4話 問答
──異世界転生
現実に起きた、と言われれば、にわかには信じがたい話を、リオンはやけくそ気味にロベルタに説明する。
魔法なんてない世界で生まれたこと。病気になって死んだこと。気がついたらこの姿で生まれ変わっていたこと。
自分で話していて笑ってしまいそうになるほど素っ頓狂な話だが、理解して貰わなければ真面目に命に関わってきそうなので、リオンも真剣だ。
「──ってなわけで、俺自身なんであんな場所にいたのかわからないんだ。」
一通り話終え、相手の反応を待つ。リオンが長々と説明している間、ロベルタ達は黙って聞いていた。決して要領の良い説明ではなかったが、それでも最後まで聞いていた。
「──」
しばし、沈黙がその場を支配した。2人とも、ただじっと、リオンを凝視している。何事か考えているのだろう。
「なるほどねェ。これは、おもしろい拾い物をしたようだねェ、カローラ。」
沈黙を破ったのは赤毛の女、ロベルタだった。ロベルタは、異世界転生というリオンの話を聞いても、特に動じた気配はなかった。
捕獲した珍獣を観察するように、ニヤニヤとリオンを見ている。
「こりゃ驚いた。噂話程度に小耳に挟んでおったが、まさか本当にそうだとは──」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 」
何事か自分たちで納得しているカローラ達に拍子抜けしたような表情を見せるリオン。
「今の話、そんなあっさり信じるのか?」
てっきり疑いを持たれて追及が始まることを予想していたリオンは驚きの声をあげる。
「やかましいねェ。あっさり信用されるのが不服かい?」
「い、いや、そういうわけじゃ…」
「たまにいるんだよ。まるで他の世界から持ち込んできたみたいに次から次へと何かを発明したりする輩がさァ。」
「300年前、この世界の文明を飛躍的に進歩させた天才発明家がおったんじゃよ。そのあまりにも突飛な発想と、多種多様な分野での功績が常軌を逸したものがあってのぅ。その者を他所の文明から来た者ではないかとする噂があったんじゃよ。」
ロベルタの言葉をカローラが補足する。
もし、彼女達の言うとおりならば、その発明家とやらはリオンと同じ異世界転生者である可能性が高い。
とにもかくにも、異世界転生という状況が相手に伝わったことで、ほっと胸を撫で下ろすリオン。
「ところで、ここはどこなんだ? 」
今まで質問に答えるだけだったリオンは、次は自分の番だと言わんばかりに質問を投げ掛ける。
「"死の樹海"と呼ばれる、まあ簡単に言えば山奥じゃよ。」
先程まで会話にあまり混ざろうとはせずに、リオンをじっと見つめるだけであったカローラが答えた。
「なんとも物騒な名前だな。」
そもそも、この世界の地理についてなにも知らないリオンにとっては、現在地がどこか聞いたところで意味が無いのだが。
「なら、さっき話してた雷神がどうとか、あれはどういう意味だ?」
盗み聞きしていたことがバレているリオンは開き直って直球で訊く。
正直なところ、リオンは自分の質問に答えてもらえるとは思っていなかった。勿体つけられてはぐらかされると思っていたのだが──
「かつて、とある一帯を支配していた龍がいてねェ。いちいち横柄なヤツでねェ、私は嫌いだったよ。」
答えたのはロベルタだ。意外なことにすんなりと答えてくれる。
「トウルと名乗っていたかなァ。そいつがつい最近死んだんだよ。」
ロベルタの口調は楽しげだ。よほどその龍とやらが嫌いだったのだろうか。
「それが俺とどう関係あるんだ? 」
「その龍が使っていた力が"雷魔法"だったんだよ。お前が先刻暴発させた力さ。」
実のところ、己の内側にある力に意識を集中さていたリオンは、自分がどんな魔法を発言させたか把握していなかった。
「雷。なかなかレアっぽい適性だな。」
扱いが難しそうな、あるいは使えなさそうな能力では無かったことに内心ほくそ笑むリオン。
「雷魔法はトウルだけの力だったのさ。唯一の使い手だった。それがぽっくり逝っちまってねェ。」
雷を使う龍、なんて実際に遭遇したらたまったものではないだろう。その脅威が去った、というのは喜ばしいことなのだが、別の問題があった。それは──
「所有者を失った強大な力はどうなると思う? 」
この世界がどのような法則で成り立っているか知らないリオンは、首をかしげることしかできない。
「雷という要素は、火や水みたいにその辺にありふれたものじゃないからねェ。」
要素。リオンはそれを、空気中に漂っている魔力のようなものだと解釈する。
実際、それである程度間違ってはいない。
「火や水じゃったとしても、トウルほど膨大な量の所有者を失った魔力は、そう簡単には散ってはゆかぬ。」
ロベルタの話をカローラが補足する。
「強力な力を持った龍が死ぬと、しばらくははの龍が所有していた膨大な魔力が、周辺の大気を漂い、天災を引き起こすんじゃよ。」
「ただでさえ馬鹿みたいに魔力を持っていたトウルだ。生半可な量じゃないのさ。ましてや性質は雷。いったいどんなことになるのかと楽しみにしていたんだけどねェ。」
険しい表情でリオンを見つめるカローラと、愉快そうに頬を歪めているロベルタ。
彼女はさらに愉快そうに笑うと、こう続けた。
「いわばお前はその"天災"そのものなのさ。」
予言については、後ほどカローラさんあたりから説明あると思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。