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物語部員の嘘とその真実(夏休みの火曜日の午後、物語部員が巻き込まれた惨劇について)  作者: るきのまき
午後2時~2時10分 護送移動中の連続殺人鬼が逃げ出した、と、顧問のヤマダは言う
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21話 ………………やっぱ誰かが死ぬんだ………………

「わたしがこわいのは、人の心かな」と、以前おれが聞いたとき、樋浦清ひうらせいは言った。

「昔好きだった人が、どうして好きだったんだろう、って気になったり、なんでこの人はわたしを嫌いなんだろう、わたしのどこが好きなんだろう、とか思ったり………あなたなんて、好きになるんじゃなかった!」

「うーん、それで別に悪くないんだけど、あたしだったら、『あんたなんてっ………好きに………なるんじゃ、なかったっ!』って感じで」と、松川志展まつかわしのぶは言った。

 でもそれ、ちょっと演技がクドくなってない? アニメだったらいいんだけど、実際にそんなのやったら引くわー。

     *

「護送移動中の連続殺人鬼が逃げ出した」と、ヤマダは言った。

「いや、鬼じゃなくてヒトだから、連続殺人人? 連続殺人犯? 連続殺人容疑者?」と、信じられないことにヤマダが自信のないことを言っている。全知全能の神のはずなのに。

「だいたい想像はついていると思うが、昼前、校庭のスピーカーが壊れたときに、ぼくの神機能の一部が失われ、停電によってほぼすべて失われた。現在は、この上の照明と同じく、非常用電源みたいなもので動いてるところなんだ。神はモナド的に存在するので、通常は結末を知っている。しかし今の状態ではみんなに、どういう結末なのか教えることができない。結末が変わっちゃうかもしれないからね」

「そ、そ、それはヒントとかもダメなんですか?」と、おれは聞いた。

「そうだな。誰が死ぬとかは教えられない」

 ヒント教えてるやん。

「………………やっぱ誰かが死ぬんだ………………」と、松川志展まつかわしのぶは顔にブルーの縦線が入ったような感じで暗くなった。

「通常は、なかったことにもできるんだけど、今の状況では一度死んでもらうことになる。どこかでセーブしておけば、そこからやり直しは可能だ。セーブポイントは、各教室の明かりのスイッチ。みんな頑張って殺人鬼を見つけてクリアしてくれ」と、ヤマダは言った。

 そしてヤマダは、おれたちに携帯端末の画像を見せながら説明した。

     *

 学校の近くの川、夏草が生い茂った土手に、その車は半ば水没した形で放置されているように見えた。後部座席のドアは半開きで、車内は水浸しだった。川の上流が氾濫してからは、下流の川に流れる水は減ったが、その前のことで、完全にドアが閉じた車だったら、浮かんでもっと流されていただろう。車の外側の泥は土砂降りの雨で流され、雷で照らされたその車体は黒と白に塗り分けられていた。

 ぼくと、学校に残っていた数名の他の教師は、校内・校外で残っている生徒、あるいは一般市民がいたら避難するよう知らせているときだった。ぼくは校外のすこし先、土手の近くまで行ってみた。金色と白の稲光、大地に轟く稲妻、そして黒に近い灰色のスーパーセルの雲の下で見える風景は、美術館で勝手にフラッシュ撮影されている水墨画のようだった。

 いつもとすこし、この体の調子がヒトっぽくなってて危ないな、と思いながらも、ぼくは誰もいないのか、懐中電灯とレインコートで確認を続けた。

 断続的に鳴っているクラクションの音を耳にしたのはそのときだった。それは連続的に続いたとしたら、ぼくはきっと氾濫警報のサイレンかと勘違いしたかもしれない、と、そこでぼくは気がついた。自分がその音の原因を、そして結局このあとどうなるかを知っている全知全能の神としての力を失っている、それも失っていることに気がつかせない、なにか自分以上の力と、底知れない悪意を持った存在に。

 ルージュ・ブランは助手席にいて、意識を失っていた。ぼくはその子が誰であるかがわかる程度の力が残っていることも知った。ルージュは、もうひとりの私服刑事と一緒に、フランスと日本で連続殺人を犯し、死刑の判決が出た男を、再審のために刑務所から裁判所へ運ぶ途中だった、と言った。そして、その男には顔がなかった。

     *

「当局の決まりとかでな。黒い、顔全体を隠すマスクがかけられていた。我の場合は日本語ができるということで、日本の刑務所へ護送する凶悪犯のつきそいとして、夏休みのボランティアに応じた次第だ」と、ルーちゃん先輩は言った。

 車を運転していた刑事は、立ち往生した車の後部座席から脱出した死刑囚(暫定)を追って、嵐の中を出たきり戻ってこなかった、とも言った。

 ルーちゃん先輩というかルージュ・ブラン先輩と樋浦遊久ひうらゆく先輩の共通点は、下に妹がいる、要するにお姉さんだ、ということらしい。ルーちゃん先輩の妹は美人で、遊久先輩の妹(つまり樋浦清ひうらせい)は普通である。ルーちゃん先輩の実家はフランス貴族で大金持ちだが(フランスが王政復古したら王位継承権○番目ぐらいなので、王様になれる程度の家柄)、遊久先輩と清の家は普通の日本人ぐらいの資産である。

 ルーちゃん先輩が名探偵、というか、国家資格試験を取得した未成年私立探偵であることは説明してくれた。その後大学に行って所定の学科を講習し、何年かの見習い期間を経て、正規の私立探偵許可証が発行される、とのことである。見習い期間に関しては、未成年時代にある程度何かをすれば短縮される。死刑執行の見届人とか、ゴミを荒らす近所のカラス退治とか。

 本当にそんな制度があると誤解する人はまずいないだろうが、そこらへんは嘘です。

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