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物語部員の嘘とその真実(夏休みの火曜日の午後、物語部員が巻き込まれた惨劇について)  作者: るきのまき
午後1時40分~50分 物語部のサポートメンバーふたりが参加する

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13/72

13話 短歌はこわくなくて俳句はこわいと思うんだよね

「すこし時間調整・確認をしよう」とおれは言った。

「どうやんのよ」と、樋浦清ひうらせいは聞いた。

「あー、あれですね、三人の仲間、スリー・アミーゴスの歌」と、市川醍醐いちかわだいごはすぐに察した。

 映画『サボテン・ブラザース』の中の曲である。

 まず、アミーゴ・サルーテね。

 右手を左胸に、それに交差させて左手を右胸に当てる。

 次に、両手を腰に当てて、左を向いて「ハッ」と言う。

 で、踊りながらフォーメーション・チェンジ。

 そして歌う。


ぼくら三人仲間

ぼくら三人仲間

ぼくら三人な~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~かまっ!


 よし、うまいこと映画の通り、15秒伸ばせた。ちゃんとおれたち自身が感じている実際の時間と、この物語の読み手との時間とはシンクロしてる。

     *

「短歌はこわくなくて俳句はこわいと思うんだよね」と、樋浦遊久ひうらゆく先輩は、先輩がいつもゴロゴロしているソファの上に座って、物語部の部室の窓際にいつも置いてあった観賞用のサボテン(別名「そんなことはどうでもいいから、とっとと話を進めろサボテン」)を両手で持って、それを膝の上に置いて話しはじめた。

 このサボテンを手にすると、話がなかなか先に進まなくなる呪いにかけられる。

「てやんでえ、何言ってやんでえ、べらぼうめ、って奴?」と、おれは言った。

「それは啖呵」

「マラッカ海峡を越えて行く…」

「それはタンカー」

「けが人を運ぶ」

「それは担架」

 割とありがちなボケツッコミだ。

「たとえばさ、寺山修司『マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや』って短歌あるやん。あれ、下の句はいらなくね?」

「いや、その部分があるからその句は意味があるんで…」

「意味を持ちすぎなんだよ。だったら、『古池や蛙飛び込む水の音身捨つるほどの祖国はありや』でもいいのかよ。芭蕉の句は、意味を語の外に置いている。だから、『マッチ擦るつかのま海に霧ふかし』で、問題がなくて、美しくて、こわい」

「言われてみるとそうですね。じゃあ、石川啄木の短歌なんかも」

「『ふるさとの訛なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく』は、『ふるさとの訛なつかし停車場』だな。「ていしゃば」じゃなくて「ていしゃじょう」と読むことになるけど」

 おれたちは、いくつか考えてみた。

『幾山河越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく』(若山牧水)

「幾山河今日も旅ゆく越えて行く」

『最上川逆白波のたつまでにふぶくゆうふべとなりにけるかも』(斎藤茂吉)

「逆白波ふぶくゆふべの最上川」

『瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり』(正岡子規)

「藤の花たたみの上に届かない」

『清水へ祇園をよぎる桜月夜今宵逢ふ人みなうつくしき』(与謝野晶子)

「清水へ祇園をよぎる桜月夜。これ本当に下の句いるのか?」

 即解答だった。

 千鳥紋ちどりもん先輩はこんなのを尋ねた。

『「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日』(俵万智)

「う………えーと………、おいしいな、今日はサラダの記念日だ」

「それじゃ小学生よ」と、千鳥紋先輩は言った。

「それはともかく、寂しいなーとか、きれいだなーとか、短いなー、という気持ちは基本的になくてもいい情報なんだよ。ま、おいしいなー、はあってもいいことにしといて。だから、こわい話は淡々と語られるべきなんだ。こわいぞー、とか、こわいだろー、うわーこわい、みたいなのはいらない。しかし、そういった気持ち、勘定の情報を支持する一定数の人間もいて、石川啄木その他の叙情短歌は愛唱されているから難しいな」

 窓の外、まだ大雨の、夏の午後。

 見捨つるほどの部活はありや。

 確かに下の句、いらないなあ。


※作者注:述べられている意見は、作中の登場人物の意見で、作者の意見ではありません。

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