第61話 大ワニの抵抗
僕以外の仲間たちの状況はどうだろうか?
ハルクの方を見ると、彼は今も戦闘中だ。
ハルクの体には折れた槍や剣がいくつも刺さっている。
しかし、当の本人はあまり気にしている様子はない。
意識の失っている戦士の足を持ち、武器代わりに振り回している。
ただ、黄金鎧の戦士は一筋縄ではいかない相手のようだ。
接近したり離れたりと、縦横無尽に兵士たちに指示を出しながら動き回る。
ハルクが他の兵士の相手をし始めると、黄金鎧の戦士はハルクの背後から攻撃を仕掛けるというパターンが繰り返されているようだ。
兵士たちは次々と倒されていくものの、黄金鎧の戦士は全く攻撃を受けていない。
したたかと言えばしたたかなのだが。
関西弁のミミックはどうだろう?
彼もまだ戦い続けているようだ。
宝箱に無数の傷がつき、動きも幾分か鈍くなっているように感じる。
ミミックの周りに大量の使い魔たちの死体が転がっている。
全て彼が倒したのだろう。
倒した敵の中には、いまだ痙攣しているものもいる。
あれ?
やつらこんなにもいたっけ?
よくよく見ると、ガーゴイル達が来た天井の穴から、次々と新手が現れているようだ。
しかも全員、関西弁ミミック以外には目もくれようともしない。
彼は僕らが戦っている間、ずっと増え続けるガーゴイルやインプ達を倒し続けていたのだ。
今は頼りになるが今後敵となる可能性があることを考えると、少々複雑な心境だ。
とはいえ、このままだと彼ももたないだろう。
早々に敵を倒して、彼に合流しなくては。
僕は改めて大ワニとワニ達の方へ向き直り、戦闘を再開した。
大ワニの号令で3匹のワニ達が、口を大きく開きながら僕に突進してくる。
おそらく先ほどのように魔法攻撃を仕掛けてくるのだろう。
となると大ワニも雄たけびをあげて、僕を麻痺させようとするかもしれない。
やっぱりだ。
大ワニも僕の方に口を開けながら向かってきている。
ワニ達の口から炎の塊が発射される。
それと同時に大ワニも大きな叫び声をあげた。
僕に対して同じ攻撃をするのは芸が無さすぎる。
僕には同じ攻撃は2度とは効かないのだ。
炎の玉よりも速く向かってくる音波攻撃。
しかし、2回目なら対策するのは簡単だ。
僕は音波攻撃を【物理無視】で可視化し、音波攻撃そのものを【暴食】で平らげた。
向かってくる炎の塊も同様に、【物理無視】を使用。
ワニ達へと炎の玉の方向を変更した。
突然反転した炎の玉に避けきれず直撃するワニ達。
動きが止まったワニ達に、僕は即座に近寄った。
顔面に攻撃がヒットしたワニたちは、僕の接近に気付いている様子もない。
僕は大きく口を開き、彼らを一口で平らげたのだ。
残りは大ワニが一匹。
僕と戦う前から大ワニは大きなダメージを負っている。
集団戦闘が始まってから常に最前線で戦ってきた彼は、背中にいくつものひっかき傷や切り傷が見られていた。
さらに関西弁ミミックからも致命傷と言うべきダメージを受けているのだ。
しかも彼の部下たちは僕によって全滅した。
そんな彼が僕に勝つことは出来るわけはないのだ。
しかし、降伏を勧告しても彼は絶対に聞き入れないだろう。
彼の態度から見ると、宝箱を守ることは何よりも大事な任務のようだ。
大ワニはその場で一回転し、僕に向かって尻尾を振り回してきた。
空中でパーンと破裂音が鳴り響き、次の瞬間に尻尾は僕の目の前の床を叩き割る。
彼の尻尾攻撃の速さは、音速を超えるようだ。
鞭のようにしならせた尻尾のスピードに、音が少し遅れて鳴り響く。
大ワニは僕に向けて何度も尻尾を振り下ろしてくる。
激しい音を立てながら床が割れ、砕けた石が宙を舞う。
尻尾攻撃だけに留まらず、その鋭い牙で何度も僕を噛みつこうと試みる。
しかし、大ワニの攻撃は僕に当たることは無かった。
彼の攻撃は正直過ぎるのだ。
バリエーションに乏しい攻撃手段。
比較的単調な攻撃角度。
戦闘に集中した僕に、ワンパターンな彼の攻撃が当たるわけがない。
僕は尻尾攻撃を仕掛けてくる彼の尻尾を舌で受け止め、そのまま尻尾を舌で握りつぶした。
メキメキメキ…。
僕の舌に彼の尻尾が砕ける音が感じられる。
痛みでのたうち回る大ワニに、僕は暗黒魔法【ブラックランス】を使用。
黒光りする不気味な槍が3本、僕の頭上に現れる。
僕は大ワニの脳天、首、胴体にブラックランスを突き刺した。
一瞬ビクッと痙攣したが最後、大ワニは大量の血を吹き出しながらそのまま動かなくなった。
大ワニが倒れたことで、この場にいるワニ族が全滅した。
相対する3種族の中の1つがいなくなったのだ。
ハルクと関西弁ミミックは今も戦闘中だ。
どちらかに加勢しに行こうと思うが、どちらにすべきだろうか?
ハルクは黄金鎧の戦士に苦戦をしてはいるが、比較的ダメージは少ない。
関西弁ミミックは、優勢に戦っているものの新手がどんどん増え続けている。
心情的にはハルクの方を手伝いたいが、戦局的には関西弁ミミックを助けるべきだろう。
僕は短時間で【応急処置】を済ませ、関西弁ミミックの戦っているエリアに向かった。




