第51話 リッチ
必死で命乞いをするリッチを僕は、容赦なく食べた。
無理やりこの世界に連れてこられたゲームプレイヤーを、僕は食べてしまったのだ。
不思議と罪悪感は感じない。
僕がこの世界に慣れてしまったのか、それとも闇落ちルートを選んだ結果なのか。
ただ、他の敵を食べるのとは意味合いが違うようだ。
彼の記憶が僕の中に入り込む。
リッチ、本名 立花 正。
製薬会社に勤めるエリート系サラリーマンのようだ。
幼い頃から生物の体の仕組みについて興味を持っていた彼は、カエルや昆虫を解剖して中身を調べるのが好きだったらしい。
その衝動は高校生になっても変わらない。
野良犬を解剖しているところを、近所の人に通報され一時学校を停学させられている。
彼は将来医師になりたかったようだが受験に失敗し、滑り止めで受けた薬学部のある大学に受かったようだ。
滑り止めで薬学部に入れるぐらいだから、頭は良かったらしい。
大学在学中に何人か彼女は出来たようだが、どの彼女とも長くは続かない。
どうやら彼自身の物事を徹底的に追及する性格が災いしたらしい。
彼は彼女よりも、大学での研究にほとんどの時間を費やしていた。
彼は何よりも実験が好きだった。
彼の奇抜なアイデアは大学の教授たちを驚かせた。
いくつもの研究室から招待を受け、彼はその才能を披露し続けたのだ。
しかし、彼の研究は大学の倫理規定を大きく逸脱したものが多かった。
多くの成果を挙げた一方で、彼の研究の多くは大学からストップがかかってしまった。
研究を継続できない苛立ちと、他の研究生からの批判が彼を深く傷つけた。
彼はそれ以来、研究室に顔を出すことは無かった。
大学卒業後、大手製薬会社に入社。
そつなく仕事をこなし、会社でも評判は悪くはない。
ただ、一人を好む彼には友達と呼べる人物はいなかったようだ。
彼にとって会社は満足のいくものだったが、生物の体の仕組みをより深く知りたいという幼いころからの衝動はむしろ高まっていた。
彼がはまったのは、R18指定のホラーゲーム。
特に襲ってくるゾンビから逃げる脱出系のゲームが気に入っていたようだ。
彼の興味はゲームのクリアではない。
ゾンビがどのようにプレイヤーを襲うのか、どのようなバッドエンドを向かえるかのルートを探し続けていたのだ。
ある日、彼が目が覚めると見慣れない場所に横たわっていた。
僕の時と同じ、ダンジョンの1階層だ。
当てもなく歩き回っていた彼だったが、自分の体が通常では無いことに気付く。
そう、彼の体はガイコツになっていたのだ。
レベルが上がるまでこの世界についての解説が無いのは、彼の場合も同じだった。
おそらくここでゲームのプレイヤーがふるいにかけられるのだろう。
自分の置かれている状況が分からず、ダンジョン内を歩き回る彼。
そんな彼にモンスターたちから洗礼を受けた。
芋虫の姿をしたモンスター「クロウラー」だ。
僕もこのモンスターには殺されそうになった。
初めてのモンスターに驚き戸惑っている彼に、クロウラーの強力な体当たりが炸裂。
数メートルほど吹き飛ばされ、回転しながら床を激しくバウンドした。
骨が折れる音がはっきりと聞こえる。
彼は、そのまま動かなくなった。
幸いにもクロウラ―はそれ以上の攻撃を仕掛けてこなかった。
見た目がガイコツなので食べるところが無いと判断したのだろうか。
どれくらいの時間が経過したのだろう。彼の折れていた骨が修復し始めたのだ。
どうやら彼には【自動回復】がデフォルトになっているのだろう。
ようやく今の自分が置かれている環境を理解した彼は、なんとか生き延びようとした。
死んでいる冒険者たちの武器や衣類を剥ぎ取り、死んだふりをしながら敵や冒険者たちに襲いかかる。
何度も攻撃が失敗し倒されるも、【自動回復】スキルのおかげか一命をとりとめ続けてきた。
そして彼は遂にレベルが上がり、チュートリアルにこの世界についてを聞く。
彼が頭角を現したのは、世界について知った時からだ。
不意打ちで敵をしとめ、【使役】スキルで倒した相手を操りスキルを取得する。
彼はただ相手を殺すだけではない。
倒した相手を解剖し、その特徴を探っていたのだ。
幼いころからの願望がこの世界で叶った彼。
彼が今の強さになるまでに、何百もの命が奪われた。
しかもその多くが、強くなるためではない。
彼の知的好奇心の餌食となっていたのだ。
彼はさらなる敵を求め、第7階層に向かう。
十分な冒険者やモンスターを従え、7階層も支配してやろうと考えていたのだ。
しかし、惨敗。
彼の力をもってしても、7階層は歯が立たなかった。
逃げるように5階層に戻ってきた彼は、前回以上に強い兵達を見つけるしかなかったのだ。
そして見つけたのが、ハルク。
彼の強さを目の当たりにした彼は、何としても彼を従えようとした。
すぐに使役は出来なかったものの、彼を操ることには成功した。
後は彼の命を奪って使役するだけ。
彼にとって物事は順調に進んでいた。新しい使役兵も増えた。
そんな彼の計画を邪魔する者が現れた。
僕だ。
彼は何度も隙を見て、僕やハルクを捕らえ使役しようとした。
しかし、その願いは叶わず僕らをコントロールすることは出来なかった。
それなら直接手を下してやろう。
私のアジトに招待して、奴らを倒してしまえばいい。
彼の記憶はここで途切れていた。
僕は戦闘の静けさが残る部屋で、一人ぼっちで留まっていた。
彼は記憶ごと僕の体内で完全に吸収されてしまったようだ。
「朝起きるとミミックになっていた~捕食するためには戦略が必要なんです~」を読んでいただきありがとうございます!
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