表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

12 討伐

「(さてどうするか。一番良いのは逃げることだがリリウムを人質に取られてはな……)」


 ミゲルは解決策を練るべく手を顎に当て熟考する。

 手持ちの戦力、そしてこのあとのことを。


「はははは! いいですねぇお前たち! その醜いトカゲから私を助けなさい! そうしないとこの奴隷の命はありませんからねぇ!」


 支配人はリリウムを逃がさなければルーナたちが大砂蜥蜴と戦わないと分かっておりさらに増長する。

 自分の支配するオークション会場に侵入してきたネズミたちだ。決して逃すつもりはない。

 

『キィィィ!!』


 そんな中。大砂蜥蜴は肌を傷付けられたルーナを敵と認識した。

 椅子をなぎ倒し巨躯を反転させる。


「そこをおどきなさい! 『エレメンタル・ウィンド 風槍(ウィンドスピア)』」


 ルーナが後退し、代わりにエルが攻撃をした。

 いくつもの風弾が大砂蜥蜴の顔や甲羅に全弾直撃する。

 ただし石畳を削ったほどの威力があっても小さくのけぞらせただけに終わってしまう。


「そこまで固いのですの!?」


『クルゥゥゥゥ……』


「なんの音です!?」


 大砂蜥蜴は喉を鳴らし始める。


「ブレスだ! 避けろ!」


『クルァァァ!!』


 ミゲルが叫ぶ。

 やがて音が無くなったと思ったら口を開け、そこから砂と石片が混じったブレスが大量に吐き出される。

 寸でのところで身をよじって風の精霊を使いエルは劇場の天井スレスレの上へと難を逃れた。

 甲羅を背負っている以上、首の可動域はそれほど広くない。ある意味では頭上が最も安全ではあった。

 

「くっ! 不覚ですわ」


 しかし少量の砂礫は食らっていた。

 足首に小さな石片が痛々しく突き刺さり血が流れている。

 例え精霊を使ったところで高速戦闘は難しそうであった。


「やぁぁぁ! きゃっ!」


 その間に後ろに回っていたルーナが今度は大砂蜥蜴の背後から攻める。

 だが大砂蜥蜴は尻尾を活かして虫を払うように彼女を振り払った。

 

「『エレメンタル・アース 石槍(ストーンスピア)』」


 接近戦が厳しくなったエルは自分の出来ることとして遠距離からの気を引く行動に切り替える。

 ルーナが離れたのを見計らったタイミングだ。

 上から石槍の雨が大砂蜥蜴に向かって苛烈に降り掛かるが頭を引っ込め甲羅に閉じこもることで難なく凌がれてしまう。

 鋭い石の切っ先も潰れるその甲羅の硬度は鉄以上に匹敵するらしい。

 

『キィィィィ!!』


 今度はこちらの番とばかりに大砂蜥蜴は頭を出してから自慢の尻尾を九の字に曲げて地面に刺し、四肢も折り曲げる。

 そして――ジャンプした。


「なっ!?」


 会場の天井は高く、それこそ10メートル近くはあった。なので数百キロはある巨体が浮いた。

 その場にいた全員が一瞬、時が止まったかのようにそのあり得ない異様な光景に硬直しそれを見てしまう。

 ――ただ一人を除いて。


「ちっ、急げスライム!」


 自ら千のモンスターを操ると呼称するだけあってモンスターの生態に詳しい彼だけが動けた。

 ミゲルは常に服の中にスライムを貼り付かせ、防弾チョッキのように身の守りを固くしたりちょっとした動作の補助を任せている。

 ここでもそれが役に立った。

 袖から伸びたスライムの体がゴムのごとく伸びエルの足首に巻き付き引っ張る。

 

「きゃーですわああ!」


 ぐいっと下方向への力に引っ張られてバランスを崩すも、おかげで大砂蜥蜴のジャンプタックルから難を逃れた。

 代わりに天井が粉砕され、そのまま重力に従い落下してきた衝撃は劇場を大きく揺るがせる。

 大人数が入るよう頑丈に作られているはずのオークション会場であったが、もはや椅子は潰され散乱し床も天井も一部が壊され亀裂が入り無茶苦茶な状態になってきた。


「……ふむ」

  

 その様子を見てミゲルは何かを考える。


「倒せる気がしないんだけど……」


 一連の流れでほとんど傷を付けられておらずルーナが弱気を見せる。

 そもそもBランク以上のモンスターは大人数や罠を使い作戦を持って仕留めるのが普通だった。

 こんな行き当たりばったりで戦闘要員が二人しかいないパーティーではまず逃げることが最優先というのが常識である。

 にもかかわらず討伐しないといけないというのは相当に困難な任務(ミッション)だった。


「ルーナ、あの杖を拾ってよこせ!」


「杖? あぁあれね!」


 先に食われた男が持っていた炎の杖のことだ。

 ルーナは椅子の残骸でやや足場の悪い階段を駆け上がり杖を取ってそこからミゲルに遠投した。


「よし、試してみるか!」


 それを受け取ったミゲルは壇上から杖を前に出して魔力を込めると、瞬時に炎の玉が生成される。

 

「もっとだ、フルパワーでいく!」


 さらに魔力を込めると炎は手で抱えきれる限界ほどまでに大きくなっていった。

 そしてミゲルがそれを放ち大砂蜥蜴に向かう。

 人が食らえば大やけどは免れない。それどころか一撃で死ぬ可能性だってある炎弾だ。


『キュルル!』


 しかし大砂蜥蜴はすぐさま反転し尻尾で炎弾を打った。

 炎はそこから地下に空いた穴へと弾かれる。

 さらに大砂蜥蜴はそこから尻尾で掬い上げるように椅子の破片を弾いてミゲルへと牽制した。


「くっ!」


 杖を咄嗟に盾にして耐えるミゲルだったが、杖の内部から白い煙が出てきた。


「は? なんだこれは? もう壊れた? 一発最大出力で撃っただけだぞ? ドワーフ謹製の物がこんなモロいはずがないだろう」


「ふん、今どきドワーフ製のが手に入るはずがないんですよ! でも人を殺すぐらいならこれでじゅうぶんですからねぇ」


 ミゲルは恨みがましく支配人を睨んだが、どうやら彼は劣化させたイミテーションだというのを知っていたらしい。

 確かに人間相手にはパワーを抑えた出力でも使い道はあるだろうがそれとこれとは話が違う。

 それに壊れるほどの威力を出しても全く効いてすらいない。


「え、火事!?」


 さらに地下から空いた穴から黒煙が吹き出してくるのをルーナが気付いた。


「な、なにやってやがるんですかぁぁぁぁ!?」


 どうやら今ので火が燃え移るようなことが下で起こったらしい。

 支配人は絶叫するが煙はそんなものでは収まらない。

 さらに足元からはまだ混乱を極めている声や剣戟の音も聞こえてきている。


『キルルルゥゥ!』


 支配人の怒りも最もではあるが、それは注意を惹いてしまい再び大砂蜥蜴が喉を鳴らす。

 ブレスの発射前に鳴る音だった。


「ちっ!」


 大砂蜥蜴の見ている方向は今叫んで注目を集めてしまった支配人だった。

 檻に閉じ込められている間、ストレス発散とばかりに痛めつけられたことは大砂蜥蜴も覚えていた。

 だからこそ自由になってすぐに狙ったのが支配人であった。


『クルァァァ!!』


「ひぃぃぃぃ!!」


 そして礫混じりのブレスが支配人を狙う。

 もちろん彼の手にはリリウムがいて死なばもろとも状態である。

 砂や石とて高速で発射されれば脅威だ。尖った先が肉にめり込み、衝撃に叩きつけられたダメージは死に至る。

 だから咄嗟にミゲルが走った。


「お前を取り戻すと約束した! 俺は約束は違えない!!」


 ミゲルはリリウムの前に立ち魔法の障壁を発生させる。

 それは魔法使いならばたいてい最初に習うような基本の防御シールドであった。

 魔力量によっては砲弾すら跳ね除ける固さを持つが、今のミゲルの魔力量では見習い程度にしかない。

 結果、薄絹のように防御シールドは壊され轢弾が飛来する。


「させない! <<ニンブル(加速)>>」


 妹を守るためルーナも躍動していた。

 即座に詰め寄りブレスを吐いているその無防備な顔に剣を叩きつける。

 一撃が皮膚の半ばで止まり巨木を斬り付けるような鈍い感触が手から伝わりながら振り抜く。

 今までで最もマシな攻撃ではあったがそれでもまだまだ軽傷の部類だ。

 だが大砂蜥蜴はその痛みで無理やりブレスを中断させられる。


「ミゲル!」


「心配いらん! お前は前だけ見ていろ! 俺がお前たちを勝たせてやる!」


 ルーナのおかげですぐにブレスが止んだものの、ミゲルは右手に細かな石片が突き刺さり大量に流血するほどの被害は受けていた。

 ミゲルは今にも倒れそうなほどふらつき血の気を失っている。

 それでもなお目は死んでいなかった。

 まるでまだ勝機があると大声を出し全身でそう主張している。

 だからこそその意を汲み取りルーナは再び大砂蜥蜴に向かった。


「いいわ、あなたの相手は私よ!」


『キィィ!!』


 大砂蜥蜴からのヘイトを一手に買いに出た彼女は妹に手を出させないよう必死に劇場内を避け続ける。


「ミ、ミゲルさん?」


 自分をかばったミゲルを見てリリウムは泣きそうな顔をして震えていた。

 もし自分がそんな献身を出来るとすれば姉のルーナに対してぐらいだろう。なのにミゲルは会ってろくに会話もしていないのに体を張って助けてくれた。

 そのことに申し訳ない気持ちと自らの不甲斐なさに胸が詰まりそうだった。


「ぐぅっ……」


「あ……」


 よろけるミゲルはルーナに問題ないと言ったがどう見てもリリウムにはそうは思えなかった。


「(私、守られてばっかりだ……役立たずで足を引っ張ってばっかりで……)」


 拳を握りリリウムは目を閉じる。

 自分が負担となっていることに悔しくてたまらなかった。

 姉たちに人間の街に来るという命懸けの行動をさせ、そして今度は格上のモンスターとの戦い。

 なのに見ているだけしか出来ない自分にどうしようもなく落胆を覚えた。

  

「イヒヒ、いい気味ですねぇ! この損失はお前らの命ですら贖えないんですよ。せめてもっと苦しみなさい!」


 そしてその元凶はリリウムの目の前でふんぞり返っている。

 それは幼い少女でも許せるものではなかった。


「(このままでいいはずない……。こんな私、嫌だ……!)」


 無心にひたすら願うリリウム。

 変化は徐々に起きた。彼女の耳と尻尾がピンと張り、体が熱くなる。


「ん? なんですか?」


 最も間近にいた支配人が最初にそれに気付いた。


「絶対に許さない! <狐火(ウィルオーウィプス)>>」


「は? ぎゃああああああ!!」


 突然、支配人の体が青い炎に包まれる。

 足の下から頭のてっぺんまで燃やされ悲鳴を上げるが、なぜかリリウムにはその炎が燃え移っておらず、すぐにリリウムを拘束する力もなくなり支配人は前のめりに倒れた。

 

「ほう、これは驚いた。まさかその歳で誰にも教わらず自力で『魔法』を発動させるとはな」


 その事変を目撃したミゲルは感心したように感想を漏らした。


「こ、これは……」


「それは幻炎だ」


「幻炎?」


 リリウムが倒れた支配人を見下ろすと確かに炎で焼かれたはずなのに彼の衣服は燃えておらず、どれだけ消そうとしても消せず特大の叫び声を上げ地面の上をのたうちまわっている。

 音もあまりにもリアルで幻と言われても気付かないほどだ。だがかなり接近しているのに自分には熱が伝わって来ず、言われるとそうなのかと納得してしまう部分もあった。

 やがて強烈過ぎる痛みに気絶したのかピクリとも動かなくなる。

 

「幻と言っても精神に直接作用して本物の炎に焼かれた痛みがあったはずだ。でかした」


「あ、あふー」


 ミゲルがつかつかと傍に寄っていきリリウムの頭を撫でると彼女は顔を真っ赤になってそれを隠すように手で顔を覆う。


「こ、これであのモンスターも倒せます……か?」


「いやさすがにサイズが違い過ぎる。あれを仕留め切るにはお前の魔力量では足りない。仮にやっても効果はあるだろうが怒らせて逆効果になるだけだろう」


「じゃ、じゃあ逃げますか?」


「それも考えたがあれに追われて街中に出ると人目を惹いてしまう。出来ればここで倒しておきたい」


「そうですか……」


 自分の力では倒すことが出来ないのに、ここで倒さなければならない。

 そう告げられリリウムはまたもや役立たずになったと思いしゅんと眉を下げる。


「だがお前のおかげで思い付いたことがある。お手柄だぞ」


「ふ、ふぁい」


 が、ミゲルに褒められ一瞬で感情が上がる。

 顔を見るだけで胸がドキドキと早鐘を打ち恥ずかしくて直視出来ないリリウムは目線を下げながら変な声を出してしまう。

 そしてミゲルは床に落ちている支配人が持っていた杖を拾うと機を窺っていたエルに話し掛ける。

 

「ルーナの剣では倒すのは難しいだろうが、エル、お前の最大火力でならどうだ?」


「私が相性が良いのが風と土の精霊ですの。でも風では固すぎてあの皮膚を貫くのは無理ですわね。土も大雑把になってほとんどが甲羅に当たって遠距離では仕留めきれる気がしませんわ。やるなら近距離、それも動きを止めてもらわないと難しいかと」


「ならば……というのはどうだ?」


「……出来ますの? それに私そんなのやったことないですわよ?」


 ミゲルからの作戦内容に難色を示すエル。

 それはぶっつけ本番での指示だった。


「俺は凡愚に出来ないことをやらせるほど愚かではない。お前にしか出来ないからやれと言っているんだ」


「……まったく、その偉そうなところだけは本当に魔王級ですわ! 分かりましたわ。信用しろってことですわね。でもこれでお金に引き続いて貸し二つ目ですわよ」


「ふん、世界の半分でもくれてやるさ! だがこれでピースは揃ったな」


 ミゲルは腕をかばいながら壇上から降り、今も暴れる大砂蜥蜴を一人で引きつけているルーナの元へと急いだ。

 スピードは完全に彼女の方が上でも建物の中という広さに制限がある中、ひと時も休めない鬼ごっこに短時間ながらも肩で息をし疲弊しているのは見て取れた。


「大砂蜥蜴討伐の開始だ! <<召喚(サモン)>>・【レイス(幽霊)】」 


 ■レイス(幽霊) 力:F

 頑丈さ:F

 素早さ:E

 魔力:E


 スキル:精神魔法(低)

 

 戦場など強い後悔の念を持って死んでいった者たちの集合体。

 生前の記憶はほとんどなく、生者に恨みを抱くだけの存在。

 霊体だけに物理は効かないが聖なるものや魔法などに弱く、精神を昂らせて疲弊させたり弱らせる程度しか出来ない。


『アアアアアァァァァァ……』


 人の形をした半透明の幽霊であるレイスは不安になるような声を出しながら大砂蜥蜴に向かう。

 足がなく浮いていてその速度は歩くほどに遅い。


『キュルルルル!!』


 もちろん大砂蜥蜴は自身に近付くその霊体に気付いていた。

 体を捻り特に意識もせず豪快な尻尾のスィングがレイスを直撃してしまう。

 しかし霊体であるおかげで本当なら一撃で消滅してしまいそうな攻撃も素通りし怯むこともなかった。


「つよ、無敵じゃない!」


「そんなことはない。攻撃力は皆無なんだ。だからお前たちの力がいる。こっちに来いルーナ!」


「え? うん!」


 その光景を見て頼れる援軍が現れたと舞い上がりそうになったルーナにミゲルはすぐさま呼び止めた。

 いくらやられないと言っても倒す術がなければそのうち無視されて終わる。

 それに今は混乱の最中にあるがそのうち街の兵士たちも乱入してくるのは目に見えており、時間を掛けていられないのをミゲルは理解していたのであった。


『クァァァァァ!!』


 手短にルーナにこれからすることを説明する間にいくらレイスに攻撃しても意味がないことに大砂蜥蜴がキレた。

 大きな威嚇音を喉から出し四肢を地面にピストンする。

 

「掛かったな。では作戦続行だ!」


『アアアアァァァァ!』


 レイスは金切り声を上げ挑発するかのごとく左右に体を揺らし後退していく。

 その声には精神に働きかける魔力が乗っており、イラついた大砂蜥蜴は目が離せずにまっしぐらに追った。

 どすんどすんとガレキを潰し逃がすまいと追いすがる大砂蜥蜴だったが、突然足元に浮遊感を感じる。


『キィ!?』


 頭の上を飛ぶレイスを追いかけるのに夢中で自分が地下から出て来た穴のことをすっかり忘れていたのだ。

 前足を穴に突っ込み、さらに走っていたおかげで勢いが付き過ぎた大砂蜥蜴はそのまま頭から地下へと落下してしまう。

 即座にどすんと稲妻が走ったかのような衝撃音が足元から響いた。


「やった!?」


 一階からルーナが期待を抱いた目で見下ろす。


『キィィィイ!!』


 しかしながら数メートル以上を落ち、ひっくり返って甲羅を地面にめり込ませた大砂蜥蜴はそこそこのダメージは負ったもののまだ仕留めるには至らず尻尾を地面に向けて体勢を変えようとした。

 起き上がられたらまた戦闘の繰り返しになることは予想される。


「まぁこれで倒せるとは思ってない。いくぞ!」


 だからこそミゲルが一階から跳んだ。

 落ちる先は起き上がろうとしている大砂蜥蜴の頭上。

 そして瞬きするほどの間に彼は大砂蜥蜴の無防備な頭に支配人から奪い取ったステッキの先で突いた。


「食らえ!」


 ステッキから雷が迸る。


『キィィィ!!!』


 避け様もなく起き上がろうとしていた大砂蜥蜴の全身に電流が流れ苦しそうな悲鳴が出た。

 他の魔法であったり、中距離以上であれば甲羅で遮断することも出来たかもしれないが直に押し付けられ逃げ場をなくした形だ。


「くっ、こっちも偽物だったか」


 けれどミゲルが使うステッキも先ほどの杖と同じく白い煙が内部から吹き上がり、雷の出力が急激に低下していった。

 支配人自身が使っているのであればひょっとして、という期待もあったがそれも耐久力の低い粗悪な魔道具で大砂蜥蜴を倒しきるには役不足であった。


『キルゥゥゥゥゥ!!!』


 思わぬ雷という攻撃にのけ反っていた大砂蜥蜴。それでもまだ耐え切れる範囲内であるらしい。

 体を電流が流れたせいで筋肉が硬直し未だ手足は緩慢ではあったがその目は憎悪に燃え盛りミゲルを食らいつこうと睨んでいた。

 おそらくあと数秒もあれば体を反転させミゲルの小さな体をぱっくりと飲み込んでしまうだろう。


「ふん、まだ気付かないか? 穴に落ちた時点でお前は詰みだ。――エル!」


 ミゲルが地下から一階に声を掛ける。


「分かってますわよ! 『エレメンタル・アース 石大剣(バスターソード)』」


 自分の体をも超える巨大な大剣を土精霊によって生成させていた。

 ただしあまりにも大きくて振りかぶるのは彼女の筋力では難しい。

 切っ先は下に向いて動きそうにないほどだ。

 

「これを持てばいいのね」


 そこに横からルーナが現れエルと一緒に大剣の柄を握る。

 幸い、剣自体がでかいので柄も二人で持てた。

 と言っても二人で動かす以上、通常の剣を振るという動作は出来ない。

 しかし一階から地下へとただ落ちるだけならば可能であった。

 二人でようやく持ち上げるとその重量感は凄みを増した。


「やれ!」


 ミゲルの合図に二人は顔を見合わせ呼吸を合わせて跳んだ。

 

『キィ!?』


 大砂蜥蜴はバタバタともがいて逃げようとするも、ひっくり返った状態ではそれも不可能。

 さらに雷のショックで尻尾を使って表に返るのもまだほんの少し時間が足りず、首も伸び切っていて甲羅の中に隠れられない。

 ゆえに、断頭台のギロチンのようなその攻撃を避ける術がなかった。


「「これで終わりよ! ですわ!」」


 そして数メートル上からの重力と剣の重さを利用した一撃は――大砂蜥蜴の首を真っ二つに両断した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ