物語
この世界には獣人がいる。
人とほとんど同じでありながら、強い体躯と、ただの人にはあり得ない特殊能力を持つ者もいる。
ただし、獣人たちはどの種族であろうと、子ができにくい。
――というか、未婚率が異常に高いのだ。
人間は結婚しても離婚することもあり、その後に再婚もある。
獣人たちに言わせれば、それこそ犬畜生のようだと。
彼らは、結婚相手、子を作る相手を本能で探すのだという。広い広い世界、探し続けても出会えない可能性の方が高い。だからこそ、相手がいない獣人は多い。
快楽だけを求めて、番ではない相手と行為に及ぶことは人間と同じだ。しかし、最後の最後……本当の意味で達することは、番以外ではできないのだそうだ。
番ではない相手と男性獣人の行為の果てで放った精の中に、子種はない。女性獣人の中に番でない男が精を放っても、迎える子宮口は開かないらしい。
だから、獣人たちはいつも番を求めている。
その獣人たちの頂点に立つのが、竜だ。
ただでさえ少ない竜人は番への執着心が異常に強く、番がこの世にいることを感じた瞬間から、番を探し始める。
この世界に番が生まれ落ちた瞬間、または自分が性に目覚めた瞬間に、番の存在を感じ取るのだという。
獣人なのか、人間なのか分からない。
どこにいるのかもわからない。
必死で探して探して、見つからなければ、段々と壊れていく。
そんな、悲しい性を持った竜人。
ただ、人間の女性から見れば、物語の王子様のような存在だ。
実際、絵本の中でしか見たことがない人がほとんどだ。
竜人は数が少ない上に、その姿は美しく、強く、あふれる知性を持つという。もちろん、あらゆる王国が竜人とつながりを持ちたがるし、人間にとって竜人は雲の上の存在だ。
その竜人がある日突然、
「あなたこそが私の番」
そう言って舞い降りてきて、自分の手を取ったなら。
絵本の中で語られる夢物語。少女ならば、一度はうっとりと読んだことがある物語。
庶民でも貴族でも関係なく、獣人は番であれば迎えに来る。
――もしも、私が。
そう夢見るのは、若い女性ならば、一度は経験することなのだ。