表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/72

15話 いっそのこと、みんなで備くんを殺すというのはどうでしょう

「犯人は、関谷、そして志展のふたりだ」と、おれは関谷久志せきやひさし松川志展まつかわしのぶを順番に指差した。

「関谷は被害者をそこにある木刀で撲殺し、志展は死んだ時間をごまかすために、その物真似をする。『もらった干物は………干物箱の中に入ってます』みたいな感じでな。ここで肝心なのは、共犯者がお互い仲が悪かった、ということを関係者に示しておいて、いくら何でも共犯はあり得ない、だろうと思わせる………」

「ちょっと待った」と、関谷は口をはさんだ。

「俺と松川は普通に仲がいいぞ」

「そうですよ。あたしが関谷さんと仲良しで、物真似がうまいっての、関係者に示されてますから、関谷さんが人を殺したら、あたしが共犯者だって普通に思います」

「言われてみると。じゃあ関谷と仲が悪いのは………」

「お前だな、立花備たちばなそなえ。しかし裏で共犯者になるほど仲良くなってたりしない。共通の利害関係があるわけではない。むしろ俺がお前を、バレることがないような方法があったら殺してもいいぐらいなもんだ」と、関谷は言った。

「えー? でも殺す動機なんかあるの?」

「俺は市川の友だちで、市川はお前の敵だから、友だちの敵は敵だ」と、関谷は市川醍醐いちかわだいごのほうを見て言った。

「いや、別にぼくは備くんを敵だとか思ってませんよ。備くんのほうはどう思っているか知りませんが」

 おれは市川を敵だと思っている。でも殺すほどではない。そんなに簡単に人は人を殺さないよね普通。そりゃ遺産相続とか恋愛関係のもつれとか、物語の中ではいろいろあるけど、ミステリーでなければせいぜい闇落ちするぐらいで………。

「『力が欲しいか………』と、年野夜見は言った」

 子供向けの魔法少女ものだとけっこうあるんだろうけど、正義を愛する力には勝てない。

「いっそのこと、みんなで備くんを殺すというのはどうでしょう」と、志展は提案し、千鳥紋先輩は、すこしぬるくなった渋いお茶を飲みながら首を縦に振って同意した。

 熱いお茶は、おれがトイレに行っている間に淹れられたのである。

     *

 叙述的な嘘、書いてあることに嘘はないが、書いてないこともある、という新聞の報道的な嘘が、実はいくつかある。樋浦遊久ひうらゆく先輩の可愛らしさとか、市川醍醐の邪悪さとかは、何十行費やしても個人的にはいいのだが、直接的に今のところ語る必要がないので省略している。

 ところで、たいていの戦記において、兵站、つまり食料と武器の後方支援については重要性が語られるが、出たもの、つまり排泄物に関してはあまり語られることはない。要するにうんこですね。うんこ、うんこ、うんこ。幼稚園児だな。あと、おっぱい。これは話に関係ないけど、ちょっと言ってみただけ。

 なぜ語られないかというと、餓死・凍死する兵士はいるが、うんこで死んだ兵士はいないことになっているからだ。

 もう、関ヶ原の戦いなんてすごいですよ。20万人のうんこ。みんな合戦の前にうんこしてから敵陣に行く。行ってみるとうんこで滑って槍で殺される。島津軍なんて、うんこ投げつけながら逃げたらしいですよ(ここらへんは適当)。でも会津若松の鶴ケ城は、籠城戦の際にうんこの始末で困って降伏したらしい。

 要するに、お茶を飲むと出さなければならないし、使ったカップは洗わないといけない、そしてお茶会をやる程度のゆるい部活をするためには、トイレと、カップを洗うための水飲み兼洗い場が必要だ、ということだ。そして、物語部のある建物の階には、トイレはあるがカップの洗い場がない。

 夏休みになる前は、下の階の調理室に洗い場があって、お茶を飲んだりケーキを食べたりしたあとは、勝手に、じゃなくて一応ことわって使わせてもらった。おれたちのカップは安物だが、千鳥紋先輩のものは何千円もする(さすがに何万円というほどではない)もので、私のものは自分で洗うわ、と先輩は言い、それ以外のカップは1年生のおれたち3人(市川・おれ・清)が順番でみんなの分をまとめて洗っていた。休みになって調理室がうまいこと使えないようになったので(学校内で、手を洗うところはいくらでもあるけど、食器を洗えるところってそんなにないんだよね)、おれは紙コップを使うことにした。

 100均で50個買えて、飲み終えたらゴミ箱(それは部室内にある)に捨てればいいし、飲み物が残ったら窓から捨てれば、というのはまずいんで、残らないように飲めばいい。

 これはいい、ということで、夏休みの間は、物語部の全員がそうすることになった。

 問題は、残りの量がすくなくなると扇風機の風で紙コップが倒れてしまう点で、それはみんなが休みの前から使っていたマイ・カップに紙コップを入れることで解決した(カップとコップの違いって、持つところのある・なしっていうのは本当なんですかね)。

 つまり、樋浦清ひうらせいは冷やしハーブティーを、尿検査か罰ゲームみたいな感じで、各人のマイ・カップの中の紙コップに注ぎ、千鳥紋先輩は罰ゲームみたいに飲み干して、別の紙コップに熱くて渋いお茶を淹れてもらった。

 ぷぷっ、何という羞恥プレイ、と、おれが内心で笑うためにここで説明を入れたのではなく、一応その意味についても語っておきたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ