表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イベント屋へようこそ ~恋愛のご相談も承ります~  作者: 山之上 舞花
第1章 一目で恋に落ちる春大作戦!
11/22

第3話 案件『一目で気に入りました♪』 その3

◇桐谷氏の意中の女性


桐谷氏の意中の女性、萱間萌音(かやまもね)は、俺と智絵の知り合いだった。俺の高校の後輩であり、智絵の親友。いや、もっと言うと萌音と俺は親戚という間柄なんだ。だから萌音に今、彼氏がいないことは知っていた。


智絵が言うように、萌音の気持ちを会社の関係者から聞き出すことをしなくてすむのなら、それに越したことはない。あいつは普段はかなりの鈍感なくせに、いらんところで鋭くなるからな。それなら親友と恋バナをして、気持ちをポロリと言わせた方がいいんだろう。


「それより、今回は早いじゃない。まだひと月よね。対象者の相手が早期にわかったのはいいけど、早すぎないかしら」


智絵が画面に出ていたもう一つのデータ、桐谷氏のものを拡大させて読みながら訊いてきた。俺は先ほど相馬と来た松崎という男の素性と、このデータのことと、彼が依頼されていることがこっちの案件にも絡んでいると話した。話を聞いた智絵は、顎に手を当ててしばらく考えていた。


「ということは、その松崎さんに協力することにしたのね」

「まあな」


そう答えたら智絵は俺の額にデコピンをかましてきた。


「いてーよ。何すんだよ」

「何すんだはこっちの台詞。まーた余計なことに首を突っ込んで! うちはイベント屋であって調査会社じゃないって、何度言ったらわかるのよ」


言い返せずに黙った俺に、しばらく睨むように見つめていた智絵の表情が緩んだ。


「まあ、いいわ。その件もこちらと無関係なわけじゃないみたいだし。で、協力って何をするの」

「ひとまずは必要なことの情報の共有だな。彼も専門家に調査を依頼するといっていたから、それが済まないと話は進まないんだと」

「そう、わかったわ。それならしばらくはこちらの件に集中できるのね。それで、桐谷氏の意中の人が萌音だとして、その先はどうするつもりなの」


智絵が頭を切り替えて訊いてきた。


「まずは萌音の気持ちの確認だな。桐谷氏のことをどう思っているかだ。嫌いな相手との仲を勧めるようなことはしたくないからな」


俺の言葉に智絵の視線がパソコンに向いた。桐谷氏のデータを見てから、智絵は「大丈夫よ」といった。


智絵が萌音から、入社してからこの三年間に聞いたことを話しだした。どうやら桐谷氏のことを何度かぼやいていたらしい。萌音が新入社員として入った時に、桐谷氏は主任だったそうだ。その桐谷氏の班に入った萌音。入社二年目には桐谷氏の補佐に入ることになった。萌音が入社三年目の去年、桐谷氏は三十二歳で課長に抜擢されて、萌音もそのまま課長補佐の位置に収まったそうだ。


仕事上の相性は抜群みたいだな。


で、肝心の萌音の気持ちだけど、萌音は最初から桐谷氏に好意を持っていたようだ。今まで知らかったが萌音はかなりの面食いだそうだ。爽やかイケメンの桐谷氏は、もろドストライクだったらしい。それに桐谷氏の性格も、もろ好みだったそうだ。


ただ、なんか桐谷氏の最初の頃の対応が悪かったらしくて、萌音の桐谷氏の印象は悪いようだ。


そのどこが大丈夫なのだろうか?


だけど自信ありげな智絵に、萌音のことは任せることにするか。


「ところで、こちらの案件はいつまでに片を付けるつもりなの」

「ん~、こっちも急ぐ必要はないんだよな。妹たちの訴えにもあるように、桐谷氏は妹が大学に入り同居するようになってから、女を連れ込んだことはないし、朝帰りもしたことはないらしいんだ。ということは、来年の春に弟が卒業するまでは、つき合う気はないんじゃないかな」

「そう、わかったわ。じゃあ、まずは萌音と久しぶりにパジャマパーティーでもすることにするわね」



萌音と楽しいお泊り会をしてきた智絵は「あんの天邪鬼。こうなったら桐谷氏をけしかけて、落としてもらいましょう!」と、何故か息巻いていた。


それでも、萌音が桐谷氏のことを好きなことは確証を得てきたようだ。


夏が過ぎたところで計画を実行に移し始めた。まずは会社での協力者。これは同じ課のお局と呼ばれる女性社員にお願いすることにした。既婚者で子供もいる四十代の彼女は、桐谷氏が入社した時の教育係の一人だった。桐谷氏だけでなく萌音のことも目をかけてくれている人だそうだ。


それとなく桐谷氏にはっぱをかけてもらったが、萌音の鈍感さを甘く見ていた。食事に誘われても、飲みに誘われても、課の慰労会だと思ってみんなを誘う。協力者の女性が『天然なのか、わかっていて躱そうとしているのか迷うほどだ』といっていた。次第に桐谷氏の誘い方があからさまになって、周りも気がついてきているのに、萌音の対応はぶれなかった。おかげで同情された桐谷氏に協力しようという女性社員が増えていった。


松崎の方の案件は調査をした結果、モトミヤ株式会社の社長も巻き込む話になってしまった。そして利害が一致した結果、萌音には荒療治をすることが決定した。そのための根回しを智絵が率先しておこなっていた。


依頼を受けてから一年が経つ。依頼主の妹は婚約者が転勤で移動になることが決まったので、ついていくことになった。結婚式は後日あげることにして、籍だけは先にいれたそうだ。弟も無事に卒業をして、親が暮らす家に戻っていった。


それじゃあ、用意は整ったことだし、始めることにするか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ