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1 魔王ミゲル

 人間と亜人、そしてモンスターなどが暮らす神秘の大陸「アペディオン」。

 その大地で亜人や魔物モンスターを率いて覇を唱えた者がいた。

【万魔の魔王】と呼ばれた彼は千を超えるモンスターを召喚し数万の部下を指揮して広大な地を平らげていく。


「はははは! 蹂躙せよ!! 人間共に魔王軍の力を見せ付けるのだ!!」


 重装騎士がぶつかり合い、エルフの魔法部隊から魔法が大量に射出されドラゴンが火を噴いて兵隊たちを襲う。

 その快進撃を指揮をして豪快に笑うのは二十代前半の銀髪の魔王だ。


 しかし人間側も徹底抗戦の構えを見せ、数々の戦士を募り魔道具を開発、さらには天に選ばれた勇者の投入によって一時的に拮抗状態へと持ち込んだ。

 もつれ込んだ戦況の行方が分からなくなった時、しかし万魔の魔王は忽然と消息を絶ってしまう。


 指導者がいなくなった軍勢はそのせいで散り散りになり徐々に人間たちに狩られていった。

 村は焼かれ剣や槍で刺された死体は山のように積まれ、手や首には鎖で繋がれ自由を縛られた。


 ――それから約300年の月日が流れた


□ ■ □


「リリウム、ちゃんとバスケットは持った? って、またその本読んでるの?」


「あ、お姉ちゃん。ごめんね、すぐ行くわ」


 辺境の隠れ里、その農村のあばら屋に決して裕福そうではない狐耳と尻尾のある姉妹がいた。

 彼女たちは獣人と分類される一般的な「狐獣人」の少女たちである。

 

 姉は『ルーナ』と言い十代半ば、リリウムと呼ばれた妹は十代前半という年頃。

 ルーナは空のバスケットを携えていて、リリウムはボロボロの擦り切れた絵本のようなものを慌てて机の上に置いた。


「本当に好きねその魔王様のことを描いた絵本。もう何度も読んだでしょ?」


「うん、でもこれを読んでるといつか魔王様が私たちを救いに来てくれるんじゃないかって思えるの。それにお父さんが遺してくれた本だから……。ねぇお姉ちゃん、私たちのご先祖様が魔王様の部下だったって本当?」


「お父さんが言うにはそうらしいわね。でも戦いの途中で魔王様がいなくなっちゃったんだって」


「いーなー。私も会いたかった」


「そうね。でも今は支度をしてね」


「はーい」


 姉妹が農村を歩いていると村人たちが井戸端会議をしていたり、農作業をしている風景があった。

 二人を見つけると手を振ったり挨拶してくれるので会釈して返していく。


「おや、ルーナちゃん、リリウムちゃん、外へ出るのかい?」


 そんな彼女らに直接声を掛けてきたのは彼女らの知り合いらしい牛の獣人のおばさんだった。角があり体格は良い。


「ええ、保存用の食べ物が少なくなってきちゃって、山に採りに行かないといけないんです」


「そうかい、でも気を付けた方がいいよ。狩人のキカが言ってたんだけどね、最近はモンスターだけじゃなく盗賊まで出るらしいから」


「盗賊ですか?」


「あぁ、行方不明になってる子が何人かいるだろ? あれ魔物に襲われたんじゃなくて盗賊に攫われちまったんじゃないかって話だよ。物騒だねぇ」


 おばさんの話を聞いているとルーナの手にぎゅっと握って来る感触があった。


「お姉ちゃん……」


 リリウムだ。彼女が心配そうな上目遣いをしてくる。


「リリウム……でも食べる物を探さないと。私たちは二人しかいないんだし、ね?」


 説得されて渋々といった感じでリリウムは小さく頷く。


「どこも余裕が無くて悪いねぇ。大昔に魔王様がいた時代はこんなにひどくなかったらしいんだけど、今じゃこうして人間に見つからないよう隠れて住むしかない」


「お父さんに昔話で聞いたことがあります。その時代はみんな活気に溢れていたらしいって。リリウムはその話が好きなんですよ」


「うん! 私、魔王様が大好き! 強くて格好良くてきっと生きてたら私たちを助けてくれると思うんだ!」


 話を振られてたリリウムが魔王の好きなことを喜色満面に答え、それを見て和む。


「じゃあそろそろ行きますね」


「あぁ、気を付けてね」


 手を繋いで仲が良さそうに歩いて行く姉妹を後ろから見送るおばさん。

 その目はどちらかというと同情心や哀れみの色が映っている。


「両親が奴隷狩りに遭って二人きりで逃げてきたのに強い子たちだねぇ」


□ ■ □


 ルーナたちは山の中を順調に歩いていた。

 ほとんど毎日赴くのだから見知った庭のようでもある。

 しかしバスケットの中はほんの少しのキノコや果物などのみだった。


「うーん、やっぱり村の近くは大体採り尽くしちゃったわねぇ。もう少し奥へ行ってみようか?」


「え? でもこっちの方って『悪魔』が出るって噂の遺跡があるんじゃなかった? 行っちゃいけないよって村の人たちがみんな言ってたよ?」


「でもこの量だと今日の分にもならないし、それに遺跡に近付かなければきっと大丈夫。ね、もう少しだけ行ってみましょ?」


「でも……」


 耳がペタンとなってしおれるリリウム。

 村の奥にある崩れた遺跡には悪魔が出るという噂があり、村の中では誰も近付かないでいた。

 しかしだからこそまだ他の村人たちにも漁られていない食料があるという理屈だ。


「なぁに? 怖いの? 大丈夫よ、もし出てもお姉ちゃんがきっと守ってあげるわ。それに少しは強くなってもらわないと。そろそろ夜中にトイレに行くたびに一緒に起こされるのも卒業して欲しいんだから」


「……! わ、分かったわ。でもみんなには言わないでね」


 恥ずかしいのかリリウムの顔が真っ赤になる。


「うふふ、どうしよっかなー?」


「もう!」


 二人はそれからさらに山奥へと向かった。

 しばらく山菜などを探したルーナは山の中に少し開けた広場みたいな場所があったのを見つけてちょうど腰掛けるのに良さそうな岩の上に一息吐こうと座る。

 周りは雑草や花などが咲いていた。


「ふぅこの辺まであんまり来たことがなかったけど本当に思ったより採れたわね。もっと早く来れば良かったわ」


 バスケットの中には山菜やキノコ、果実など溢れるほど入っていた。


「あれ? リリウム?」


 ふと妹の姿が見えずきょろきょろと辺りを見回す。


『盗賊まで出るらしいよ』


 立ち上がるとさっきのおばさんに言われたことを思い出して青ざめるルーナ。

 さっきまでいた妹がいないとなるとその最悪の予感を連想するのも無理がなかった。

 がしっといきなり手を掴まれる。


「お姉ちゃん、これあげる!」


 手を掴んできたのはリリウムだった。

 そして胸の前に差し出されたのは頭に載せる花の輪っか。

 安心してほっと溜息を吐いて胸を撫でおろす。

  

「リリウム……。心配しちゃったじゃないの」


「ごめんね、これ作るのに夢中になっちゃったの。いつも頑張ってくれてるお姉ちゃんにプレゼント! ねぇ着けてみてよ」


 言われて頭に乗っけるとそよ風が吹く。

 花弁が少し散り、なびく髪と合わさって少しだけ神秘的な感じに見えた。

 

「わぁ綺麗! お姉ちゃんとっても似合ってるわ!」


「そう? ありがと! よく作れたわね?」

 

「いなくなる前にお母さんに作り方教えてもらったの」


 少し照れながらもルーナが笑顔で返すと、やや伏し目がちに懐かしい母の記憶を想起するかのようにリリウムが答えた。

 二人の少女の両親は『亜人狩り』に遭っていた。幼い二人は身を挺して逃がされこの辺境まで逃げてきていたのだった。


「そうなの……」


 少ししんみりした気持ちになったルーナは妹の体に手を回し抱擁する。


「あなたは絶対に守ってみせるからね」


「お姉ちゃん……」


 しばらくするとすっと立ち上がる。


「さてあんまり長居すると危険みたいだしそろそろ帰りましょっか。今日はお腹いっぱいのキノコ鍋が出来るわよ」


「やったー!」


 喜ぶリリウムの手を引き村へと帰ろうとすると、その耳にパキリと枯れ枝を踏む音が入ってきた。

 振り向くと――


「ぎひひひ、上玉の亜人が2匹。今夜はパーティーだなぁ!」 


 身なりは汚く下卑た男たちが梢の中から現れる。

 人数は4人、腰には剣やナイフなども提げていて身なりや言い振りからして噂の盗賊に違いなかった。


「あ、あ、あ、あああ……」


 バスケットが地面に落ちる。


「リリウム、走って!」


 怯えるリリウムの手を無理やり引っ張ってバスケットを取る余裕もなくルーナが駆け出す。

 その選択肢は正解だった。ただの少女が武器を持った男たちに敵うはずがない。

 そして獣人は人間よりは身体能力にやや秀でていた。まだ逃げ切れる望みがある。 


 山道で走るという行為はかなり危険だが今はそんなことを気にしている余裕はない。

 すぐに森の中に入り木々の間をすり抜け必死に足を回転させる。


「お姉ちゃんこっちは村の方向じゃないよ!」


「分かってる! でもあっちには戻れない!」


 走る方向がどんどんと村から遠ざかっているのは分かっていた。

 しかしその方向は盗賊たちがいたし、せめて一度見失わせてからではないと村へ戻る訳にもいかない。もし村が見つかればもっとひどいことになるからだ。

 だからこそ精一杯走るしかなかった。


「はぁ……はぁ……」


「お姉ちゃん……」


「とにかく走って!」


 少女たちの切迫した荒い息遣いが森の中に響く。

 表情は固く目線はきょろきょろとしてどこか目的があって走っているのでもない。とにかく逃げ切る、その一心だった。


「女二人だ。絶対に逃がすんじゃねぇぞ!」


 彼女たちの後ろから聞こえてくるのはさっきの粗野な人間たちの声。

 若く瑞々しい少女たちを前に盛って自分たちの優位を疑わず嗜虐心に酔いながら追っていた。

 彼らは山賊、野盗と呼ばれる類のもので最近、彼女たちの村の近くの廃砦に根城を移し旅人を襲ったり、村の女が一人でいるところを見つけては攫っていた。


「お姉ちゃん、もう駄目……走れないよ……私はいいからお姉ちゃんだけ逃げて……」


 ただでさえ女と男、その上、幼い妹はまだ子供と言っても差し支えの無い年齢で体力には限界があった。

 健気にも姉の重荷にはなりたくないとの提案だったが、


「駄目よ! もう私にはリリウムしかいないの! ね、もう少しだから! 頑張って!」


 もう少しと言ってはみるが、どこまで走ればいいのかはルーナにも分かってはいない。

 とにかくケダモノたちから一歩でも離れなければ、それだけで頭がいっぱいだった。


「(でももう体力の限界……。どうやったら逃げ切れるの? 私を囮にしてせめてこの子だけでも……)」


『……け……来い……』


 その時、何かに呼ばれるような声がルーナの脳裏に響く。


「何? 誰なの!?」


『は……こ……』


 声は途切れ途切れで何を言っているのか把握しづらい。

 ついには森を抜ける。

 

「お姉ちゃん、ここって悪魔が出るっていう遺跡……」


 ルーナはリリウムに言われて、はっと気が付いた。

 そこは村に住む住人たちが悪魔が出るから近付いてはいけないと注意される廃墟の遺跡だった。

 無我夢中で逃げていつの間にかそこまで辿り着いてしまっていた。


「……こっちだ! ……今、女の声が聞こえたぞ!」


 後ろの藪の中から盗賊たちの声が漏れてきて、距離が思ったよりも取れていなかったことにルーナは震える。

 そして意を決して妹のリリウムの肩を掴む。


「行こう! もう私たちが助かるのはここしかない!」


「う、うん……」


 手を引き遺跡の中へ入る二人。

 中は予想通りボロボロで壁や柱など崩れており、ガレキが散乱するような有様だった。


「(なにここ? 思っていたよりずっと広い……。まるで宮殿かお城があったかのよう……)」


『こっち……はや……』


 進めば進むほど声は少しずつ明瞭となっていき、どうやら呼び主は自分たちを呼んでいるのだと分かる。


「お姉ちゃん怖いよ」


「分かってる。でもこの声であいつらが逃げるかもしれないから!」


 遺跡の中はがらんどうとしていて隠れる場所もなく、すぐに見つかってしまう。

 通路を奥へ奥へと進み恐怖に身を震わせながらルーナは妹を引っ張って行くと辿り着いた先は大きめの袋小路の広間だった。

 これはまずい、と思った瞬間――


「つーかまえた!」


 追ってきた盗賊にリリウムが羽交い絞めにされ捕まってしまう。


「いやぁ! お姉ちゃん!」


「その子を、リリウムを離して!」


「うるせぇ!」


「あっ!」


 一心不乱に取り返そうとすると反撃を食らってルーナは倒されてしまう。


「おい大事な商品だぞ、乱暴にするなよ」


「分かってるって! んー、でもいい匂いじゃねぇか。まだガキだが女は女だな」


「いやだぁぁぁ!!」


 リリウムを捕まえている盗賊が彼女の首筋の匂いを嗅ぐ。

 人間は両親を奪った敵だ。しかも汚くて乱暴な男たちに触れられ拒否反応が出る。

 涙を浮かべ必死に抵抗するが子供の力では掴まれた腕は外せない。


「リリウム!」


 それを睨むルーナだが、力で敵わないことは分かりきっていた。


『妹を助けたいか?』


 ――今度は声がハッキリと聞こえた。

 

「助けたいわよ! 大切な妹よ!」


「なんだこいつ? 頭がおかしくなったのか?」


 急に叫ぶルーナに盗賊たちはおかしな女を見るような目で見降ろす。

 どうやら声は盗賊には聞こえていないようだった。


『ならば血を捧げろ。魔力のこもった清らかな乙女の血が必要だ』


「それをあげたら助けてくれるの?」


『あぁ約束しよう。お前たち姉妹を救ってやる。ただし血は少しでは足りない。最低でもお前が死ぬかもしれないほどの量が必要だ』


「お姉ちゃんダメ!」


 自分は盗賊に辱められようとしているのに姉の方を気遣うリリウムを見てルーナの覚悟は決まる。

 彼女は足元のガレキを持って立ち上がり、リリウムを拘束している盗賊へと殴り掛かろうとした。


「やぁぁぁぁ!!」


「くっ! この女ぁ!」


「ああっ!」


 片腕をリリウムに使っている盗賊はまさか破れかぶれで来るとは思わず若干手が遅れ、剣を引き抜いて牽制だけのつもりが手元が狂ってルーナの肩を刺してしまう。

 

「いやぁぁぁぁお姉ちゃぁぁぁぁぁんん!!」


「し、しまった!」


 盗賊が反射的に剣を離すとよろよろと後ろにルーナが後退する。


「馬鹿野郎! せっかくの上玉を傷ものにしやがって!! お頭になんて言えばいいんだよ!!」


「わ、悪い。いきなり襲ってきたからよ、つい……」


 錯綜する混乱の中、ルーナは歯を食いしばって肩に刺さっている剣を引き抜き構える。

 相当な痛みに耐えているのだろう、額にはすでに脂汗がびっしりと浮かんでいた。


「へっ、まさか俺たち相手に敵うつもりか?」


「ぎゃははは、いいぜお姉ちゃん。お前が満足して果てるまで付き合ってやるよ!」


 盗賊にそう煽られてもルーナの表情は変わらない。

 いくら武器を手に入れたところで女の身で、しかも怪我をして勝てるとは彼女も思っていなかったからだ。


「私じゃどう足掻いてもこいつらに勝てないのは分かってる。だったら――」


 刃を見て表情が硬くなり、次にリリウムに目線を向けるとルーナは無理やり笑顔を作った。


「リリウム――幸せに生きてね」


 それはとても悲しげな笑顔だった。

 妹の幸せを願い、それを見れないと理解したとても健気なお別れ。

 ルーナは決心し手首と切っ先を返し自分の腹に刃を刺すと腹部から大量に血が零れる。

  

「悪魔……約束は守りなさいよ……じゃなかったら私が……あんたを……」


 崩れ落ちるリリウムは苦しそうに九の字になって転がる。

 一縷の望みに賭けた決死の断行だった。


「ばっ! なんてことをしやがる!」


「お、お前が剣を離すのが悪いんだからな! お頭に怒鳴られるのはお前だぞ!」


「ま、待ってくれよ!」


「あぁぁぁぁ!! お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!!」


 リリウムが絶叫し、盗賊たちが揉めている間、その腹部から滴り流れる血が床にどんどんと吸い込まれていった。

 途端、地面が光る。

 そしてそこから黒い人型が形成されていく。じゅるじゅると不定形であった形が整うとそれは素っ裸の人間のような生物となっていった。


「な、なんだ!?」


 盗賊たちは訳が分からずぽかんとそれを見つめることしかできないでいた。

 やがてそこに誕生したのは筋肉質で力強さが一目で分かるような強靭な肉体の持ち主。光に反射する髪は(しろがね)。プライドの高さが垣間見える言葉と仕草の男。


『ふはははははははは!!! ようやく、ようやく俺はここに復活したぞ!!! 千の魔物を召喚し万の軍勢を指揮した【万魔の魔王】ミゲル=ワルシュドゴラの受肉だ!! 肌に触れる空気も殺気も何もかもが心地良い! 愚人共、平伏して命の許しを請うが良い!!』


 彼こそが300年前に世界を統一しようとした【万魔の魔王】『ミゲル=ワルシュドゴラ』だった。

 ただし裸である。


「な、なんだこいつは!?」


「裸の変態が何を偉そうに言ってやがる!!」


 突然、裸体の男が現れたことに盗賊たちは慌てて誰何(すいか)する。

 廃墟に堂々とイチモツをぶら下げた男が現れたら誰でも動揺してしまうだろう。

 しかしながらミゲルの興味は自分に剣を刺してまで命を投げうち倒れて動かないルーナに向いていた。


「妹を助けるためとは言えまさか本当に自らの命を絶とうとするとはな。良い覚悟を見せてもらった」


「おいこっちを無視するんじゃねぇよ!」


 無視されたことに腹を立てた盗賊が剣を振りかぶってミゲルに接近すると、彼は鋭く睨み腕を無造作に振る。


「五月蠅いぞ! 『生者を憎み冥府へ誘う者たちよ我が番兵となり眼前の敵を打ち砕け<<召喚(サモン))>>・【インプ(幼悪魔)】【デス・ナイト(死を振り撒く者)】 【ソウル・イーター(魂喰い)】』 」


 ■インプ(幼悪魔)

 力:E

 頑丈さ:E

 素早さ:C

 魔力:C


 スキル:属性魔法(低)

 

 翼を持つ子供の悪魔。

 悪戯感覚で人を襲う。属性魔法を使える。

 本人たちは人間の嫌がる反応が面白くて遊んでいるつもり。


 ■デス・ナイト(死を振り撒く者)

 力:B

 頑丈さ:C

 素早さ:C

 魔力:D


 スキル:剣技、恐怖の重圧テラー・インパクト


 元騎士の死体に怨霊が乗り移った魔物。

 死者になったことで力の制限が解放されており、生前の剣技も持ち合わせている。

 

 ■ソウル・イーター(魂喰い)

 力:D

 頑丈さ:D

 素早さ:E

 魔力:B


 スキル:属性魔法(中)、精神汚染(マインド・ジャック)


 悪魔との契約に失敗した魔術師とも言われているが正体は不明。

 高い魔力と精神汚染の能力を持ち人の脳が好物。

 

 ミゲルが呪文を唱えると、魔法陣が地面に現れそこから怪物たちが3体出現する。

 【インプ(幼悪魔)】【デス・ナイト(死を振り撒く者)】 【ソウル・イーター(魂喰い)】、そのいずれもが普通の人間からしたら即座に死を連想するほどの怪物たちだ。


 インプは体こそ小さいものの羽を持ち素早く飛び槍を携えている。

 デス・ナイトは全身が黒ずくめのフルアーマーで体の内側から瘴気のような黒いもやのようなものが溢れている。

 ソウル・イーターはローブを着て腰が曲がっていて一見頼りない老人のようだが、その顔のほとんどがワームの口のようなギザギザの歯が付いた化け物。


「あ、あ、あ、あ、ああああああ!!!」


 瞬時に自分たちよりも格上のモンスターが3体もその場に現出したことにより盗賊たちは恐怖で体が固まってしまう。


「疾く去ね!」


 ミゲルの号令を合図にそれぞれが盗賊たちに向かい瞬殺していく。

 インプは火の玉を出して焼死させ焼けた盗賊の頭をボールみたいに蹴って遊び、デス・ナイトは一刀両断。

 ソウル・イーターは頭からがぶりと丸のみにしていた。


「ひぃぃぃぃぃ!!」


「ふはははははは! 悲鳴を上げて仰天しろ! 積もり積もった鬱憤をお前らで晴らさせてもらう!」


 唯一、リリウムを捕まえていた盗賊だけが残され、仲間たちが呆気なくしかもおぞましい死に方をして悲壮感のある悲鳴を上げる。

 次は自分の番、そう彼が思考した瞬間、しかし3体のモンスターはその場で薄くなり消えていく。


「くっ……。ちっ、力が……。娘一人だけでは魔力が足りなかったか……」


 頭を押さえ辛そうにふらつくミゲル。


「い、今のうちだ。来い!!」


「やだ! お姉ちゃんお姉ちゃん!!」


 それをチャンスと読み取った盗賊がリリウムを無理やり抱えて、来た道に逃亡した。


「待て……その娘を置いて――」


「うっ……ぐっ……」


 ミゲルが追おうとするが、倒れていたルーナに僅かに反応がありそちらに気が逸らされる。

 その短い間に盗賊はすぐに見えなくなってしまった。

 自分の体調不良を鑑みて追うのは不可能だと判断したミゲルは倒れているルーナに近寄る。


「まだ息があるのか……。だがこの傷では魔力の少ない今の俺では助けられん。――よかろう、娘。お前に俺が編み出した秘術【魂の契約(ソウル・ファミリア)】を使ってやる。それによってお前は新しい自分へと生まれ変わるのだ」


 ミゲルが手をかざすと魔法陣が現れ光が溢れていき、傷が治り血色が良くなっていく。

 

「さ、さすがにこれ以上は……俺でも厳しい……」


 魔力の限界を振り絞ったミゲルはその場でルーナの傍に倒れてしまった。

―橋の下の子山羊亭 死神と言われる受付嬢―


「あらいらっしゃい。登録された冒険者にはまず簡単にモンスターについて説明する決まりだから死なないためにも聞いてちょうだい。ギルドではモンスターの危険度を力、頑丈さ、素早さ、魔力の4つに別けて大まかにランク付けしているわ」

「」

S:人間には対処不可能

A:世界でも一握りの人間でしか対抗できない

B:なんらかの魔法や特殊な武器などが必要

C:ベテラン冒険者で対処が可能

D:一般的な冒険者や力のある人間でなら対処が可能

E:女性や子供でも武器などがあれば対処が可能

F:ほぼ無害。対処法が分かれば誰でも倒せる。


「こんな感じね。ステータスの最も優れた評価がそのモンスターの危険度よ。だから力や素早さがEとかでも魔力がBならそのモンスターの強さはBってことね。もちろん例外はあるけれどまずはこれを覚えることが冒険者として長生きするためのコツよ。え、そんなことより早く稼げる討伐依頼を見せろって? はぁ、全く最近質が低いのが多いわね。いえこっちのことよ。だったらあなたたちにはBランクモンスターの討伐をさっそく受けてもらいましょうか。ウフ、頑張ってね」

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