしれない。
僕は念のため周囲を再確認し、ハルクたちのいる元へと【テレポート】で移動した。
「朝起きるとミミックになっていた~捕食するためには戦略が必要なんです~」を読んでいただきありがとうございます!
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