第1話 依頼解決のための下準備! その2
その会社のパーティーはもちろん成功したとも。新商品も好評で、会社はそのおかげで持ち直すことが出来た。
そして、俺の会社もこの事で少し業界に知られるようになった。
だけど、パーティーを成功に導いたのは、俺の実力だったわけじゃない。協力者がいたからだ。それは依頼してきた会社をリストラされた者たち。彼らのほうから協力したいと申し出てくれたんだ。
リストラ組の彼らは、彼の会社で高い地位にいた者たちで、会社の窮地を知り自分達から辞めたという。それでも彼らは会社のことを気にして、どこからか30周年パーティーの企画をうちに頼んだと知ったそうだ。
このパーティー後、リストラ組の人たちと非常勤契約を結ぶことになったのは、また別の話だな。
おっと、話が逸れてしまったか。えーと、そうそううちの会社が、人材派遣みたいなことをしていることについてだよな。
これはこの30周年パーティーの成功により、新たにできたお客様からの依頼が関係をしていたんだ。そのお客様から依頼されたのは、ある新商品の発表の時に人が欲しいと言われたことだ。この言い方はしたくないけど、『サクラ』の用意の依頼だな。『自分の会社の社員を使えよ』と言いたかったが、それはできなかったそうだ。ライバル会社が視察にくるのを見越してのことだったから。一応イベントに関することならなんでも相談にのると謳っていたから、断りにくい案件ではあった。
この時は俺はまだ大学生でもあったから、困ったのは確かだ。だけど、その会社からかなり破格の依頼料を提示されたんだよ。一緒に会社をやっている奴に相談した結果、臨時のバイト募集を大学に出すことにした。それから、例の非常勤の方達もいい案を出してくれた。
ある程度バラバラな年齢で人数を集めることが出来た。そして『サクラ』の依頼も、無事にライバル会社に気付かれることはなく、終えることが出来た。
ここでまたイベントの依頼に『人材派遣』が加わることになったんだ。この時の会社の社員から新たな依頼をうけたから。それは結婚式に遠縁及び友人として何人かの出席をというものだった。最初は断ろうと思ったのに、彼女の事情を聞いたら断りにくくなってしまったな。そこに同性ということもあり、智絵や女性社員が引き受けたいと言い出した。いろいろ考えた結果、策を弄して出席者の身バレがしないようにしたんだ。結婚式後ひと月以上経って、偶然会った新郎側の出席者に、話し掛けられた人がいたそうだけど、別人だと相手は思って『人違いでした』と、謝られたと聞いた。それを聞いた俺は『さすがメイク班』と思ったんだ。
「それでは、これで失礼します」
普段着に着替えたバイトの人たちが挨拶をしている。今までのことを思い返していた俺は、はっとした。隙間から覗いて、バイトの人たちの姿を見て頷いた。彼らがあの結婚式に出ていた上流階級っぽい人たちだとは、誰も思うまい。どこにでもいる普通の人たちだったから。
何度見てもこのメイクはすごいと思う。化粧で雰囲気を変えるだけでなく、部分的に特殊メイク技術を用いて顔の作りを変えているのだ。大体ハリウッドで通用する技術をこんなイベント会社が持っているなんておかしいだろ。
まあ、これもハロウィンでの仮装が日本に定着してきたことが大きいか。
ん? ああん?
もしかして、数年前に依頼されたハロウィンパーティーが、世間的にここまで広がった原因じゃないだろうな。
いや、よそう。気にしたって仕方がない。
その時軽快な電子音が流れてきた。その音の主である、スマホをつかむと電話に出た。
『社長、終わりました』
「おう、ご苦労さん。それで、どうだった」
『やっぱり、狙ってきましたよ。新婦の妹を誘拐しようとしました』
「それで?」
『もちろん、返り討ちにして捕縛しました。ちゃんと無関係な人を目撃者にしていますから、言い逃れは出来ないでしょう』
「よし、それで、あとどれくらいで戻ってこれるんだ」
『警察からの事情聴取は済みましたので、これから戻ります』
「他の奴らは?」
『大丈夫です。たまたま通りがかった大学の柔道部員と、空手を習っているカップルの事情聴取も終わりましたから。柔道部員なんて、警官になるつもりだと話して、事情聴取をしていた警官と意気投合していましたよ』
「それはなにより。じゃあ、気をつけて戻って来いよ」
電話を切って前に座る高杉に俺は言った。
「無事に乗り切ったみたいだぞ」
「さすが、雲野だな。念のために配置していた彼らも、いい働きをしたようですね」
スピーカーにしていたから、報告の内容を高杉も聞いていた。高杉も笑顔で頷いている。俺は軽く伸びをすると高杉に言った。
「さあ、これできな臭い依頼は終わりだ。これからはこういう依頼は受けないからな」
「本当ですか」
この前から本気で言っているのに、高杉は胡乱な視線を向けてきた。俺は笑顔で言ったんだ。
「おいおい。イベント屋の業務としておかしいと言ったのはお前だろ。これからは本来の健全な業務だけに、するだけだぞ」
「でも、これからくる依頼主が納得しますかね。実績があるとか言い出してきませんか」
「そんなの知るか。こっちはボディーガードを生業にはしてないぞ。そういうのが欲しければ、そう言ったところに依頼しやがれ!」
俺の言葉に高杉は、苦笑いで答えたのだった。