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生徒総会のじかん2

終わらない。止まらない。

エーくん、君のターンだ。

生徒総会は、未だゴールの見えない様相を呈している。


ここで王権を発動して押し切るか。

根拠の弱さで論破するか。


一部の上位貴族の子息子女は、将来を考慮して、空気となる事を選択したが、その他大勢は明らかに楽しんでいた。


「エー副会長」

「は、はいっ」

「お前は議長であろう!先程から(だんま)りを決め込んで!何とか申せ!」


策が無いディー殿下は、八つ当たり的にエーに丸投げた。


「……う…」

嫌な汗を背中にかいて、エーは聡明な頭脳をフル稼働させる。

ビイ、シー同様、彼にも前列で婚約者が例の黒革の手帖を真顔でヒラヒラさせているのだ。今にも、某月某日、が聞こえてきそうだ。


「…D嬢。こうはお考えになれませんか。」


「聞きましょう。」


「この議論がどうあろうと、殿下が宣言した以上、貴女の立場が脆弱(ぜいじゃく)である事は間違いありません。どうか破棄を受け入れられて、次善策を講じる方向でお考え頂けませんか?」


流石エー宰相の息子であると、会場は新たな局面に集中した。


「お考え違いをなさってはいけませんわ。わたくしは殿下がまことの愛とやらの為にわたくしを切るのであれば、わたくしとて、恋愛の何たるかを知らない野暮ではございません。ですが」

「断罪、ですね。」

はい。と、公爵令嬢は頷く。


「いわれのない断罪は受け入れられません」

「謂れが有るからアーディアが傷ついたのだ!」

「ちょっとお静かに出来ませんか‼︎」


(かぶり)を振るように、殿下を(さえぎ)ったエーに、会場はし、ん、と静まる。


―失礼いたしました。

 今は令嬢の釈明の番ですので、(しば)しお待ち頂けますか……


視線を逸らし頭を下げたまま詫びるエーに、殿下は、悪かった、と謝罪を受け入れた。


令嬢は続ける。

「これ以上、明らかな証拠がないとすれば、公爵家の威信にかけて、嫌疑を晴らしましょう。警察も魔術局も介入して頂き、真犯人を糾弾いたしましょう。」

「私もそれが上策かと。ですが、覆水は盆には還らない。」


ええ。


「わたくしが嫁ぐ事は、もうない。……殿下を泳がせてしまった、わたくしの油断ですわ。婚約者にこの様な暴挙を取らせて、何が婚約者でしょう。」


淑女たるもの、ふらつく男の手綱を握る手腕なしに、家を守る事などできません……そんな事もできないわたくしでは、この先結婚は見込めないでしょう……


柔らかな声が呟く様に言葉を紡ぐ。

その姿に、男達は胸が締め付けられ、女達は泣いた。


「貴女は……」

「エー副会長。それでもまだわたくしは、公爵家の長女です。為さねばならない事を申し上げて宜しいでしょうか。」


「ご存分に。」


ありがとうございます、と軽く会釈をして、令嬢は顔を上げた。晴れ晴れと。

そして、

冷たい瞳と皮肉な笑みで、

「ディー殿下」

と、呼び掛けた。


「……何だい?」

令嬢の独白に、心揺らいでいた王子は、優しく答えた。が。


「賠償金を請求致します。」

「えっ?」


「A伯爵令嬢様っ!」

D嬢が振り返ると、前列のA嬢がすっと立つ。

「計算尺を!」

「いつでも。」

すちゃっとA嬢が構える。


「幼少から現在17歳までの妃教育!」

「1日5時間と見積もりまして14600時間。官吏の時給から換算しますと2190万ゼクロールです。」


「次!夜会のホステス役!」

「デビュー以降の回数が年4回。殿下とコーディネートしたドレスが12着。おそれながら妓娼の方々の時給で換算し、更に装飾品を含めまして」


カタカタカタ。

「3618万ゼクロールです。」


「次!次期妃としての公務!」

「こちらは昨年から公式になさいましたので、およそ2年間。週20時間に均しまして、2080万ゼクロール。その公務に際しての衣装等の経費は概算で1000万ゼクロールとなります。」


カタカタカタ…

「8888万ゼクロール。D様が婚約の義務として果たされた金額です。」


ザワザワザワ…

(王都の貴族の館が買えるぞ)

(賠償金って、そういう事?)


「次!B嬢!」

「はあい!待ってたよん。」


Bはぴょこんと跳ね起きて、中空にスクリーンを張り、数字を泳がせた。

「婚約者仕様の魔術局直々のシールド代があー、んで!外遊に専属の魔術師が付き添ってーっと、王子の身辺もレンタルしてたしー、えと、えとおー!」


ピコピコと浮かんでは消える数字を皆はぼおっと見つめて、


ピコン!

「出ましたー。ざっと計算して、S級の魔石を300グストの重さに該当いたしまーす!」


(げっ!学園の全生徒分はあるよな)

(国境警備の魔術隊、1年分かな)


唖然、とする王子を後目(しりめ)に、エーは蒼白になって行く。


これは……


「次!C嬢。」

「お任せ下さい。」


銀髪を今日は垂らして、C嬢は立ち上がる。


「警備は女性騎士が担当なさいました。学園は流石に公爵家がまかなって当然。しかし王宮及び夜会、茶会、外遊等の警備に2名は付いております。こちらは婚約者としての経費と考えます。女性騎士は優秀そして淑女としても有能。彼女らの衣装、装備、寝食を相場で計算すると」


A嬢が計算尺を動かす。

「およそ9600万ゼクロールとなります。」


カタカタカタ

「総額、現金で1億8488万ゼクロールと魔石300グスト。」


公爵令嬢は、にっこりと断ずる。


「以上がわたくしへの賠償金ですわ、殿下」











ゼクロールはこの国の単価です。

相場は日本円の2分の1くらいかな?

1億ゼクロール=2億円相当かな?

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