40話 なにすんだよ、セーブポイントが消えちゃったじゃないか
物語部と同じ階にあるふれあいルームの照明はLEDではなく蛍光灯で、そのためほかの教室よりやや青さが薄い照明の下、真・物語部の真・樋浦遊久先輩の体(多分)と、おれたちの物語部の遊久先輩の首(多分)はつながっていて、ふれあいルームの最初のテーブルの上に横たわっていた。
テーブルは、普通の教室の机を4つ、うまいこと組み合わせたもので、通常の並べ方だと横1メートル縦1.4メートルで、ふたりずつが向かい合って座れるようになっているところを、横70センチ縦2メートルという、ふたりしか座れないような配置になっていて、花柄の安っぽいテーブルクロスは上下がやや足りないような感じでかけられており、遊久先輩(首)はいつもソファで寝ているような感じの寝顔で、真・遊久先輩(体)は、なんというか、文化祭のイベントでコスプレとして騎士をやるみたいな格好をしていた。軽装備のアーサー王(ただし本場じゃなくて日本が起源のほう)という感じですかね。そしてその頭側には七色に色を変える円形の、ぐるぐる回るデジタルの魔法陣的な意匠の、直径30センチほどの盾が置かれていた。
おれはその盾の実在がどうもうさん臭かったので、つけられていた照明を一度消してみた。暗くなったふれあいルームで、その盾とその上の文字(多分それがたやすく読めるのは、物語部の千鳥紋先輩ぐらいなもんだろう)のは一層強い光を放った。
おれが電気をつけると、物語部の顧問で神でもあるヤマダに怒られた。
「なにすんだよ、セーブポイントが消えちゃったじゃないか」
「すみません、ちょっとその意味がわからないんですけど」と、おれは言った。
「だから言っといただろ、スイッチをつけたり消したりしろって。つまり、明かりを消すとそこがセーブポイントで、その段階でぼくに、つまり神に「なんとかしてください」って祈ったり、携帯端末で連絡してくれたら、ぼくが時間を巻き戻ししてやりなおせるんだ。上書き保存した場合は、それができなくなる。つまり、ついた明かりを消したら、その時点でぼくに祈れよ」
聞いてねーよ。なんだよその簡単そうでややこしい修復の儀式は。パソコンのOSだってもう少しましな修復ができそうなもんだ。
「まあ、最後の手段として、初期設定に戻す、ってのはあるけどね。つまり、生まれたときに息を吸い込むと、それがヒトのスイッチ入った最初のときで、おぎゃー、って息を吐き出すとそこがヒトの最初のセーブポイントになる」
「さすがにそこからやり直すのは大変すぎるので遠慮します。修復ソフトとかないんですか」
「ない。まあでも大丈夫だ。実はこの学校内にも唯一、つけたり消したりされてて、今はつけっぱなし状態のところがある。物語部の部室な」
「なーんだ、じゃおれたちいくら学校内で死んでもやり直せるじゃないですか」
そう言ったおれの言葉で、ふれあいルームにいたヤマダとほかの4人は、それぞれの笑いかたで笑った。おれとヤマダ、真・遊久(首)先輩、それに元物語部員で美少女名探偵のルーちゃん(ルージュ・ブラン)先輩は普通に、物語部サポーターの松川志展と関谷久志はややぎごちなく。
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「この盾は、バイキングの盾を模していて、描かれている文字はルーン文字だな。読めないけど軍神テュールを称える語が刻まれているんだろう」と、おれは、もしこの話がアニメだったら、作画の人に苦労させるな、と思いながら言った。
「えーっ! そうなんですか! 備くんってなんでも知ってるんですね!」と、松川は接待がうまい夜の商売の女性みたいな感じで言った。オヤジが若い子に説明するのって確かに楽しいよな。オヤジじゃないけど。
「ちなみに、樋浦、ヒューラってのはスウェーデン語で「4」、遊久、ユクシはフィンランド語で「1」、清、セクスはノルウェー語で「6」なんだよ」
「すごいですね! でもスウェーデン語・ノルウェー語はゲルマン語派で、フィンランド語はウラル語族フィン・ウゴル語派なんですよね。なんで混ぜてるんですか!」
感嘆符で疑問符みたいな聞き方をしないで欲しい。
「それはともかく、この眠り姫を目覚めさせなければ」と、真・遊久先輩は言った。
眠り姫というより眠り王子かな。あるいは眠り騎士。




