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生徒総会のじかん

生徒総会前半戦でーす

「今ここに!

私、ディー王子はっ!D公爵令嬢との婚約を破棄し、アーディア嬢を将来の妻とする事を宣言する!」



う、おおおぉっ!!


生徒総会での、生徒会のトンデモ議案に、生徒諸君は沸き立った!


出たーっ!断罪!


ほぼ全員がワクワクしている。

王子の勝利か?令嬢のざまぁか?


閉扉し、教師ら大人の介在がないこの場を選んだのは、王子の戦略と言えよう。


壇上で、ひし!とアーディアを横抱きにするディー王子。

元気の無い顔つきで、それでも二人に従うエー ビイ シー。


見下ろすは、D公爵令嬢である。


美しい金髪の縦ロール。翡翠の瞳。切れ長の目。

正真正銘のご令嬢である。


「……これは、お戯れを。ディー殿下、破棄の理由をお聞かせ頂けますか?」

柔らかな声が心地よい。

その微笑みは聖母の様だ。


「望む所だ。さっ、アディ♡」

王子は上品にアーディアを前へとエスコートした。


「……D様っ!わ、わたし、今まで貴女に、酷い事いっぱいされてきました!でも、でも、平民上がりの男爵養女では、反抗も反論も出来ず!……」


「……。」


「わたしが、泣いていると、いつも殿下は優しく慰めて下さいました。…私もいつしか恋心を―」


「……。」


「ですから!どうか、どうか、D御令嬢!殿下を、殿下を自由にして下さいませ!これ以上、愛しい人を苦しめないで!」


「……。」


はたから見れば、可憐な乙女が高慢な貴族の令嬢に、懇願している図である。


ウルウルの幼顔に、豊かな肢体。男子生徒は、よろっとアーディアサイドに傾いた。


一方女子生徒は、(かいな)を抱いてか弱い振りをしつつ、その豊満な胸を強調するように寄せる仕草に、


けっ。

と、心で毒づいた。


「どうした。D。アディの告発に反論はあるか?」

押しつけてくるアディのバストに、ちょっとしどもどしつつも、気品を崩さないディー王子。


「今のお話のどこに、具体がございますの?わたくしは何を承服すれば?」


「痴れた事。アディを泣かせた。」

「女は泣くものですわ」

「アディをいじめた。」

「女は意地悪をするものですわ。」


公爵令嬢は、凛とした(たたず)まいで、静かに語る。


「わたくし、そちらの方とはお話もした事ございません。名乗りをしておりませんから。ですが、存在も出自も承知しております。

―貴族の淑女たるもの、嫌味や妬みの応酬など当たり前。むしろ、その高度なやり取りによって、知性教養品性を測るのです。たかが悪口程度で人に泣きつく様では、社交は出来ません。」


そうそう。と、女子生徒達は頷く。

マウント合戦など日常茶飯事。いちいち引きずっていては家名に傷が付く。


「至極もっとも。しかし、アーディア嬢は物を壊されたり服を汚されたりと、物理的にも被害を被っている。それも、貴女の指示であると。」


「まあ。ご自分の持ち物の管理も出来ませんの?わたくし達淑女は、指輪など貴金属を身につけております。ですから、身の回りの持ち物はしっかりと自己管理出来るよう、気をつけておりますわ。……それは殿下も同様かと。」


「…論点が違うであろう。悪意でなされたと言っている!しかも貴女の悪意でアーディアが被害を被ったのだ!」


育ちがいい王子は、反論に慣れてはいない。この婚約者は何故こうも苛苛させるのか。


ほほほ。

柔らかな表情を崩さず令嬢は続ける。

「悪意に負けるようでは、しつけ直しなされませ。で?」

 

「……身体を傷つけられたと!

何もない所で転ばされ、階段から落とされ、挙げ句短剣で切りつけられた!これはっ!殺人である!」


「そのような激しい行為をこのわたくしが出来たと、殿下はお思いですの?」


華奢な指を口元に当てて、少しばかり眉をひそめる令嬢は、実に優雅である。


「そなたの手を汚さずとも、子飼いを使えば造作もないこと。」

「成程。その子飼いとやらは、わたくしの指示だと告白したの?」


この膠着(こうちゃく)状態を破る好機と、ディー殿下は打って出た。


「良かろう。ビイ魔術局研究員!」

「は、はいっ」

「転倒、転落、確かに魔術による加害だと証明したのであるな!」


視線がビイに集まる。

昨日の経緯は皆に知れ渡っている。さて、今日はどう反撃するか?


「……魔術を使った場合、術痕(じゅつこん)が残ります。アーディア嬢の怪我の場所には、確かに術痕がありました。そして、遠隔による物理的な移動は、かなりの魔術と言えます。」


「して、下手人は判明しているのだな?」


「……。」


「どうしたビイ。はっきり申せ。」


下を向いて、モゴモゴとビイが言い淀んでいると、


(―――ブラックコーヒー♪)


と言う、微かな声が、した。


「ビイ?」

「あ、……わわわっ!いやっ!えとっ!じ、術痕はありましたが、だだだ誰っーとーはー」

「嘘!アディに言ってくれたじゃない!B…ふぐっ!」


すかさず言い募ろうとするアーディアの口に、何故だかリンゴが、カポッと挟まる。


「物証はございませんのね。ビイ様?」

「……っ。は、はあ」

滝汗のビイには、更にささやき声が


(……乖離(かいり)する俺の魂♪♪)


「わ!わあっ!‼︎ありませんありませんありません!」

ビイは、叫んで、箱男になるべくそそくさとシールドを張り、消えてしまった。


魔術師の戦線離脱である。


「…殿下。王族の貴方が、曖昧な証人で動かれるなど、あってはならない事ですわ…」

「……っく!私に説教するな!小賢しい女狐め!」

「まあ、口汚い事。」

「五月蝿い!ならば!」


激高した殿下は、口のリンゴをようやく外したアーディアの左手を掴み、ばっ!と捲りあげた。


いやーんっ♡


と、身をよじる恋人の声に、若干赤らみながらも、殿下は声を張る。


「見よ!この痛々しい包帯を!

命があったのは、幸いであった。だが!将来の妃を傷物にした罪!そなたに同様の贖罪を求めようぞ!」


「妃……ああ、ディー!私を王宮の正妃にして下さるのね!」

「勿論だ。真の愛は成就する。私の誠を受け止めておくれ。」

「ああ、ディー……」


いちゃいちゃが止まらない二人ではあったが、あくまでも育ちの良い殿下はアーディアの手を取りつつも、

「シー、お前の短剣をあやつに貸せ。自分で付ければ、誰も咎められぬ。」

と、命じた。


公爵令嬢は、ルネサンスの天才が描いた女性の様な、謎めいた微笑みを崩さない。


観衆、もとい生徒達は、やり過ぎではとざわついたが、第二王子の命には逆らえまいと、固唾を飲んだ。


命じられたシーは、モジモジしつつ、会場の一角に目線を送った。


「どうした、シー。」

シーは目線の先に居る女子生徒に釘付けになっていた。


そこには、銀髪の美女が頬杖を着いて、不敵な笑みをたたえていた。

そして


「……!」


す、と、左手に握るモノをチラつかせた。そこには、黒い、ムチがあった。

銀髪の美女は、ふっと吐息を吐いて、そのムチに

ちゅ

と、口付け、にっ、と口角を上げた。

「……あ……あ……あ」


ブルブル震える様子に気づいた殿下がシーの視線をたどった頃には、美女は左手を下げ、窓の外を見ていた。


「で、殿下!私には出来ません!た、例え悪女であっても、いや、だからこそ、私の命の剣を女の血で汚す事はっ!」

「シーさんっ!私を介抱して必ず仇を打つって言ったのは嘘なのっ!騎士の誓いは!あの時貴方は、犯人は、ぐっ!」


再びアーディアの口には、今度は洋梨が挟まり、ジタバタした。


「で殿下っ!貴方のお言葉に背くお、俺をお許しくださあい!」

シーは、そのドサクサに、壇上を駆け下り、通路を上がり、扉まで突進していった。

途中、こけっと転びそうになったのは、先程の美女がウインクを飛ばしたからであるが、それは話の進行には関係がない。


ドタン!と、再び扉の音がして、気がつけば壇上には、死んだ様に座っているエー副会長と、洋梨をシャクシャクするアーディア、そして演台の前で呆然とするディー殿下であった。


育ちの良い殿下は、このような重なる赤っ恥は、生まれてはじめての出来事である。


しかし

生徒総会はまだ、続いているのであった―。








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