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物語部員の嘘とその真実(夏休みの火曜日の午後、物語部員が巻き込まれた惨劇について)  作者: るきのまき
午後2時30分~40分 冷蔵庫の中で見つかったものについて考える
43/72

43話 どうせ幻の野武士による幻の傷だからたいしたことないんだけど

 校庭の泥水は徐々に少なくなりつつあり、豪雨も振り続けてはいたがその強弱がはっきりしてきて、ときおりさほど強くないような雨に変わった。真・物語部の剣士である真・年野夜見は、治癒能力を持つ真・立花備とともにその泥水の上を、靴が泥だらけになるのも厭わず、半透明のレインコートを戦闘服の上に羽織って歩いた。

 真・年野夜見は周囲に気をつけながら慎重に進み、真・立花備はそのあとを、すこし楽しそうにおもむろに進んだ。ふたりの先には、この世界の、ほぼ死んでいる年野夜見と、それを抱きかかえてふたりを待っている千鳥紋がいた。

 真・立花備が歩いたあとは、濃い茶色の泥水が浄化されてつかのま透明の水になり、細い線を形作ったが、じきに消えた。

     *

 図書館を出た真・物語部の残りの者、真・千鳥紋、真・市川醍醐、真・樋浦清は、薄闇の中の影のように廊下を歩き、物語部の前を通り過ぎ、階段を降りて下の階に向かった。弓の使い手である真・樋浦清が、すこしやってみたいことあるんで、と言ったので、残りのふたりはひとりで残るのも、ひとりで行かせるのも嫌だったからそれを見守ることにしたのだった。

 新校舎と特別校舎をつないでいる通廊の、吹きさらしの屋上は新校舎の3階につながっている。真・樋浦清は、どれにしようかな、と7本の中から1本を選んだ矢を持って、半透明のレインコートを射手の魔法少女っぽい服の上に着て屋上に立ち、天空に向けてその矢を放った。

     *

 天使のようなものだった年野夜見は、学校の上空数百メートルから、校庭のふたりと、そこに向かっているふたりを見ていた。真・樋浦清の矢は背後から当たった。一瞬、年野夜見は何が起こったのかわからなかったが、背中から胸の前に抜ける黒い矢の矢じりをさわり、それが貫いている胸から闇のかたまりが広がるのを感じた。それは十分に黒く、十分に冷たかったので、ほぼ天使の年野夜見は痛みを感じることもなく、数十メートルほどの大きさに広がる無数の光の粒となり、その中心部の、数メートルほどの黒い塊は下に、雨粒とほぼ同じ早さで落ちるとともに黒い霧となって、ちょうど千鳥紋たちのところへたどり着いた真・年野夜見のところに降りそそいだ。ほぼ天使だった年野夜見は、ほぼ死んでいた年野夜見と一体化した。

 闇を払う一助にならないか、と思って矢を放った真・樋浦清は、それを見て適切な発言をした。

「た、た~まや~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」

 その光に気がついた、ふれあいルームにいた立花備たちは廊下に出て、やはり物語部の部室にいて気がついて廊下に出た市川醍醐たちと顔を会わせることになった。

     *

 真・立花備は、手のひらを軽く、薄黄色に輝いている年野夜見の背中の傷口に当てた。

「傷口からの出血は、どうせ幻の野武士による幻の傷だからたいしたことないんだけど、おれにはどうも完全にこの傷をふさぐ力はないみたいだ。物語部に連れてって、万能の神・ヤマダに見てもらうしかないな」と、真・立花備は言って、年野夜見を背負った。

「おれの、偽っぽい治癒能力より、真っぽい体力のほうが役に立ちそうだ」

 ほぼ死んでいた年野夜見は、ほぼ意識を失っている年野夜見となったが、その第三者視点で語る能力は失われなかった。

 真・年野夜見は、雨の中で消耗した千鳥紋に肩を貸して、真・立花備のあとに続いた。

 ここから30秒ぐらいは、もうローアングルで撮影して泥だらけになる複数のカメラマン、カメラのレンズが濡れないよう気をつける助手、適当な手ブレ感を出しながらも見ながらめまいがするほどにはならないカメラ補佐、全部見たら30分ぐらいの長さのものを退屈しないように、なおかつ進む方向が安定するようにまとめる編集、うまいこと映像にデジタルで音楽をつける音響、などなど、いろいろ大変なのである。

 脚本では、「泥水の中を移動する4人。雨は絶え間なく降り続いている」と書いてあるだけなのに。

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