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イベント屋へようこそ ~恋愛のご相談も承ります~  作者: 山之上 舞花
第1章 一目で恋に落ちる春大作戦!
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第1話 依頼解決のための下準備! その3

三十分ほどしたらまた数人が事務所に戻ってきた。彼らは顔を見せてから「先に着替えてきます」と言って、すぐにドアの外に消えていった。彼らはきな臭いことへの対処班だった。


十分ほどで着替えが終わった彼らが姿を見せた。そして彼らは依頼主への報告書を書いた。それが終わるとバイト代の手続きをして帰って行った。


その彼らと入れ違うように最後の三人が戻ってきた。社員の雲野(うんの)とバイトの相馬と結城。三人ともここを出て行った時のままの、美麗な格好をしている。この格好で大立ち回りをしたとは恐れ入る。


などと思っていたら雲野の唇が笑みの形に動いた。


「先に着替えていいかしら。汗をかいたことだし、シャワーも浴びたいのよね」

「もちろん、どうぞ。どうぞ」


俺の返事に雲野は蠱惑的な笑みを浮かべて結城を促して、部屋から出て行った。残った相馬が俺たちのそばに来た。


「今回は危なかったですよ。見てください、これ」


彼はそう言って着ていた上着を脱いで広げた。そこには何かを突き刺したような小さな穴が開いていた。


「この特殊素材の服じゃなかったら、今頃ここにはいなかったかもしれないですね」

「とかいいながら、わざと刺されたんじゃないだろうな」


そう言ったら相馬がニヤリと笑った。


「やだなー。俺がわざと刺されるわけないじゃないですかー」

「そうよね。そんな危ない状態になったのなら、避けきれないこともあるわよね」


智絵がその状況を思い浮かべたのか、神妙な顔で言った。


「違いますよ。狙ったに決まっているじゃないですか。この服なら切り裂かれることはないだろうから、敵の無力化のために隙を見せるようにしてナイフを突き刺させて奪い取ったんですよ」


爽やかな笑顔で悪びれた様子もなく言う相馬に、呆けた視線を智絵は相馬に向けた。


だろうな。こいつはそういうやつだ。大方、結城を狙ったやつでもいて、そいつの心を折るようなやり方で、無効化したのだろう。見た目は細身で武道なんかやったことはありません、という感じに見える優男の相馬。そんなやつが瓦の十枚割りなんて、軽くできるなんて思うかよ。


「というわけで、危険手当もよろしく」


相馬は言うことは言ったとばかりに、脱いだ上着を持って部屋を出て行った。残された俺たちはいつものこととはいえ、飄々とし過ぎている相馬のことを何も言わずに見送った。それから、部屋の視線が俺に集中した。


「社長! 本当にこれで最後なんですよね。もう、危ないことには関わらないんですよね」

「そうだっていってんだろ!」


怒鳴るように返事をした俺は、悪くないと思う。



改めて着替えを終えた、雲野と相馬と結城が現れた。何度見てもすごいと思う。さっきまで蠱惑的な笑みを浮かべていた雲野は、長い髪を一つに纏めてメガネをかけた地味な姿になっている。三人とも元はいいのに、普段は気にも留めないんだよな。なんともったいないことか。


三人から披露宴後の、新婦の妹誘拐未遂事件の報告を受けた。それが終わると、俺は相馬と結城を促して、応接セットのほうに移動した。二人はいつもと違う感じに少し不審そうに俺のことを見てきた。


「どうしたんすか、社長。こっちで話すなんて」

「そうですよ。いつもはデスクに呼びつけて話すのに」

「あっ、わかった! もうきな臭い依頼は受けないと言ったのに、まだあるんでしょ。だから皆から隠れるここで話すんだ」

「そうなんですね。駄目じゃないですか、社長。お客様に押し切られちゃあ。このままずるずるといったら、いつかは危ない人たちにいいように使われるようになりますよ」

「おい! そんなわけあるか! ちげーよ。ちょっとお前たちと真面目な話がしたかったんだよ」


俺の言葉にますます不審そうな顔をする相馬と、驚きに目を見開く結城。信用ねえな、俺。苦笑を浮かべて二人を見ると、もっと変な顔をされた。


「やめてくださいよ、社長。真面目な話の振りで、無茶ぶりするつもりなんでしょう」

「だから、違うって。あのな、お前らは()、大学の三年生だろ。これからどうするか決めているのか、っていう話だよ」


俺の言葉に相馬と結城は顔を見合わせた。俺からこんな話が出ると思わなかったのだろう。


「どうって、普通に就活して就職するつもりです」


相馬が当たり前のように答えた。結城も隣で頷いている。俺は二人の目を見てから確認をする。


「一応聞くが、この会社に入る気はないんだよな」

「もちろん」

「最初にお断りしたとおりです」


二人の働きに俺は卒業後にうちの会社に入らないかと誘ったんだ。返事は今と同じに断られた。これはこの二年、変わらなかったものだ。それなら……。


俺は隣に置いておいた紙袋を二人の前に差し出した。


「二人はこの会社を就職先として考えてはいないかい」


紙袋を手に取った二人は中身を出し、それぞれの会社のパンフレットを一瞥して俺に視線を寄こした。これはどういうことだと、眼が言っている。


「実はそれぞれの社員のことで依頼が来ている。フォロースタッフとして、この会社に入ってくれないか」


相馬と結城はお互いの顔を見あったあと、俺に言ってきた。


「もう少し詳しく聞かないと、なんとも言えないな~」

「そうですよ。こんなことで就職先を決めたくないですから」


そう言いながらも、二人の瞳は興味の色をたたえていたのだった。


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