四話 穴【ダストシュート】
レッドカイザードラゴンの買取が終わりロッカと別れる。
帰り際にも、また説教されそうだったので、聞こえないふりして、逃げ出した。
「あれさえなけりゃ結構いい女なのにな」
「わっふ」
まるで言葉がわかっているかのようにウナギが吠える。
やはり、俺は誰かとパーティーを組むより、ウナギと二人のほうが気楽でいい。
ロッカには悪いが、よほどのことがない限り、多人数での狩りはしないだろう。
レッドカイザードラゴンの住処である山から、家までは結構な距離があったが、高速飛行馬車なら半日で帰れる。
天馬と呼ばれる翼のある馬を使った馬車は、普段なら絶対乗らないくらい高額だが、思った以上にレッドカイザードラゴンが高く売れたので、今回は贅沢することにした。
「一ヶ月ぶりに帰れるな。今回は頑張ったから、しばらくはのんびりしような」
「わふんっ」
『攻略本』には、一回の狩りには時間制限があり、どんな魔物も1時間以内に倒さなければ、失敗と書かれてある。
どれだけ時間をかけて倒してもいいこちらの世界は、異世界に比べたら、かなり緩い。
「いつか、もっと強くなったら、異世界でも狩りしたいな、ウナギ」
「……グゥ、すぴー」
空中に浮かぶ馬車に揺られながら、いつの間にかウナギは眠っていた。
そんなウナギを撫でながら、俺もいつしか深い眠りに落ちていく。
目が覚めた頃には懐かしの我が家についていた。
普通のハンターは、街に拠点を構える。
魔物討伐の依頼は、街にあるギルドで受けれるし、酒場などで色々な情報も共有でき、武器やアイテムも売っている。
しかし、俺の家は街から離れた森の中にあった。
周りには誰も住んでなく、ぽつんと一軒家だ。
元々大工だったじいちゃんが、引退最後に隠居する目的で建てた木造の家だが、そのまま俺が譲り受けた。
逆にじいちゃんには、俺が街に家を買って、そこに住んでもらっている。
「わふっ、わふっ」
久しぶりに帰ってきたのが嬉しいのか、ウナギが中に入るなり、仰向けで床に転がっていた。
「休憩は後だ、ウナギ。先にやることがあるだろう」
「くぅ」
荷物を置いた後、ちょっと嫌そうなウナギを連れて外に出る。
わざわざ、街に拠点を構えず、こんな森に住む理由。
それが今から行くところにあったのだ。
「一ヶ月ぶりだから、結構たまってそうだな」
家からさらに森の奥地に入っていく。
人が入れないような獣道も、何年も通っているうちに、目を閉じても歩けるようになっていた。
「ついたぞ、ウナギ。どうだ、お宝の匂いはするか?」
「わふんっ」
木々の間を潜り抜け森の最奥地に到達する。
そこには、樹齢数千年はあると思われる雄大な大木がそびえ立っていた。
取り巻く周りの空気が他とは違い、神秘的で厳かな気持ちに満たされていく。
大木の根元には、大きな樹洞が広がっている。
樹洞は、樹皮がはがれて木の中が腐るなどして隙間が開いてできた洞窟状の空間だ。
かなり太くなる大木の場合、年月がたつと根元の中心部分は分解が進み、中はがらんどうになっていく。
「おお、いっぱいあるな、ウナギ」
「わふっ、わふっん」
そして、そこには、漂流物と呼ばれる異世界の物品が溢れていた。
空洞の中に入り、上を見上げる。
俺がこの森に住む理由。
異世界と繋がる穴が、そこにあった。
 




