三話 買取査定
「あきれた。本当に一人で倒したんですね。レッドカイザードラゴン」
落とし穴にはまったまま動けなくなったレッドカイザードラゴンの前で、彼女はそう言った。
魔物買取専門店『六宝』の女店長ロッカ。
長い銀色の髪に、メガネ、黒いスーツ、手には書類が詰まったアタッシュケースを持っていた。
いつも思うが、山に来る格好ではない。
「ありえませんよ。普通のドラゴンですら十人以上のパーティーを組みますよ。ましてやSSS級のレッドカイザードラゴンに単独で挑むなんて、どうかしてます」
「単独じゃないよ。な、ウナギ」
「わふっ」
足元にいるウナギが、そうだよ、というように、どや顔で吠えた。
「はいはい、わかりました。でもあまり無茶なことしないで下さいね。大物を狙う時は、ちゃんとパーティー組まないとそのうち痛い目にあいますよ」
「大丈夫だよ、ロッカ。見てみろよ、この攻略本っ! 異世界では、どんなにすごい魔物も四人で攻略するんだぜ。単独での攻略も当たり前みたいだし……」
「ああっ! また漂流物の攻略本持ち出してっ! ダメですよっ! それ違法なんですからっ!」
異世界から、やって来る漂流物は、危険物扱いされ、この世界では使用を禁止されている。
ウナギを購入したペットショップも、違法販売の罪で逮捕され潰れていた。
「わかった、わかった。取り敢えず査定してくれ。領収書はいつものように、【狩猟家族】で頼む」
「一人しかいないのに、そんな名前にするから巷では有名になってますよ。凄腕のハンター集団がいるって」
単独で大物を狩ると、目立つので、集団ぽい名前にしたのだが、それでも目立ってきたようだ。
これ以上有名になる前に改名してもいいかもしれない。
「輸送料と解体料を引くとこれくらいになりますが、いつものように角や牙は売らないのですか?」
「ああ、そうだな。また保管しといてくれ」
「勿体ないですね。保管料も馬鹿になりませんよ。そうなると今回はこれが買取価格になりますが…… あぁ! やっぱり勿体ないっ」
ソロバンを弾きながら、ロッカが勿体ないを連呼する。
仕方ないのだ。
今回レッドカイザードラゴンに挑んだのは、お金だけではなく、別の目的があったからだ。
「言っておきますが、どこの鍛冶屋もドラゴンの角や牙は武器になんかしてくれませんよ。コレクターに売ったほうが絶対お得です」
「そんな事ない。この攻略本には、倒した魔物を武器にしている写真があるんだ。ほら、見てみろよ」
「いい加減、通報しますよ、シロウさん」
ロッカが本気で怒りそうなので、攻略本を懐にしまう。
しかし、魔物素材の武器を諦めたわけではない。
「普通の武器じゃ物足りないんだよ。ロッカの紹介で作ってもらった特注の大剣。一回使っただけで、壊れちまったからな」
せっかく竜殺しと名付けてやったのに、思い切りドラゴンに斬り込んだら折れ曲がってしまった。
「無茶な使い方するからですよ。まあ大手の鍛冶屋は金型を製造して、大量生産が主流ですから、特注の武器なんて作り慣れてないんですね」
確かにそのとおりだ。
コストを考えたら、オーダーメイドに近い武器など作れない。
「次は大手ではなく、個人でやっている鍛冶屋を当たって見ます。でも期待はしないで下さいね」
「ありがとう、ロッカ。よろしく頼む」
異世界の攻略本には、ドラゴンよりも凄い伝説級の魔物がたくさん書かれている。
この世界にも、やがてそんな魔物が現われるだろう。
その時に普通の武器だけでは絶対に勝てない。
攻略本の通りに、魔物から武器を作れば、俺はさらに強くなれる。
『大丈夫、異世界の攻略本だよ』
帯に書かれた大丈夫という言葉を、俺は信じて疑わなかった。