第4話 報告書作成
第4話 報告書作成
それぞれの案件が無事に決着を迎えて数日後。俺は報告書の作成に勤しんでいた。
まずは岡本社長に依頼の報告書を作成した。毎月報告書は作成していたけど、これでこの依頼に関しては最後になる。なので、総まとめとして依頼を受けてからのことを書いていくことにした。
まずは菱沼忠興と上条聖子の、依頼を受けてから一年間の動きなどを簡単にまとめる。それから告白の時のことも詳細に書いていく。
うまくいった後のホテルのことも、一応言及しておく。飲ませ過ぎはいかんだろ。せっかくのお膳立てだったのに、ただのお泊りとなってしまったからな。
あとは、変な横やりが入らなければ、無事に結婚までこぎつけるだろうと、付け加えておく。
よし、岡本社長にはこれでいいだろう。次に桐谷姉弟宛ての報告書を作成する。こちらも月々の報告はしていたけど、これが最後になる可能性が高い。なので、始まりから書いていくことにした。
こちらも、依頼を受けてから桐谷尋昇氏の気になる相手の特定、その後協力者を得てからの桐谷氏のアプローチが、効果がなかったことを書いた。相手である萱間萌音が、かなりの鈍感であることも付け加えておく。
それから、萌音の住むマンションで欠陥住宅による水漏れがおこり、桐谷氏が彼女を一時避難として自宅に連れて行った。と、書く。
……なんかこれってヤバくないかな。まあ、いいか。事実は事実なんだし。一応萌音も嫌がってはいなかったものな。
それで、結局しばらくは桐谷氏と同居することになった。と。
えーと、告白はしたんだっけ?
したんだよな。
まあ、二人で仲良く出勤をしているから、いいか。もういい大人なんだし。
それから、楽しそうに過ごしていると、付け加えた。
書き上げたものを読み返して、なんか釈然としないものを感じた。でも、事実をちゃんと報告しているわけだから、おかしいところはないわけだ。
ああ、そうだ。しばらくは見守りの方向でいった方がいい。と、付け加えておく。
とにかくあとは桐谷氏が萌音との仲を進めて、妹弟に恋人が出来たと報告すればいいわけなんだ。
あとはこの報告書を読んだ二人がどう判断するかだよな。
桐谷姉弟への報告書を書き上げた俺は、もう一つの定期連絡の報告書を書き始めた。
こちらもこの一年のまとめを書く。依頼を受けた二年前に比べても、二人の様子には変わりはない。だけど、少しずつ変化は起きていた。
それぞれ別の案件に関わらせたことで、一緒に居る時間が少なくなった。お互い何をしているのか知らない時間が出来たことで、焦りのようなものが出てきた。今までも別々に行動することがあったはずなのに、自分の知らない人間と会っているということが、焦燥につながったのだろう。
だけど、二人は自分の焦燥感に気がついていないようだった。何かきっかけをと思っていたところに、あることが起きて彼はやっと気がついたようだ。
先日、岡本社長の案件の最終確認で、彼女が協力者と会っているところを、偶然彼が目撃した。すぐさまそばに来て協力者に対して、威嚇するようなことをしたという。それに彼女が仕事の話をしていただけだと、怒ったそうだ。
こちらに一緒に戻ってきてお互いの顔も見ないし、不機嫌丸出しな態度でいた。それを指摘したら「なんでもない!」と、口をそろえて言ってきた。
岡本社長の案件の協力者の増岡こと、こちらの元バイトで彼女の監視員の彼の報告では、意識のレベルが変わったと言っていた。彼らは前に提案して置いたとおりに行動するのなら、夏には交際を始めるだろう。どちらにしろ、もう大学の四年生である彼らには、こちらのバイトは常時ではなく時間がある時のものだけになると伝えてあるので、こちらは少し離れた状態での経過観察に移行することになる。
皆様がご心配したとおりにひねくれまくっていますが、お互いが一番大事だということは変わらなかったようです。あとはきっかけだと思います。
それと前にご提案した元凶への荒療治のことも、合わせてお考えくださいますように、お願い申し上げます。
こちらも書き上げた報告書をもう一度読みなおした。最後の提案のところにもう少し言葉を足して、保存をする。
パソコンを閉じながら、俺はため息を吐き出した。
本当に縁とは大切だよな。今回のことは増岡がいい働きをしてくれたと思う。
彼は俺の後輩で相馬と結城の先輩にあたる。ただ、丁度入れ替わりになったから、顔を合わせたことはなかったんだ。岡本社長とは、増岡が内定をもらった時点で、こちらから連絡を取らせてもらった。社則を確認したからで、増岡のバイトを公認してもらうことが目的だった。もちろん常時バイトに来いというわけではなくて、サクラとして人数動員を依頼された時のためだ。そうしたら、俺の話を聞いた社長が面白がって、自分の家族や重役の妻たち、退職が決まった社員や産休育休の社員などに、こっそりと話をしてバイトに登録させてきた。月に一度あるかどうかなんだけど、みんな楽しそうにしているんだよ。
こちらは助かったけど、いいのか? これは?
とにかくこれが縁で菱沼氏と上条さんのことを依頼して貰えたんだ。本当に、どこに縁が転がっているかはわからないもんだと思ったよ。




