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七話 知らなくていいこと

 

 家に帰宅してから、夕食の準備をしていた。

 大きなクエストの後は、お疲れ様の意味を込めて、ウナギの大好物を用意する。


「一番いい肉を買ってきたぞ。S5ランクの桃毛モウだ」

「わふわふわふっんっ!」

「おにくっ! にくにくっ!」


 ウナギと一緒にミウもはしゃいでいる。

 台所で肉を持つ俺の周りを、二人でくるくる回りだす。


「むこうで大人しく待っててね」

「わっふん」

「はーい」


 仲良く並んで食卓に行く、一人と一匹。

 非常に仲睦まじいが、俺はミウを猜疑的かいぎてきな目で見てしまう。

 ウナギの名前を知っていたのは、どういうことだろうか。

 俺が無意識の内に呟いていたのかもしれないが、その事をまだ聞けないでいた。


 ……ご飯の時に、それとなく尋ねてみようか。


 そんなことを考えながら、フライパンの上に油を引いて、厚切りの肉をのせる。

 ジュウ、という音がして、肉が焼けるいい匂いが漂ってきた。


「クフーン、クフーン」


 いつものようにウナギが、早く早くと、鼻を鳴らしながら食卓のまわりを周っている。


「よし、これぐらいでいいか」


 ミディアムレアに焼けた肉を、まな板の上に置く。

 後はナイフでサイコロ状にカットして完成……


「あれ?」


 腰に挿していた愛用のナイフがない。

 レッドカイザードラゴンと戦っていた時に落としたのかっ。


「ナイフ、カバンにありゅって」

「え?」


 突然、ミウから声がかかり、驚いて振り向く。

 ウナギと一緒に食卓の周りをくるくる周っていた。


 ミウに言われた通りにカバンの中を確かめる。

 そこに愛用のナイフがちゃんと入っていた。

 そうだ、確かドラゴンとの最終決戦の前に落とさないように仕舞い込んだんだ。


 ……まさか、いや、それしか考えられない。


「ミウ、おまえ、ウナギが何言ってるのかわかるのか」

「え? シロはわからないの?」

「お、おぉ」


 ミウの純粋な瞳を見て、嘘をついていないことがわかる。

 最初に名前を言い当てたのも、ウナギがミウに名乗ったのだろう。

 もしかして、異世界の人間は、みんな動物と話せるのか?


「ずっとウナギと話していたのか? ほ、他に俺のことなにか言ってなかったか?」

「うん、あのね」


 ミウが話し出すと、ウナギはその横にちょこんと座った。


「女の人と話す時、いつもチラチラ胸を見るのはやめたほうがいい、って。気づかれてないと思ってるみたいだけど、ロッカさん、気持ち悪そうな目で見てたよ。そんなんだからいつまで経っても、彼女ができないんだよ、っていってりゅ。それと……」

「ストップっ、やめてっ! もういいっ、もうやめてくれっ!!」


 これ以上はもう聞きたくない。

 がっくりとうなだれる。


「わふ、わふふ」


 ウナギが俺の手の上に、太短い前足をちょこんと置いてくれる。


 もしかして、慰めてくれているのか?


「なんて言ってるの?」

「おにく、はやくちょうだい、だって」


 世の中には、知らなくてもいいことがあると思った。


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