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物語部員の嘘とその真実(夏休みの火曜日の午後、物語部員が巻き込まれた惨劇について)  作者: るきのまき
午後2時30分~40分 冷蔵庫の中で見つかったものについて考える
44/72

44話 真・遊久先輩の世界では、コスプレで登校してもいいんですか?

「この、ぐるぐる回る模様みたいなのがある盾はいいな。それに確かにこの防具も見かけほど重くない」と、樋浦遊久ひうらゆく先輩(首)は、体を動かし、30センチほどの円形の盾を左手に、ふれあいルーム掃除用の箒右手に持ってポーズを取った。

 樋浦遊久ひうらゆく先輩(首)は、首から下が真・物語部の真・遊久のもの、つまり男子のものであることをあまり気にすることはなかった。どうせ日が暮れたら元の体に戻るんだろう、と、そこのところは、首から下が遊久先輩の、真・遊久先輩(首)と同意見だった。

「その盾は、もっとおしゃれになるんだ、こうやって両手で持って、ぎゅっと縮める感じでやると、直径10センチぐらいになるから、ほら、マジックキラキラ・ブレスレット」

 真・遊久先輩(首)はすばやく盾を受け取り、ブレスレットに変えて遊久先輩(体)の左手につけ、右手でおしゃれスカートの裾を持ち、左手の3本を左目に近づけて開いて、「キラッ☆」のポーズをした。

 この盾は何か、アイドルアニメのファッションコーデのアイテムだったのか。

「なるほど!」と、遊久先輩(首)は感心した。

「立花の俺に対する、どうも忌まわしい忍び寄る混沌のような視線の意味がわかったよ。いくらネコ可愛い、すりすりしたいなあ、って思ってても、自分がネコだったらすりすりできない」

 真・遊久ひうらゆく先輩(首)は、邪悪な爛れた旧神像のような目で、真・遊久先輩(首)が誘惑の様々なポーズをするのに見とれていた。おれを含む5人、つまり物語部の顧問で神であるヤマダ、元物語部のルーちゃん(ルージュ・ブラン)先輩、物語部サポーターの松川志展まつかわしのぶ関谷久志せきやこころざし、そしておれ、は、感心して見ていた。

 真・遊久先輩(首)は、トラのポーズからヘビ、ツル、カマキリと、マスターファイブの4つのポーズをやって、最後のサルのポーズでは、ノミ取りの細かな芸までつけてくれた。ああ、何をやっても可愛いなあ、遊久先輩(体)は。

「というふうに、日頃から訓練は怠っていない。もともと、真・物語部の戦闘服は、魔法少女をイメージしたもので、実用性よりも見た目を重視している」と、真・遊久先輩(首)は言った。

「よく見るとこの、どこか性差を感じさせないところのあるコスプレも悪くないか」と、遊久先輩(首)は、真・遊久先輩(体)の手足を見ながら言った。

「あの、真・遊久先輩の世界では、コスプレで登校してもいいんですか?」と、松川は真・遊久先輩(首)に聞いた。

 どうせおれに聞いてもわからないだろう、と思ったんだろうし、それはそのとおりだ。真・世界(仮)の中の設定はどうなっているか不明だし、今のところ物語にはあまり関係がない。

「俺たちの学校は制服がないから、何を着て行ってもいい」と、遊久先輩(首)は言った。

 おれたちの学校と同じである。ただし水着と浴衣は禁止。全裸で学校に来る人間は、日本国民で日本の国旗を燃やす人間が想定できないから犯罪設定がないのと同じように、想定できないから校則の別項にも禁止とは書いてない。そもそも全裸は何かを着ている状態ではないし、学校にたどり着く前に逮捕されている。逮捕じゃなくて身柄確保か。

「じゃあ、ビキニアーマーは?」と、おれは聞いてみた。

「一応水着に準ずるものだから禁止だ。真・市川醍醐はしょうがないので、露出度が少ない女子レスリングみたいな格好とマントだけど、いくら格好よくても、ほら」と、真・遊久先輩(首)は遊久先輩(体)の足元を指差した。

「学校指定の上履きだろ。縁が学年によって違う例の奴。これ履くと、服がおしゃれなほど格好悪くなるんだ。だから俺たちは、学校では普段ジャージでいることが多くなって、もう夏休みの前ぐらいには一年生の半分ぐらいが最初からジャージで登校してる」

 そこらへんはおれたちと同じだな。

 その時、ゆとりルームの廊下側、特別校舎の北側、校庭がある方角から、強い光が放たれるのをおれたちは感じた。それはまるで数百メートルの上空に新しい太陽が生まれたような光だった。

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