6話 なにか主人公っぽいことを、すこしワルっぽい感じで言って
今まで特に話に必要がなかったので省略していたが、物語部の部員は6人だ。つまり3年生の樋浦遊久、2年生の年野夜見と千鳥紋の各先輩3人がいて、それに1年生のおれたち3人、つまり普通がウリ(自己申告)の樋浦清と、チョイワルっぽいところが女子に人気(清の伝聞による)のおれ、立花備、そしておれのライバルで清と同じクラスの市川醍醐である。
市川は、いつも清と楽しそうに何か話していて、いつも二人は楽しそうなのだが、おれは清には昼休みと放課後にしか会えない。体育の合同授業は男女別々だし、選択授業は違う学科を取っている。醍醐くんはただの友だちだよー、と清は言うが、それだったらおれもただの友だちじゃん。
市川醍醐は高校生男子の平均身長より少し低く、エメラルドグリーンの瞳と緑の混じった黒髪を持ち、いつも冷静でシニカルで、清が敵におそわれても多分、はいはい守りますよー、って感じで守るんだろう。SOS団の主役みたいなキャラである。市川がいればむしろおれっていらなくない? ぐらいに思ってしまう。
夏休みの物語部の部室には、部員の6人全員がそろっていた。他には監督兼カメラマンであるこの物語の作者と、その他のスタッフもいた。この世界が物語であり、時々作者が出てくることについては、おれはすこし前に知ったが、作者は映画の脚本も書いて、監督もカメラマンもプロデュースもやるというマルチな人なのである。チャップリンだって自分ではカメラ回したりしないので、マルチな能力に関してはスタンリー・キューブリックぐらいですかね。あの人はまあ、元は写真家で、おれのほうがもっとうまく映画作れる、って言って監督になった人だから。
「ぼくはその、カメラマンの代理をしていたので、ぼくの代理にクマを置いていました」と、市川は言った。
映画撮影ではありがちなことである。
われわれ6人のうち、どうも誰かが物語に参加してないなー、と思ったときには、その人間がカメラを回しているか、マイクを振り回しているのだ。千鳥紋先輩は、撮影しながらでも自分ちゃんと映画の中に出られるじゃないの、と言うが、そんなことができるのは、部員の中では神に近い謎能力を持った先輩だけである。千鳥紋先輩がカメラを持つときは、どうしても納得できないんだが、先輩が二人になるんだよなあ。
「なにか主人公っぽいことを、すこしワルっぽい感じで言って」と、清はおれに無茶振りをした。
「えーと……………………お前が必要なのは、市川じゃなくて、おれだ。こんな感じ?」
「そうだね、わたしもわたしが必要なのは醍醐くんじゃなくて備じゃないかと思う」
ちょっと待った。清のその言いかただと、恋人に対してじゃなくて、医者が患者に言うみたいじゃなくない? おれのほうが、より病んでるから、みたいな。
「あ、やっぱわたしじゃなくて醍醐くんのほうが、備にはいいかも」
よかねぇよ。おまけになんであいつは「くん」づけで、おれは呼び捨てなんだよ。
「とんだ茶番だわ」と、千鳥紋先輩は、高級そうなマイ・ティーカップに入った冷やしハーブティーを舐めながら言った。熱いお茶はまだ入れられない。
「年野夜見はこわい映画の話を知っていた」と、年野夜見さんはミサカ妹みたいな感じで話しはじめた。
年野夜見さんは神ではないが、神的な第三者的視点で起こったことが語れる能力を持っている。