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物語部員の嘘とその真実(夏休みの火曜日の午後、物語部員が巻き込まれた惨劇について)  作者: るきのまき
午後2時30分~40分 冷蔵庫の中で見つかったものについて考える
41/72

41話 どうしてお前が負けたか教えてあげよう

 真・物語部の真・樋浦遊久先輩と、おれたちの物語部の樋浦遊久先輩の、首と胴体は一度切り離されて、別々の首と胴体になった。

 真・遊久先輩(首)は、遊久先輩の残念な胴体とかわいい服で、物語部と同じ階にあるふれあいルームの机の上に横たわって目覚める気配のない遊久先輩(首)&真・遊久先輩(体)を見ている。真・遊久先輩(体)は軽装ながら騎士を思わせるコスプレをしていて、遊久先輩(首)は幸せそうな夢を見ているような顔だった。おおかた自分は大正時代の洋食屋の娘、みたいな夢だろう。そしてその頭の側には、直径30センチほどの円形の、魔法防御力の高そうな盾が置かれていた。横たわっている体と首が繋がっている部分には、真・遊久先輩(首)と遊久先輩(体)には赤い輪があったように、青い輪があった。

 そこには他に、おれを含む5人、物語部の顧問で神であるヤマダ、元物語部のルーちゃん(ルージュ・ブラン)先輩、物語部サポーターの松川志展まつかわしのぶ関谷久志せきやこころざしがいて、誰が眠り姫の遊久先輩(首)を目覚めさせるか、要するにキスしてみるか、で、醜い争いがあった。

 というのは嘘です。

 松川は、演技だったらともかく、女の子同士ではちょっと、と言って降り、関谷はまだキスシーンとかベッドシーンの演技の練習してないから自信がない、と言って降り、ヤマダは教師と生徒のキスはいろいろ問題あるから、と言って降りた。

 ルーちゃん先輩は、我は女同士でも厭わぬ、絶対キスするでござる、と言いはったが、多分王子様じゃないと目覚めないだろうと言ってあきらめさせたので、結局、おれと真・遊久先輩(首)との正々堂々たる勝負になった。拳で殴り合うのではなく印形で争う、要するにただのジャンケンである。

 卑怯なことに真・遊久先輩(首)は、俺はグーを出すぞ、と宣言した。

 グーを出すと言っている人間に勝つには、パーを出せば勝てるのだが、おれがパーを出すと思っている人間にはチョキを出されて負ける。だからチョキを出されても勝てるようにするにはグーを出せばいい。グーなら相手がグーでも引き分けで済む。

 おれはグーを出し、真・遊久先輩(首)はパーを出して勝った。

「どうしてお前が負けたか教えてあげよう。それは………………お前が弱いからだ。………………いやそこで真剣に悩まなくてもいいから。俺が勝ったのは、お前がチョキを出さないだろうという確信があったからだ」と、真・遊久先輩(首)は言った。

 確かにねえ、相手がグーを出すと言っている人間がパーを出すとおれが思うには、おれがグーを出すと思っていると相手が思っているとおれが思わないとだめだ。次はもっとジャンケン道を研究しよう。グーで殴る、パーで叩く、チョキで(目を)つぶす。

 真・遊久先輩(首)の、遊久先輩(首)に対するキスは濃厚で、見ていて恥ずかしくなるぐらい続いたが、これでは眠り姫に対する王子様のキスじゃなくて、お姫様の眠り騎士に対するキスじゃん、だったらルーちゃん先輩でもよかったじゃん、あーもう、早送りしたい、と退屈しはじめた頃に、遊久先輩(首)がおもむろに目を覚ました。

 真・遊久先輩(首)の顔は驚愕で目が大きく開かれたように見え、その唇は遊久先輩(首)の唇からあわてたように離れ、ふれあいルームの片隅にうずくまり、両手をついてえずいた。

 その口からは、大きさは数センチほどのアオガエルが飛び出し、おれたちが固まって立ちすくんでいる間に、なんのひねりもなくふれあいルームの床を、普通のカエルとなんら見分けがつかない動きで跳躍しながら、目の前から消えてしまった。

 なるほど、おれたちの遊久先輩(首)が目覚めなかったのはカエルのせいだったんだな。

「え、あれ? 何これ? ここはどこでどうなってるのだ? なんで俺、こんな格好してるの?」と、遊久先輩(首)は目覚めると普通に驚くというアクションをしてくれた。

 ついでに、机の上から降りようとして、いささか派手にすっ転んだ。

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