2話 授かった力
ぼちぼち更新。
──水面に映る自分の姿が、記憶の中のそれと異なっている。
人から言われれば笑い飛ばしてしまうような出来事が、自分の身に起こっているとなると笑えない。
「異世界、転生…ってやつなのか?」
正確には、自分の姿が変わっていることがわかっただけで異世界に来たとはまだ断定できるわけではない。
「思い出せ、以前の最後の記憶はなんだった? どこに居た? 何をしていた?」
思い出された最後の記憶は、病院のベッドの上での記憶だ。
「そうだ。俺は難病を患って、それで──」
入院、そして検査の後に手術が決定したのだ。成功する確率は高くない、というよりかなり低い手術を。
「そうだ。思い出してきたぞ…!」
手術当日、医者に麻酔をかけられたところでぷつり、と記憶が途絶えていて──
「失敗…したのか。」
推測ではあるが、俗に言う"異世界転生"のようなこの状況と、前世とも言える記憶を照らし合わせると
「手術が上手くいかずに死亡。その後なんの因果かこうして別人の体で転生したわけだ」
元々死期は近かった。せめてもの延命、ということで受けた手術だったので、医療ミスということではないだろう。
「ひとまず、深呼吸だ。」
頭の整理がつけば、いくらか落ち着ける。先程は状況の理解が追い付かずに焦ったが。
「まぁ、よく見りゃイケメンだしな、俺。」
冷静になってもう一度水面に映る自分を観察し、容姿が優れていたことにひとまず安堵する。
髪は藍色で少し癖毛。水面から見つめ返してくるその瞳は青紫色に光を反射して輝いている。くっきりと線の入った二重の形のいい目、すっと真っ直ぐに通った鼻筋。
「悪くない。上等、上等。」
体はまだ小さかった。10歳前後だろうか。自分すら驚愕するほどの運動能力を披露してみせたその体は、まだまだ幼いものだった。
「んで、男か。」
全裸であった為に、性別の確認はすぐに済んだ。
一通り自分の身体を眺めたあと、機能の確認を始めた。長く病床に伏していた彼にとって、体が思うように動かせるかは非常に気になることだった。
「ま、さっき結構走ったんだがな。」
結果としては、彼の想像以上に高性能の身体だった。明らかに異常な脚力、そして腕力。五感もかなり研ぎ澄まされている。
そして──
「以前には感じなかった感覚があるな。」
漠然としていて上手く表現できないが、はっきりと自分の中に感じる力があった。
「魔力、ってやつか?」
病院のベッドの上で、暇潰しに読んでいたライトベルの知識で見当をつける。
実際それは間違っていない推測だった。
「どれ、試してみるか。」
他にやることがない、という表現が正しいのかは怪しいところだが、彼は自分の中の、魔力と思われる力を調べてみることにしたらしい。
比較的平らな地面を見つけると、目を閉じ、自分の内側へ意識を向けた。
「お、おおっ…!」
するとすぐに明かな変化があった。体が熱くなり、自分の中で眠っていたものが力を奮わんと覚醒する感覚──
「うおおぉぉ!!まだまだァ!!」
己の力の奔流に身を任せ、さらに深く、深く、魔力に意識を集中させる。
やがて彼の周りに青白い静電気のようなものが発言する。
バチバチと、弾けるような音をたてながら発光しては消え、発光しては消え──
徐々にその規模は大きくなっていく。
「うぐっ、ォォォォォ!!」
獣のような咆哮をあげながら、さらに魔力に意識を向ける。
そして──
「───ッッ!!!」
──鼓膜を破らんばかりの轟音が、大気を揺らした。