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物語部員の嘘とその真実(夏休みの火曜日の午後、物語部員が巻き込まれた惨劇について)  作者: るきのまき
午後1時30分~40分 こわい話をする物語部員たち
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2話 ぼくが世界を作ったときも、最初は混沌だったなあ

 物語部員の部活動は物語を作ることで、それは小説を書くとか映画を作るという行為と似ており、創作するとはすこし違う。作られた物語は、物語の中の物語ではなく、創造物として扱われる、と、顧問のヤマダは言う。短編において重要なのは新鮮なアイデア・完璧なプロット・意外な結末だが、おれたちの物語はありふれたアイデア、いい加減なプロット、曖昧な結末であることが重要だ(これも、力強い断定ではなく「だと思う」という曖昧な表現のほうがいいかもしれない)。

「ぼくが世界を作ったときも、最初は混沌だったなあ」と、物語部の顧問で創造神であるヤマダは言う。

 ヤマダは、ヒト(日本人)の世界では山田洋司やまだようじという名と、銀髪プラチナブロンドですみれ色の瞳を持ち、自分を「ぼく」と言っておれたちを「君たち」と言う。どうやって教師の資格を取ったのかというと、ちゃんと日本の大学に行った、とのことである。教える科目は国語で、3年生に担任のクラスがあって、進路指導のサポートもしている。マイクロバスを含む運転免許証も持っていて、そこには生年月日も、30代前半ぐらいの設定で明記されている。ヤマダが創造神だというのは、物語部員とそのOB以外には知られていない。定期的な高校の異動にはどう対処しているかというと、ぼくが異動すると次のヤマダが来るだけだ、と言う。

 ヤマダは創造神なので、友も仲間もいない。いるのは敵(他の創造神)と部下(天使)と創造物(ヒトその他)だけである。まあ、複数で世界を作る神もいないことはないんだけど、たいていどこかで喧嘩別れしちゃうんだよなー、だそうだ。物語部員はまだヒトなので、みなそれぞれに仲がいいし、仲間だと思っている(すくなくともおれ自身は)。確かに、物語ってみんなで書こうと思ってもうまくいかないことは確かである。自分が寝ている間に話の続きを書いてくれる相棒がいるととても楽でいいんだけど、複数で物語を作って成功して長続きしている人って、エラリー・クイーン(作家)とかファレリー兄弟(映画監督)ぐらいですかね。

 物語部の先輩は3年生の樋浦遊久ひうらゆく、2年生の年野夜見としのよみ千鳥紋ちどりもんの3人がいて、1年生のおれたち3人を含めて6人の弱小部である。先輩の話によると、部員は6人以上にも以下にもなったことがないらしい。部員ではないがサポートメンバーは各学年にいて、その人たちは元物語部員だったり、部員の友だちだったりする。

 樋浦さん(遊久先輩)は、夏休みが終わるまでの部長で、おれと同じ一年生の樋浦清ひうらせいの姉であり、どことなく怠惰な猫を思わせる、可愛いというより可愛らしい容姿をしていて、おれは姉のことを遊久先輩、妹のことを清と名前のほうで呼んでいる。遊久先輩はいつも通り、妹のお下がりの、アニメのヒロインみたいな可愛らしい服を着て、部室のソファに横になって、分厚い明治時代の作家の本を、ラノベでも読んでいるような勢いで読んでいる。

 夏休みが終わると年野夜見さんが部長になる。清は備えつけの部室の冷蔵庫から水出しハーブティーを取り出してメンバーのみんなのマイカップに勝手に入れて、メンバーの近くの机の上に置いている。うちの高校は制服がないから何を着ていってもかまわないため、清はだいたいアニメのモブキャラみたいなどうでもいい服を着ている。今は夏なので薄い赤のポロシャツの、袖のところがどこかのコンビニのカラーみたいなボーダーになってる奴に、下は膝丈ぐらいの淡い色のスカートとか、そんな感じ。

 前におれの趣味は読書と映画鑑賞って言ったけど、それは嘘です。本当はほぼラノベとアニメだ。でも読むのはそんなに早くない。1時間で120ページ、2時間半ぐらいで1冊かな。遊久先輩は、そんなの30分で読めよ、飛ばして読みゃいいんだ、と言うけど、なかなかそういった本ばかりじゃないだろう。軍事用語が気になるのとか、登場人物の名前がこんがらがるのとか、情景や食い物の描写・表現がうまくて飛ばし読みできないのとか、いろいろあるのである。遊久先輩は、徳富蘆花が半年かけて新聞連載として執筆した『不如帰』を2時間ぐらいで読んでしまう人だ。あれは細部を楽しみながら読むもんだと思ってたけど、そんなのは何度でも読めばいい、と言う。

 おれたち物語部員は、夏休みが終わるまでに各人がひとつ物語を作って、それを文化祭までに本にして売るということになっている。おれが作る物語はホラー小説の予定だ。

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