3話 初遭遇!異世界の住民
誤字脱字あったらすんません。楽しんで読んでいただければ幸いです。
「一体どういうことじゃ。こんな場所に子供が迷い混むとは…」
「私が聞きたいねェ。外が五月蝿いから様子を見に行ったら、このガキが転がってたんだよ。」
「面倒事は御免じゃぞ! 」
(なんだ…声が、聞こえる?)
「状況からみて、あの辺りを吹き飛ばしたのはこのガキの仕業だろうねェ。」
「笑い事では済まんぞ。おぬしわかっておるのか? あれは──」
「知っているとも。雷魔法。"雷神"とか呼ばれてたトウルの力だろう? いやァ、愉快、愉快。」
(俺は、気を失ったのか?)
徐々に意識が鮮明になり、自分が"魔力"の行使を試していたことを思い出す。
(ここはどこだ? 寝かされているのか?)
体の感覚に注意を向けると、自分が布団のようなものの上で寝かされていることがわかった。
おまけに服代わりか、布が体に身に付けられているらしい。
「何が愉快じゃ、これは明らかに予言と外れた出来事じゃぞ!」
「予言、ねェ。あんなもの、外れたところで私にはどうでもいい事だねェ。」
(女の声…。それに、ばあさんの声…。)
先程から聞こえてくるのは2つの声だ。
「おぬしには良くても、そうでない者は大勢いるんじゃ。いい加減にせい!」
1つはジジババ口調で話す老婆の声だ。その口調は穏やかではなく、苛立ちが混じっている。
「ガタガタとやかましい小娘だねェ。それに、あんだけ偉そうに振る舞ってた龍の、その力を受け継いだのがこんなボロ雑巾みたいなガキだったなんて、愉快と言わずになんだって言うんだい?」
2つめは女の声だ。声質からして、こちらの方が年下に聞こえるが、老婆を小娘呼ばわりしている。
「呑気なもんじゃのぅ。周辺諸国の王どもが聞けば卒倒するだろうに。」
ハキハキと力のある話し方をする老婆だ。年老いた者の声色ではあるが、しかし若々しさの残る覇気があった。
「龍の一匹や二匹、予定より少し早くくたばったくらいで、随分と大袈裟だねェ。」
対する女の声の発声主は、どこか嘲りを含んだような、そして腹の底まで響いてくるような重々しい話し方をする。声を聞いているだけで、重圧に押し潰されてしまうような感覚を覚える。
(なにやら俺自身についても重要そうな話みたいだな。しばらく狸寝入りをして盗み聞きだ。)
魔法が暴走して倒れているところを、現在会話している2人に保護されたことを察する彼。
"雷神"だの"予言"だのと、いかにもこの世界の重要な情報を話しているらしいこの会話を、聞き逃す手はない。
「それより、ジジイへどう説明するんじゃ。あたしゃ御免だよ。」
「そりァ、まずは本人に聞くのが早いだろうねェ。」
女の発した言葉の意味を理解する間もなく、状況は動き出す。
「なァ。起きてるんだろう? 雷魔法のガキ。」
女の声は、明らかにこちらに向けられたものだ。それを証明するかのように、女が近寄ってくるのが気配でわかった。
(何!? 気づかれたのか?)
"本人"というのが聞き耳をたてて狸寝入りしている自分だということをようやく理解した彼。思わず飛び起き、声が聞こえる方に目を向けると──
「盗み聞きとは、ずいぶんな趣味だねェ。」
──炎のような真っ赤な髪の長身の女が、見た者を卒倒させるような凶暴な笑みをうかべて、立っていた。
「──」
目の前の圧倒的な存在感に、思わず息を飲む。
「ほら、なんとか言ったらどうなんだい?」
長く、腰まで伸びた真っ赤な髪。血を連想させるような赤黒い瞳。目鼻立ちのくっきりとした美しい顔。
それを、凶暴に歪めて嗤っている。
「困ったねェ。口が聞けないのかねェ?」
身長はかなり高い。180はゆうにあるだろうその長身の上半身を前に倒し、さながらチンピラのような姿勢で顔を覗き混んこでいる。
「あ、お、俺は…」
やっとの思いで上ずった声が出た。身体に備わった防衛本能が、けたたましく警報をならしている。
「あァ良かった。言葉は通じるみたいだねェ。」
言われて気がつく。自分の知っている言語形態が通用することを。
(語学勉強の必要はなさそうだな。そると、文字は読めるのか?)
現実逃避ぎみな思考をよそに、目の前の赤毛の怪物が尚も語りかけてくる。
「口が聞けるなら、そうだねェ、まずは名前を聞きたいねェ。」
重圧感のある、耳に粘りつくような話し方をする女だ。ごく普通の質問をされただけなのだが、それをしたのが目の前の怪物となると話は変わってくる。
「俺、の、名前は──」
答えようとして、ふと気がつく。別に自分の名前の記憶が吹き飛んでいるとかそういうことではない。名前どころか以前の住所や電話番号、最期に入院していた病院や主治医の名前に至るまではっきりと覚えている。
「──」
では何を思い悩んでいるか。
──この身体に転生した今、以前の名前を名乗るのは適切なのだろうか。
(ま、どうでもいいか。)
半ば思考放棄に近いが、とりあえず結論付ける。
「──リオンだ。」
名字は名乗らなかった。
代わりに、前世で親につけてもらった名前をそのまま名乗ることにした。
この世界で家名がない、というのが通用するかは不明だが、ひとまずそう名乗った。
「俺の名はリオンだ。」
「リオン。上等な名だねェ。親につけてもらったのかい?」
「そうだ。」
短い問答だったが、目の前の赤毛の女は満足げに頷いた。
「あァ忘れていた。私の名はロベルタ。まァ、好きに呼べば良い。うしろのはカローラだ。」
──ロベルタ
思い出したようにそう名乗った彼女は、後方に一瞥をくれるでもなくそう言った。
「カローラ・エッゲルトじゃ。」
雑に紹介された老婆は、そのことに抗議するでもなく短く名乗った。
リオンが狸寝入り中に聞いていたもう1つの声の主だ。
見た目には、歳は60くらいに見えるが、しゃんと伸びた背筋、力のある声が老いを感じさせない。しかし顔に深く刻まれた皺が、しっかりと積み重ねてきた時間の長さを物語っている。
「次は、どうやってあんな所まで来たのか聞きたいねェ。教えておくれ。」
そんなカローラを、"小娘"呼ばわりしていた目の前の赤毛の女、ロベルタは見たところ30台、といったところだろうか。とてもカローラを"小娘"呼びするほど年上だとは思えない。
(人間じゃないんだろうな。)
明らかに幼く、あるいは若く見えるキャラクターが、実は何百年も生きている存在だった、というのはファンタジーでは珍しい設定ではない。
(もっとライトベル読んどくんだったな。)
まだ読書をする気力が残っていた頃、病院のベッドの上で読んでいたライトノベルで得た知識が役に立った。
ライトノベルよりも一般文芸を好んで読んでいたのだが、こんなことならもっと読み漁るべきだったと後悔するが、もう遅い。
「お前のその名付け親にでも捨てられたのかい。」
今度はリオンがどうやってあの場所にたどり着いたのか知りたいらしい。重々しく、ねっとりとリオンに問いかけるロベルタ。
「知らねーよ、そんなもん。気がついたらあそこに居たんだ。」
嘘ではない。転生したらしいことはわかっているが、リオンが何故あの場所に居たのかは本当に不明だ。
転生前に、神様的な存在によるチュートリアルが行われた記憶もない。本当に、気が付いたら異世界だったのだ。
「おかしいねェ。なら今頃、お前に名前をつけた親は何してるんだろうねェ。」
当然といえば当然の疑問だ。異世界転生してきたと知らなければ、この少年は誰かに捨てられたのだと考えるだろう。さらに自身の名前を親につけてもらったのだとロベルタに言ってしまっている。
この不自然な状況を説明するには、異世界転生について触れないことは不可能だ。
だから、
「異世界転生ってやつだ。俺もよく知らんけど。」
──どこまで信じてもらえるかはわからないが、意を決して全てを打ち明るリオンだった。
しばらくはこの2人と主人公が主な登場人物ですが、長くは引っ張らない予定です。ちゃんとすぐにヒロインも出てきますのでよろしくお願いします。