家路
学校は人生の約10分の1の占めている。
校門をくぐったその時から思い出となっていくのである。
学校の昇降口に入り、靴を履き替え、大急ぎで3階へと上がる。大きな足音と共に荒い息遣いが聞こえる。
踊り場を曲がり、一番手前の教室、3年1組。
ぶっきら棒に教室の引き戸を開ける。
教室に入ると、さっきまで凍りそうだった首筋も、感覚の無かった指先も暖かくなっていた。いやむしろ暑い。
「どうしたよ美菜子、遅いじゃん」
彼女は同じ班の皐月である。名の通り5月生まれである。
ギリギリ時間には間に合ったようだ。クラスメイトはガヤガヤと友達と話している。
「あのね、はぁ、、はぁ、えっとですね、」
息があがって、話せない。美菜子は母が持たせてくれた水筒のお茶を飲む。
ホッと一息つくと、皐月が、
「もしかして、また水筒忘れたの?」
「それもあるけど、」
それだけじゃなくて、と否定しようとしたが、
「岸本さん、早くカバンをロッカーに入れてください。」
学級委員に急かされ、話が途絶えてしまった。
そのあと、HR、授業、給食、昼休み、また授業、掃除、HR、部活と目まぐるしい1日を送り、朝のことなど忘れてしまっていた。
日が落ち始め、部活終了。部室の鍵を締めるため、仲間よりも下校が遅くなる。今日は部長が熱で休んだため、副部長の美菜子が鍵を締めることとなった。副部長といっても、あくまで肩書きだが。
職員室に鍵を戻し、誰もいない校門を抜け、帰る。
十七時のチャイム「家路」が流れる。もう日は沈みかけ、辺りは暗くなり始めていた。
足取りが重たい。一人だと寂しい。いつもなら、部の仲間と一緒に、わやわや帰ってばか騒ぎしているのに。そういえば今日は登校も一人だった。
なんてしみじみ思っていると、音楽が鳴り止んだ。通りの家から焼き魚の匂いがする。遠くから車の走る音がする。
今日の晩御飯はなんだろう。