第44話 ゾンビ
魔法陣からの光が落ち着き、視界が鮮明となった。
そこに現れたのは、十数人ほどの人間の集団と数匹のモンスターだ。
全員虚ろな表情で僕たちを見ている。
一方のハルクは怯えたような表情で、一歩、また一歩と後ずさりをしている。
人間を攻撃したがらないハルクの反応は想定内だったが、実際にその場面となると不安感が強まる。
とにかく僕が一人で戦うしかない。
ただ、5階層まで来れる相手に一人で立ち向かえるだろうか。
先陣を切ったのはエルフの男だ。
素早いフットワークで、僕との距離を一気につめてくる。
スピードは僕よりも上のようだ。
間合いに入るやいなや、彼は持っていた大剣を片手で僕めがけて振り下ろした。
細身の優男に見えて、意外と筋力はあるようだ。
ただ、攻撃は単調でかわすのは容易だ。
僕は彼の攻撃をかわし、反撃に転じる…はずだった。
エルフは避けられることを想定していたのか、武器を持った反対の手が赤く光っている。
魔法だ。
気付いた時にはすでに遅し。
エルフの魔法は、僕の目の前で爆発した。
まともに受けた僕は、後方に転がされる。
そこまで読めていたのか、エルフはとどめとばかり僕を地面ごと突き刺そうと、剣を垂直に振り下ろしたのだ。
間一髪かわすも完全によけきれず、箱に大きな傷を受けてしまった。
もちろん一発で終わらせるはずが無い。
エルフは再度剣先を僕に向けたまま大きく振り上げ、連続で突き下ろす。
かわし続ける僕だったが、何発かは箱の側面に当たってしまった。
僕は舌でエルフの足をつかみ、壁に向かって投げつけた。
しかし、もう一人のエルフが呪文を唱え、壁の手前に障壁を作り壁にぶつかる手前に衝撃を吸収したのだ。
立ち上がるエルフの戦士、再度僕に向かって突進する。
その後ろからもう一人のエルフがなにやら詠唱をすると、光の膜がエルフの戦士を包む。
わずか1秒ほどの光の膜に包まれた戦士。
膜が消え去った瞬間、エルフの戦士のスピードが倍化した。
突然のスピード変化に対応しきれない僕は、戦士の突きをまともに受けて僕は大きく後方に吹き飛ばされた。
貫かれなかったのがせめてもの救いだったが、僕の箱の正面に大きな亀裂が入った。
後方に倒れこむ僕を取り囲む、ゾンビ化した人間たち。
僕が起き上がろうとした瞬間、一斉に襲ってきた。
一瞬早く起き上がった僕は、すぐさま【体当たりLv7】を発動。
目の前の戦士系の男に力いっぱいぶち当たった。
たとえ体当たりと言えども、レアアイテム【獣神の宝玉】の補正効果がついた僕の攻撃はただごとではない。
まるで高スピードで運転中のトラックにぶつかったイタチのように、回転をしながら反対側の壁に当たりバラバラになった。
僕は自分の体に【重力操作Lv2】を使用し、僕にかかる重力を半分とした。
更に舌を剣のように鋭く硬化させ、ゾンビたちの集団に飛び込んだのだ。
四方から襲いかかるゾンビたちの攻撃をかわし、やつらの首や腕、脚などを切り刻む。
もしくは舌を相手の頭に巻きつけ、力を込めて破壊し続けた。
集団の中にエルフが現れると、僕は距離をとり飛び道具でエルフや他のゾンビたちを攻撃する。
この中で一番強いエルフたちとは、他のゾンビたちがいる場所で戦うと不利になる。
まずは、エルフ以外のゾンビどもを片付け、最後にエルフたちの相手をしてやろう。
僕の作戦は功を奏し、みるみるうちに動けるゾンビたちは減ってきた。
このままならいける!
僕は戦いながらも少し手応えを感じ始めていた。
ハルクはどうだ?
僕がハルクの方を見ると、ハルクの体にいくつもの矢が刺さっている。
ハルクを囲むゾンビどもは、みな彼から少し距離を取っている。
十分に離れた位置から飛び道具や魔法を撃っているようだ。
ハルクの動きが明らかに鈍い。
飛んでくる矢や魔法を手で払おうとするが、そんなことにお構いなしにハルクの体に矢や魔法が降り注ぐ。
肩や脚に矢がささり、ハルクの背中は攻撃魔法を受けて赤く腫れてしまっていた。
出来れば自分で克服してもらいたい。
ハルクの過去に人間たちと何かがあったことは明白だ。
人間を倒すことが必ずしも良いとは思わない。
ただ、いつまでもそこに留まっていては、命を落とすのは自分自身なのだ。
「ハルクのわだかまりも食べちゃえばいいんだよ」
突如現れたチュートリアル。
最近現れる時は戦闘中が多い。
僕の動きをずっと見ているのだろうか?
(わだかまりを食べるって?)
「そのままの意味だよ。君の持っている【暴食】があるだろ?彼の心に刻まれた頑ななわだかまりをパックンしちゃいな。」
(物理以外の物も食べられるってこと?)
「君は一度、彼の呪いを食べようとしただろ?それと同じ要領さ。【鑑定】のカーソルを彼の頭に合わせ、その頭に向かって【視覚】を使えばハルクの記憶が覗けるんだ。」
(いや、そんな使い道初めて聞いたし。)
「これは管理者しか知らない裏ルールなのさ。覗いた記憶の中から不必要な部分を食べちゃえばいいのさ」
(そんな非人道的な!?記憶を奪うってこと?)
「うーん、今のレベルだとそこまでは無理かな。一時的に失われる程度だろうね。非人道的?君なら闇落ちしてるから平気だろ?まっ、やってみてよ」
確かにこのままだと、ジリ貧だ。
あのエルフたちを相手に、ハルクを守りながら戦えるとは思わない。
僕はハルクに近づき、【鑑定】【視覚】スキルを発動し、ハルクの記憶を覗き見た。
「朝起きるとミミックになっていた~捕食するためには戦略が必要なんです~」を読んでいただきありがとうございます!
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