24話 何人ぐらい物語部員殺す予定なんですか
(体型はごく普通の読者サービスキャラである)ルーちゃん先輩、真のルージュ・ブランさんは連続殺人犯が逃走の際に後ろから背中を刺して殺し、その服を奪って偽のルーちゃん先輩になった。連続殺人犯の仲間である偽のヤマダは、偽のルーちゃん先輩の逃走を手助けし、嘘を言うことにした、と、おれは松川志展に説明を続けた。カッコの中は、おれがそう思っただけで口に出しては言ってない。
「本当のルーちゃん先輩とヤマダは、どうやって偽者より先に来れたんですか? 犯人の動機と目的は? 最初に誰が殺されるの?」と、松川は、ミステリー読者の素人か出版社の編集者なみの適切な質問を矢継ぎ早にした。
「いいんだよそこらへんは! おれはつじつま合わせばかりしているミステリーとかライトノベルが嫌いなんだ」と、おれは答えた。
「確かにそういう話は多いけどね。それはともかく、ぼくが発見したとき、実はルージュ・ブランは死んでいた。何者かに背中を刺された状態で、上半身はブラウス姿、下半身は一部泥水に浸かって、半ば水没した車の助手席に横たわっていたんだ」と、ヤマダは言った。
「ぼくは、ルージュ・ブランを生き返らせ、傷の治療をして、血で汚れていない上着を着せた。そのときはルージュ・ブランは、連続殺人犯は顔を隠してはいたが女性だった、と言った。ぼくの治療は、そのときはなぜか完全に治りきらなかったので、背中を確認すれば傷跡があるはずだ」
それではさっそく、と、読者サービスっぷりが素晴らしいルーちゃん先輩は服のボタンを外しはじめた。
おれたち男子はあわて、樋浦清には、まるでおれが悪いみたいな感じでにらんで、というよりむしろ小馬鹿にしたような感じで目を細めて、ジェリコの壁(という名前のカーテンの仕切り)の女子ゾーンにルーちゃん先輩を連れていった。
わー、すべすべですー、じんるいのしんぽとちょうわ、おきゃくさんだいぶこってますな、と、女子たちは妖精さんみたいな感じでルーちゃん先輩を弄びはじめ、おれは特にすることがないので作者と今後の展開について話をしながら待つことにした。
*
「何人ぐらい物語部員殺す予定なんですか」
「4人かな」
「犯人とおれ除いてみんな?」
「死んでもヤマダが生き返らせてくれるから大丈夫だよ。あと、きみが犯人でも、途中で殺されても問題ないんじゃないの? そういうミステリー、たくさんあるから」
「殺しかたは考えてあるんでしょうか」
「うん、みんながちゃんと考えてくれてただろ」
「えっ、あれ伏線なの?」
「伏線というより、あれを元にこれから何とかするんだ。毎日、書きながら考えるの大変だぞ。2000字ぐらい書くのは2時間もかからないんだけど、その倍とか3倍とか、みんなよくできるな」
「描写を細かくしたり、心情をあれこれ入れたり、普通の人はやってますよね」
「自分もやってみたことあるんだけど、どうもうまくいかないんだよね。普通だけど可愛く見えるおしゃれ服、ぐらいで、読み手の想像にまかせていいじゃんそんなの、とか思う」
「そうですね、シアーチェックワンピースとか、フラワーサッシュスカートとか入れても、男性読者にはわかんないし、ファッションなんて時代にすぐに負けてしまう」
とかなんとか言ってるうちに、白衣のコスプレをした樋浦遊久先輩が、ジェリコの壁をくぐって男子とヤマダの前に出てきた。
「手術は成功だ。じゃなくて、背中の傷は確認したよ、ヤマダ」と、遊久先輩は言った。
「それから、なんで傷が塞がらなかったのかもわかった。これが傷口にあったんだ」
遊久先輩は、手を開いておれたちに、小さくて黒くてすこし平たい、闇のかけらのようなものを見せた。
「これは………………」と、関谷久志は首をかしげた。
「これは………………」と、おれは言いかけた言葉を引っ込めた。
「これは………………スイカのタネですね」と、市川醍醐は容赦なく言った。
「デモンシードだ」と、ヤマダは容赦なく中二病的設定を盛り込んだ。




