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六話 犬と幼女

 

「びっくいしたっ」


 びっくりしたと言いたいのだろうか。

 ダストシュートから落ちてきた幼女は、俺の腕でプフー、と大きく息を吐いた。

 肩まで伸びた黒い髪とぱっちりとした大きな黒い瞳。

 ぷっくらとしたほっぺが実に柔らかそうだ。

 服はこちらの世界にない変わった素材のものを着ている。

 動物の皮ではない、派手な色をした布地は、この幼女が異世界から来たことを実感させた。


「おじさん、だえ?」


 おじさん、誰? と言っているのか。


「いや、ちょっと待て、おじさんって歳じゃないぞ、まだ25だ。シロウさんと呼んでくれ」

「シロっ」


 なんか犬のように呼ばれたが、まだおじさんよりはマシだ。


「それでお嬢さんのお名前は、なんていうのかな?」

「みゅうー」

「みゅう?」

「ちゃい、みー、うー」

「ミウ?」


 正解したみたいで、にぱー、と笑う。

 どうやら、名前はミウのようだ。

 しかし、なんだ、これ。

 ミウの笑顔に胸がキュンとなる。

 やばいぞ、なんか父性本能に目覚めそうだ。


「ミウはなんでここに来たんだ?」

「わかんないっ! おっこちたっ!」


 困ったことに異世界から落ちてきたものを戻す方法は見つかっていない。

 ダストシュートは一方通行だ。


「まいったな、ダストシュートから人間が落ちてくるなんて聞いたことがないぞっ、どうすりゃいいんだっ」


 誰かに知れたら、ミウは政府の研究機関の実験材料にされかねない。

 しかも、下手すれば、このダストシュートもバレてしまう。


「どちた、シロ。ぽんぽんいたい?」


 ミウが悩んでいる俺の頭をヨシヨシしてくれた。


「大丈夫だ。それよりミウは、大丈夫なのか? お父さんやお母さんと離れて怖くないのか?」

「ミウ、トトさんもカカさんもいない。ひとりだよっ」

「え? そ、そうなのか、すまん」


 なにか事情があるのだろうか。

 悪いことを聞いてしまった。

 しかし、どうしようか?

 このまま、ここにほっとくわけにもいかないが、連れて帰るわけにもいかない。

 ミウをじっ、と見つめていると、同じようにこちらをじっと見つめてきた。

 キュンと胸が締め付けられる。


「と、とりあえず、俺の家にくるか? ミウ」

「うんっ、みう、シロのいえにいきゅ」


 まったく不安に思ってないのか、ミウは元気にそう答える。


「わふっ、わふっ!」


 ミウを抱えたまま、大木の外に出ると、待っていたウナギが吠え出した。

 どうやら、初めて見るミウのことを警戒しているようだ。


「いぬさんだ。かーいいね」

「触ってみるか?」

「いいのっ!?」


 抱っこしていたミウを地面に下ろすと、ウナギに向かって駆け寄っていく。


「わっふ、わっふ」


 俺以外あまり懐かないはずのウナギが、ミウに撫でられて、ブンブンと尻尾を振って喜んでいる。

 同じ世界から来たから、相性がいいのだろうか。


「ウナギ、かわいいねっ」

「ああ、そうだろう。俺の大事な相棒だ ……ん?」


 そう言ってから、おかしな事に気が付いた。


 俺、ミウを拾ってから、ウナギの名前、呼んだっけ?


「わはははっ、ウナギ、くすぐったい」

「わふっ、わふっ、わふんっ」


 はしゃぐ幼女とじゃれる愛犬を見て、胸がざわつく。


 もしかして、俺、とんでもないものを拾ってしまったんじゃないか。


 ミウがやって来たダストシュートを見上げながら、そんな事を考えていた。



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