第60話 ワニたちの秘策
いつの間にか僕たちはそれぞれ1つの種族を、担当するようになった。
特に申し合わせた訳ではない。
それぞれの種族が僕たちを倒すべき脅威と感じたのだろう。
ただ、関西弁のミミックはどこか信用ができない。
おそらく僕のように外部からのゲーム参加者であろうが、他にも色々と秘密がありそうだ。
悪魔族の反応も気になる。
関西弁のミミックを見つけた時の反応は、明らかに他の種族に対する反応とは違っていた。
まるで敵を見つけたかのように、猛烈な勢いで関西弁ミミックに攻撃をし始めたのだ。
もしかしたら、悪魔族がここを襲撃したのは彼が関係しているのかもしれない。
ただ、今は彼に悪魔族の相手を任せるしかない。
僕はワニ族、ハルクは人族と余分に敵を相手をする余裕が無いのだ。
大ワニが戦線に復帰したことにより、ワニ族の陣形が整い始めた。
ワニ達は僕の周りをぐるりと取り囲み、大ワニからの号令を待っているようだ。
もちろん僕もただ待っている訳はない。
僕は自分の周囲全体に落とし穴を仕掛け、穴に落ちたワニたちを一網打尽にするつもりだ。
ワニたちはじりっじりっと少しずつ僕との距離を詰めてくる。
大ワニはまだ近づきはするものの、号令を出そうとはしない。
僕は戦闘準備を継続したまま、一斉攻撃の瞬間を待ち続ける。
すでにワニたちは仕掛けた落とし穴の付近まで迫ってきた。
このまま号令もせず、一斉に襲いかかるつもりなのだろうか?
それならそれで構わない。
僕には罠の他にもいくつも攻撃手段があるのだ。
その時、大ワニが口を開いたかと思うと耳をつんざくような大きな声をあげた。
まるで部屋全体が震えるかのような大音量。
空気が震え、地面もかすかに揺れる。
至近距離からの大音量と強い音波で、僕の体も吹き飛ばされそうになった。
えっ、動けない!?
予想だにしない激しい雄たけびを間近で受けたためか、僕の体は麻痺したように動かなくなっていた。
しかも、ワニたちは動けない僕に向かって突進してこない。
僕を囲む20匹のワニたちは、その場で口を開けて何かを僕に向かって吐き出した。
炎の塊だ。
直接攻撃しかないと思っていたワニたちが、全員僕に向けて魔法攻撃を行ったのだ。
一匹ずつの攻撃自体は対した威力ではない。
僕が通常の状態ならさほどダメージは受けなかっただろう。
しかし、防御の出来ない状態での集中砲火はわけが違う。
無防備で攻撃を受けた僕は、思った以上のダメージを負ってしまった。
間髪入れずに、ワニたちは2発目、3発目と連続で炎魔法を繰り出してくる。
しかし、動けない僕にはどうすることも出来ない。
僕はワニたちの魔法攻撃を無防備で受け続けてしまったのだ。
しかし、これほどの攻撃を受けても僕の箱自体は傷一つついていない。
改めてメタルボックスの耐久性能に驚愕せざるを得なかった。
しかし、箱自体は無事でも僕本体は大きなダメージを受けている。
周囲は煙と砂埃が立ち上り、僕の姿を確認できないくらい真っ白になっていた。
それでもワニたちは攻撃の手を緩めることはない。
僕がいるであろうエリアに向かって、魔法攻撃をし続けたのだ。
何十発の攻撃を受けたのだろうか。
僕の意識はすでにうつろとなっていた。
箱自体に大きなダメージは無いが、爆発音と衝撃が箱の中にある僕の脳を何度も揺らしたのだ。
まるで急性のパンチドランカー状態。
頭がガンガンしてきた。
ん?体が動く。
ようやく麻痺が解けたようだ。
思いがけない苦戦を強いられてしまったものの、致命傷にまでは至らなかった。
こうしている間にも、魔法攻撃が僕目がけて飛んでくる。
一旦、避難して対策を立てないと。
僕は【落とし穴】を使用し、僕自身を床下へと落下させた。
一旦簡易シェルターに逃げ込み、対策を練るためだ。
魔法攻撃の煙や粉塵が僕の隠れ蓑となっている。
僕が元居た地点に、絶え間なく魔法攻撃が続けられている。
一旦攻撃外に避難できたおかげで、僕の気持ちは落ち着いた。
さっきまで続いていた頭痛もなくなった。
そろそろ僕が反撃する番だ。
僕は【テレポート】を使用し、ワニの囲いの外に移動した。
僕が背後にいることにも気付かず、ワニたちは僕がいるであろう地点に攻撃を繰り返していた。
僕は【隠密Lv5】を使用。気配を消しながら、背後からワニたちに近づいた。
ワニたちの真後ろに立っても、彼らは全く気付く様子はない。
僕は大きく口を開け、3匹まとめて平らげた。
音も無く僕の口に吸い込まれるように消えていく3匹。
おそらく自分が食べられたことにも気付いていないだろう。
3匹のワニが消えたことにも、周りのワニたちは気付いていないようだ。
僕は【テレポート】で別の対角線に移動し、同じようにワニの背後に気付かれないように近寄った。
こちらのエリアのワニたちも、僕の接近に気付いていないようだ。
バクッ。
またしても僕は3匹まとめてワニを平らげた。
ちょうどその時、大ワニがワニたちに攻撃停止の合図らしきものを送った。
ワニたちの攻撃はピタッと止み、ワニたちは白煙が収まるのをただじっと待っていた。
白煙は収まったが、そこには僕の姿はない。
当然だ。僕は彼らの背後にいるのだから。
咄嗟に後ろを振り返るワニ。
しかし、彼が最後に見たのは、彼を飲み込もうとする僕の口だった。
僕に気付き、再度ワニたちに指示を送る大ワニ。
残念ながら、【テレポート】で移動を繰り返し、ワニを一口で食べ続ける僕にはどんな陣形も無意味だった。
いくらワニたちが陣形を変えようが、その背後に突如現れる僕。
ワニたちの数はみるみる減っていき、残り3匹と大ワニが1匹だけとなった。
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