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イベント屋へようこそ ~恋愛のご相談も承ります~  作者: 山之上 舞花
第2章 夏の恋はクロスオーバー
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第1話 依頼は終わりじゃなかった その2

智絵の雄たけびに固まっていたら、智絵がギロッと俺のことを見てきた。


「えーと、智絵さんや、ちょっと状況確認をしたいんだけどいいかな」

「何よ」


不機嫌に返してくる智絵。これは相当頭に血が上っているな。


「まあまあ、すこーし気持ちを落ち着けてくれると嬉しいんだけどな。っと、その前に俺は喉が渇いたからコーヒーでも飲もうかと思うんだ。智絵はどうする」


智絵を落ち着かせる意味もあって、そう言ってみた。智絵が声を掛けてきたタイミングは、俺が上条母の依頼の件をどうするかということを、ひと段落するのを待っていたからあの時だったのだろう。

智絵は息をフッと吐きだした。


「私もコーヒーにするわ」


俺が立ち上がったら、気がついたように智絵が言った。


「あっ、私が淹れてくるわよ」

「いいから座っててよ。俺は少し体を動かしたいから、俺に淹れさせて」


そう言って俺は給湯室に歩いて行った。コーヒーをセットして落ちるまでに考える。


智絵が書いた依頼書。あれのとおりなら、由々しき事態だ。軽い軟禁って、桐谷氏は何してんだよ。そういえば萌音が桐谷氏のところに行ってから、智絵と待ち合わせて食事に行くだの、泊まりに来たって話を聞いていなかったと思い出す。


それもそうだが、もっと肝心なことがあるじゃないか。何やってんだよ、桐谷氏! 萌音と一緒に暮らせて舞い上がったのかもしれないけど、肝心な告白してねーのかよ。そんで、彼氏面か。これじゃあ、智絵が怒ってもしかたがないか。


というか、俺もだんだん腹が立ってきたんだけど。一応萌音はかわいい後輩であるし、親戚でもあるんだからな。


よし、ここは一丁俺と智絵で、桐谷氏を懲らしめることにするか。


コーヒーをマグカップに淹れて、智絵のもとに戻った。智絵は応接セットのほうに移動していた。智絵の前にカップを置いたら「ありがとう」と言って口をつけた。智絵も俺も基本は何も入れないブラックが好きだ。疲れている時なんかは、カフェオレを作ることもあるけど、普段は何も入れないで飲む。


「う~ん、いい香り。心が安らぐわね」

「で、少しは落ち着いたか」

「ええ。ごめんね、大輔」


智絵が珍しく俺のことを名前で呼んだ。会社では俺のことを社長としか呼ばないのに。まあ、今は二人しか会社に残っていないからだろうけど。というか、弱気になってんのか。


そう思って智絵のことを見つめていたら、智絵の瞳が潤んできた。ポロリと一粒涙が落ちて、そのことに智絵は驚いたように瞬きを繰り返した。俺の横に置いてあった箱ティッシュを、智絵に渡してやる。二枚ほどティッシュを取り出して、智絵は目に当てた。


「やだなー。なんで涙なんて出てきたのかしら」

「そりゃあ、寂しかったんじゃねえの」


俺の言葉に智絵はまた瞬きを繰り返した。


「寂しかったの、私?」

「そうなんじゃねえの。萌音とこんなに長く顔を見て話さなかったのって、知り合ってから初めてなんじゃないか。あと心配のしすぎってのも、あんだろ。萌音もギリギリまでどんな状況なのか、連絡してこなかったんだろうし」


智絵はフッと笑った。そしてテーブルの隅に置いておいたスマホを取り上げた。


「やだな~、もう。大輔にはお見通しなのね」

「そんなことねえよ。お前が泣くまで気がつかなかったんだ。これじゃあ彼氏失格だろ」


そう言ったら、智絵は困ったような笑みを顔に浮かべた。


「ううん。私もね、萌音から連絡がこないのは、桐谷さんとうまくいって楽しくて、私のことに構う暇がないんだと思っていたの。そのことを薄情だなって思ったりしていたのよ。こんなことなら、私からガンガン連絡するんだったわ」

「まあ、過ぎたことを言っても仕方ねえよな。それよりももっと建設的な話をしようぜ。そんで萌音はなんて言ってきたんだ」

「これよ」


智絵がメッセージを開いて俺に渡してきた。見ると萌音から何通もメッセージが来ていた。智絵の了承を得て、メッセージの確認をしていく。どうやら他の人の目がないところで書いたらしくて、あまり長文なものはなかった。始めのメールに、そのことも書いてあった。『これから細切れでメールを送るから「最後」の言葉がつくまで返信は待って』という言葉を書いていた。


メッセージを読み終わって、書いてあった内容に怒りが湧いてくる。おのれ~、どうしてくれようか。


「ねえ、どうすればいいと思う。依頼書をだしたわけだから、皆にも協力してもらうんだよね」

「いや、それなんだけどさ、この件は俺たち二人でやらないか。たぶん桐谷氏は舞い上がりすぎて、萌音のことについて正常な判断が出来ない状態だと思うんだ。でなけりゃこんな束縛軟禁男になっているわけがないと思う」

「プッ。束縛軟禁男」


おっと、智絵のツボにはまったのか、吹き出してくれた。よかった。


「わかったわ。作戦は任せるから、ちゃんと懲らしめようね」


智絵が笑顔を浮かべて言った。うん。智絵は笑っているほうがかわいい。


よし。これで帰れるから、どっかでおいしいもんでも食べることにしよう。それからうちに一緒に帰ることにして、一晩中慰めてやることにしよう。

うん、うん。そうしよう!



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